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魔法使いの世界にて  作者:
三章 マジックバトルトーナメントにて
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特殊仕様のルールにて②

「まずはあっしが隠れるために必要な魔法を使いやす。もちろん攻撃魔法じゃないので安心してくだせぇ」


 そう言って、ライチはさらさらとダブルマジックで文字を刻む。そうして力を宿した魔法をすぐに発現させた。


「ではまず一つ目。『サイレンス!』」


 発現させた魔法は、この闘技場のフィールドを包み込むほど大きな円形となる。高さは先程指定した五十メートルほどで、まるで色の付いたガラス張りの広い空間に閉じ込められたような感覚であった。

 さらに、この結界に包まれてからは観客の声が一切聞こえなくなる。それがこの、『サイレンス』という魔法の本質であった。


「これで観客との相談は出来なくなりやした。ガル君はこの防音空間から外には出ずに、あっしを探してもらうでやんす」

「なるほどな。了解した」


 ガルが頷くと、ライチは続けてもう一つの魔法を解き放つ。


「それではあっしが隠れるので、少しばかり待つでやんす。『ダークネス!』」


 その瞬間に辺り一面が暗闇で覆われる。地面の形すら見えず、また何の音も聞こえないこの状況は、長時間居れば間違いなく発狂するレベルに不気味であった。

 しかし、隠れるためにそこまで長い時間を要する事も無かったようで、ガルの視界はすぐに元の状態へと戻っていく。

 ガルは取りあえず辺りを見渡してみると、暗闇になる前と変わった所は何もなく、そんなフィールドでライチの姿だけが消えていた。


「審判、アンタは隅っこで結界を張って動かないでほしい。今からライチをいぶり出す!」

「ふえぇ!?」


 審判の返事を待たずして、ガルはすぐに文字を刻む。


「フライ!」


 フワリと宙に浮いたガルが、一気に上昇してライチの張った結界のてっぺんまでやってきた。サイレントの結界に背中をくっつけるように停止した後、再び両手で文字を刻む。


(このただ広いだけで隠れる所が何もない場所でかくれんぼをする場合、真っ先に思い浮かぶのは透明化の魔法だ。透明になってから常に俺から遠い位置に移動し続ければそう簡単には見つからない。だから、こいつでいぶり出す!!)


「フレイムアロー!」


 両手の魔法おを同時に解き放つ。すると、ガルの周囲にとてつもない量の炎の矢が出現した。その数は軽く百本を超えている。


(どこかに隠れているなら逃げ場のない魔法でフィールドを攻撃するのみ! 行け!!)


 ガルが杖を振るうと、周囲の矢は一斉に降下を始める。それは正に火の雨だ。大量の炎がフィールドに降り注ぎ、地面や壁に激しく激突した。

 客席に張られている結界にもぶつかるが、威力は低いので壊れる事はない。だが、その光景は圧巻であった。ガルは絶え間なく火の雨を降らし続け、客席の結界にぶつかっては激しい音と火花を散らす。観客はその激しい攻撃に口を開け、中には恐怖する者もいた。


 ライチの張った『サイレンス』の結界は基本時に音を遮断するだけである。故に、炎の矢は彼の結界をすり抜け客席の結界にぶつかるのだ。そして、この光景をガルは目を皿のようにして見つめていた。

 すこしでもおかしなところは無いか、チェックしているのである。

 ガルは透明化したライチを探すほかに、もう一つ確認したい事があったのだ。それが、幻影魔法による物質の確認である。

 早い話が、この闘技場自体がライチの作り上げた幻覚なのではないかという可能性だ。

 ここのフィールドの直径は大体五十メートルほどである。それを幻覚で四十メートルほどに収縮して、壁の裏に隠れるという可能性も考慮しているのだ。

 しかし……


(くっ……特におかしな所が無い……)


 降り注ぐ炎の矢は、幻覚によってすり抜ける所も、透明となった何かにぶつかる事もない。ただ地面を抉り、壁を焦がすだけである。

 そして、ついにガルは攻撃の手を止めた。


(これが一番見つける可能性の高い方法だったが……他にも考えはある!)


 そう思い、結界の中で縮こまっている審判の元へ降りてきた。


「何分経過した?」

「に、二分経過したので、残り三分です……」

「わかった。一分経過するごとに教えてくれ」

「わ、わかりました」


 ガルの攻撃を目の当たりにして、ガタガタと震えながらそう答える。


「じゃあ結界を解いて、立ってくれないか」

「え……? あ、はい」


 審判は言う通りに身を守っていたバリアーを解除して、怯えながらガルに近付いていく。


「マジックセイバー!」


 ガルが杖に鋭い刃を付与して、審判に刃先を向けた。


「ふええぇ!? 何するんですか!?」


 ガルは大きく振りかぶり、そして審判の『影』を突き刺した!


(先ほどの攻撃を凌いだのなら、単純に審判の結界の中に潜んでいたという事だ。そして目に見えない場所は、この影のみ!)


 ガルは一回戦で見た。先鋒のセレンと戦った相手が、影を攻撃していたのだ。魔法なら影に潜む事も、操る事もできるはず。

 しかし……


「……反応なし、か……」


 何事も起こらないため、ガルは再び考える。


「いや待てよ。人の影はもう一つある!」


 自分の影を見て、ガルはハッとした。空中に浮かび上がって炎の雨を降らせた時は、自分の影の位置を把握していなかったのだ。

 ガルは自分の影に向かって、セイバーを突き立てた!!


「……どうだ!?」


 だが何も起こらない。


「さ、三分経過しました。残り二分です……」


 審判のカウントにガルは焦りを感じ始めた。


「審判、フライとバリアを使ってくれ」

「へ?」

「この下を調べるから、地面を吹き飛ばす!」

「えぇーー!?」


 文字を刻みながら空に上昇するガルに、慌てて審判はついて行く。


(地面の中は恐らくフェイク。けど、念のため調べておいた方がいい)


 一定の距離まで浮かび上がったガルは、魔法を発現させる。


「エクスプロージョン」


 ぽいっと地面に放り投げ、その後すぐにマジックバリアを発現させて爆発に備える。

 不気味に点滅する爆弾は、闘技場のフィールド中央に落ちた瞬間に激しく光る!


――ズガアアアアアアアアアアアアアアアアン!!


 とてつもない爆発に視界が遮られる。

 グルリと観客席に周りを囲まれているこの空間内で強力な爆発が起こったことで、その爆炎と地面の土が一気に巻き上げられていた。恐らくバリアで身を守っていなければ、その煙とはじけ飛ぶ土で体中が真っ黒になっていた事だろう。

 強大な爆発で巻き上げられた土煙は遥か上空まで立ち昇り、闘技場の真上の空に巨大なキノコ雲を作っていた。


「エアブラスト!」


 ガルは風の魔法を使い、周囲に立ち込める煙を一気に上空まで巻き上げ視界を晴らした。いつまでも煙が晴れるまで待ってはいられないからだ。

 そして見下ろした地面は、おおかた予想通りとなっていた。

 恐ろしいほどの爆発によって地面はクレーター状となり、しかもその中心は四、五メートルほどの深さまで抉り取られている。

 ガルはその巨大なクレーターの中心に静かに降りて、周囲を見渡した。

 そこは何もない。ただ抉られた地面と、爆発によって赤黒く熱を帯びた土が広がるのみで、ライチの姿どころが、石ころさえも落ちていなかった。


「四分経過しました。残り一分です」


 となりにいる審判が時間を告げる。

 もうガルには探せる場所は残されていなかった。


(どこにもいない。もしかして確認し忘れたルールの盲点があって、俺の考えの及ばない所に隠れているんじゃ……)


 疑心暗鬼になる。

 それだけ今のガルには余裕がなかった。


「残り三十秒です」


(もう俺は全てを調べた。残っている可能性は審判である本人に成りすましているくらいだが、それだと審判が二人になってしまう……いや、待てよ……?)


 ガルは審判の姿をジッと見つめる。

 そして、何かにハッとした。


「時間ですね。ではこの勝負、ライチ選手の勝利――」

「――ちょっと待ったーー!!」


 ザシュッ!!

 審判が宣告するのと同時に、なんとガルは審判をセイバーで切り付けた。

 すると……


「んぎゃああああああ!?」


 まるで着ぐるみを引き裂いたかのように、審判の姿が真っ二つに割れるとその中からライチが出てきた!


「むおおおおお~~!? 痛てえええええ!!」


 そして大げさにゴロゴロと地面をのたうち回る。


「やっぱりそうか。アンタは最初から審判に成りすましていたんだな。審判に化けると二人になってしまうと無意識に思いがちだが、本物を魔法でどこかに隠してしまえば問題はなくなる。ルール上では審判を結界の外に出してはダメと定めてはいなかったからな」

「ぐぬぬぬぬ……さ、さすがガル君でやんす。しかしこの勝負はあっしの勝ちでやすね」


 ライチは身を起こすと、ニヤリと不敵に笑った。


「なに? 見破ったんだから俺の勝ちだろ!?」

「いやいや、あっしは審判に化けるのと同時に、正確に時間を計ってやした。そして丁度時間切れと同時に宣告をした。つまりあっしの勝ちでやんす」

「それならやはり俺の勝ちだ。アンタが宣告をするギリギリで俺が暴いたんだからな」

「なっ!? あっしの方が早かったでやすよ!」

「いいや俺だ!!」


 ついに二人は言い争いを始めた。


「なかなか強情でやすね……ならこうするでやんす。審判のお姉さんは別空間に隔離してやしたが、今の試合は見えるようにしていたでやんす。だから本物の審判に勝敗を決めてもらうでやすよ!」


 そう言って、ライチは杖を軽く振るう。すると空間がパックリと開き、そこから本物の審判が出てきた。

 さらにライチは、このフィールド全体を覆っていた防音の結界を解除する。


「さぁ審判のお姉さん、堂々と宣告するでやんす! 勝ったのはあっしでやんしょ?」

「い~や、俺の方が僅かに早かった。そうだろ?」


 二人はジリジリと女性審判ににじり寄る。


「ふ、ふえぇ~……」


 そして女性審判は困り果てる。


「さぁ、どっちなんだ!?」

「早く答えるでやんす! さぁ! さぁさぁさぁ!!」


 二人の迫力に気圧される審判だが、ついに意を決したように片手を真っすぐに振り上げた!


「宣告します! ガル選手がライチ選手を見つけたのは、タイムオーバーと同時でした。よってこの勝負、引き分けとします!!」


 ブーブー!!

 観客席からはブーイングが巻き起こる。


「うわっちゃ~、引き分けでやすかぁ!? くぅ~~!! 千載一遇のチャンスを逃したでやんす~!」


 そう言ってライチは自分の顔を両手で覆い、そのまま空を見上げるように上を向く。その姿はとても悔しがっているように見える。が、しかしガルは見た。両手の隙間からニヤリとほくそ笑むライチの口元を……


(負けさえしなければなんでもいいって感じだな。くそっ……)


 ライチはペコリとお辞儀をして自分の陣地へと戻っていく。

 そんな様子を、ガルは眉を潜めて見つめるのだった……

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