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魔法使いの世界にて  作者:
三章 マジックバトルトーナメントにて
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努力家の悩みにて②

「はい、今回のテストのトップはグァバ君です。みんな拍手~」


 先生に名前を挙げられ、グァバは少し驚いた。

 魔法学園に入学して、グァバは期待とやる気を胸に勉強を頑張っていたおかげで成績はいつもトップ。先生からはいつも褒められていた。

 生徒からは称賛の眼差しで見られ、この頃の彼は優等生であった。


「また満点かよ。お前ほんと頭いいよな~」


 しかし、クラスメイトからそんな言葉を軽く投げかけられたグァバは、言っている意味が全く理解できなかった。


「頭がいい? 僕はただ予習と復習を毎日やっているだけだよ? 今回のテストはやる事をやっていれば誰でも満点は取れるレベルだった」

「はぁ!? なんだこいつ!! いい点とったからって調子に乗りやがって!!」


 そんなやり取りもあり、グァバは他の子供達とはあまり友好的な関係を築けてはいなかった。

 それでも彼は気にする事も無く、勉強をひたすら頑張った。

 正義の味方に憧れていた彼は、将来、特殊部隊に入って自分の頭脳を役立てたいと考えていた。

 そんなある日。実技で練習試合が行われた時である。グァバは筆記のテストでいつも点数の低い相手に敗北する事となる。


「やった~!! グァバに勝ったぞ!! お前って頭はいいけど実戦だと大した事ないんだな」


 テストの点数が悪い子にこんな事を言わたグァバは、とてつもない衝撃を受けていた。


「なっ!? そ、それはキミが授業で習った基本の型を守らないからだろう!? 動きがメチャクチャで予測できないんだ!」

「予測されたら意味ないじゃん。それに基本の型を崩して自分の使いやすいように改良しろって先生も言ってたし、勝ちは勝ちだろ」


 グァバはショックであった。成績の悪い子に負け、反論できない言葉で論破され、自分の何かが崩れていく気がした。

 彼はそんな現状を打破しようと、負けた原因を徹底的に解明しようと分析を始めた。そしてその結果は、さらに彼を追い込んでいく事となる。

 結局グァバはマニュアル人間だったのだ。計算できる事は完璧にこなすが、そこから少しでも外れたり、応用が必要となると途端に対応できなくなる。どうしていいのか分からなくなり、確実性がないと不安でたまらなくなった。

 彼は少しでも自分の計算に狂いが生じぬよう、対戦相手のデータを出来るだけ多く取り、自分の予測できる範囲を広げようという行動に出る。

 しかしそれでも、結果はほとんど変わらなかった。勝率は多少あがったが、依然として勝てない相手にはどうやっても勝てない状況が続いた。

 そして悩みに悩んだグァバは、一つの結論を出す事となる。

 それが、『天才には絶対に勝てない』というものだった。

 自分が予測してもその予測を上回る者。臨機応変に対応して、変幻自在に戦術を変える者。効率や常識に捕らわれず、予想も出来ない奇抜な発想をする者。それら全てを『天才』というカテゴリーとして、努力だけでは絶対に超えられない相手としたのだ……

 そしてそんな相手と戦う時は、自分の勝率は限りなく0に近いものと判断し、受け止めるようになっていった。

「は、はは……天才が相手じゃ仕方ないか……」


 両手で文字を刻みながらユラユラと立ち上がる。そして魔法を解き放つ!


「フライ!!」


 飛翔の魔法で浮かび上がると、グァバは真っすぐにセレンに突撃を開始した。

 しかしもちろん、二人の間にはセレンが設置した機雷が漂っている。


「マジックシールド!!」


 前方に盾を出現させて、グァバはそのまま一気に突っ込んで行く。


「……気でも狂ったの? クラフトボム」


 セレンが魔力で作り上げた爆弾を転がす様に落下させる。それが爆発すると、周囲に浮いている機雷も誘爆を始めた!


 ——ズガアアアアアアアアアアアアアアン!!


 爆炎で辺りの視界が遮られる。

 だが、その煙を突き破ってグァバが上昇してきた!


「!?」


 貼られた盾は半壊し、両サイドから吹き荒れる爆発は対爆性のあるマントのみで耐えきった。もちろんグァバの体は全身が悲鳴をあげている。しかし、それでも彼は捨て身の覚悟でこの爆弾の中心を全力で突っ切ったのだった。

 一瞬でセレンの目の前まで到達した彼は、手に持つ杖を捨て、彼女のローブをガッチリと掴む。


「くっ……この!」


 セレンはもがくが、死にもの狂いのグァバの力を振りほどく事はできず、二人はフラフラと空中を蛇行しながら高度を下げていく。そしてついに、グァバに押し倒されるように地面へ墜落して行った。


「あぅ……」


 地面に叩きつけられたセレンの抵抗が一瞬ゆるむ。その隙にグァバは一気に文字を刻んだ。


「うおおおっ!! マジックセイバァァァァーーー!!」


 ズンッ!!

 地面から伸びた光の剣が、セレンとグァバの体を貫いていた……

 二人は地面に転がり、痛みを堪えるように貫かれた腹部を押さえてうずくまる。


「はぁはぁ……やった……僕は天才にやってやったんだ!」


 グァバは地に伏せながら薄く笑っていた。

 そこへ審判が駆け寄って、二人を交互に見比べた。


「え~っと……この試合、両者戦闘不能と見なし、引き分けとします!!」


 そんな宣告に、場内は騒然となる。

 するとすぐにお互いの控え室で待機している医療担当の女性スタッフが二人を連れて闘技場を出て行くのであった。

 そしてグァバが控え室のベッドに横たわり、痛覚遮断インタラプトの魔法を施してもらっている間、カリンが不機嫌そうに話しかけてきた。


「アンタねぇ、あのセレンって子には絶対勝っておかないとダメでしょ! それなのにギリッギリで相打ちとかなんなの!?」


 治療を受けながらベッドに横たわる相手にも、この容赦のない言葉である。


「あの子は天才だった。僕の勝率はかなり低かったから、むしろ引き分けに持ち込めた事を褒めて欲しいものだよ」


 あっさりとそう言い返すグァバの態度に、カリンは眉をヒクヒクと引きつらる。


「これだからアンタの闘い方は見ててイライラすんのよ……あのねぇ、戦いにおいて相手の行動を先読みするのは大切だけど、決してそれで勝敗が決まるなんて事はないの! アンタはもっと必死になって最後の最後まで諦めずに戦い抜く事を覚えた方がいいわ。ちょっと自分が不利になったくらいですぐに自爆する癖は止めなさいよ!」


 しかしグァバは顔を背けてボソリと呟く。


「知った風な口を……それで負けたらそれこそ意味ないじゃないか」

「アンタは自分で自分の可能性を潰してるって言ってんのよ!!」


 カリンの口調が強くなる。それをリーダーであるリュウガンが止めに入った。


「もうよせカリン。こればっかりは本人の問題だ。周りが言ったところでどうにかなる話ではない。グァバも悪く思わないでくれ。カリンはお前を心配しているのだ」

「違うし!! 次鋒戦はライチとガルなのよ!? もう負けたも当然でしょ。だから先鋒戦は勝っておきたかったの!」


 カリンが小柄な男性を指差して喚き散らす。

 しかしライチと呼ばれた男はチッチッと指を揺らした。


「カリンちゃん酷いでやんす。これでもあっし、作戦を考えてきたんでやすよ? ここは大船に乗ったつもりで任せてくだせぇ」

「うん……まぁ任せるも何も、アンタの出番だから私達は見てるだけだけどね……」


 そんなやり取りをしていると、審判からの出場コールが聞こえてきた。


「出番でやすね。それじゃあ行ってくるでやんす」


 そう言って、ライチは控え室を出て行くのであった。

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