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魔法使いの世界にて  作者:
一章 黒不石にて
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旅する魔法使いとの出会いにて➂

 アイリスはふと疑問に思った。


「ねぇカイン。お風呂はどうしてるの?」

「そこに川があるじゃないですか」

「いや、まだ肌寒いんですけど……」

「しょうがないですねぇ、これだから現代っ子は。では魔法で木を切って適当に風呂でも作りますかね」


 やれやれといったポーズで小バカにするカインに、ムキーと面白い反応を見せるアイリス。


「確かアイリスは見張ってないと私が逃げると思っていましたね。では風呂は二人で入れるように大き目に作りますか」


 カインはハァ~、とわざとらしく深いため息を吐いて見せる。

 そんな素振りにアイリスが怒りでワナワナと震えた。


「二人で入るわけ無いでしょ……このセクハラオヤジ~!」


 こうして今日も騒がしい修行が始まるのであった。

 修行三日目。この日から修行は激化する事となる。

 いつものように午前中はブーストの練習をひたすらこなし、昼食後はダブルマジックの練習を行った。

 二時間くらいやっていただろうか。両手の動きで頭がパニックになり、またブーストの練習をしようかと思っていた時だった。


「アイリス、今日から実戦訓練をしますよ」、とカインが持ちかけて来た。

 ダブルマジックとブーストだけのつもりだったので理由を聞くと、


「その二つはどちらも主に戦闘で使う技術です。あなたは恐らく、この先自らの意志で戦いに身を置く事になると私は思います。その時のために私から少しでも戦闘を学んでおいた方がよくないですか?……まあ理由はそれだけではないですが」


 との事だった。

 確かにその通りかな、と納得してカインと向かい合う。


「では、私に一発攻撃を入れるか、防御魔法を使わせれば合格にします。先に言っておきますが、あなたはまだブーストもダブルマジックも使えないものと考えて、そのレベルで攻めるのでうまく捌いて下さい」

「わか……りました」


 アイリスが自然と敬語を使った。これから始まる辛く険しい修行を本能的に感じ取っていたからだ。


 ――ズガーーーン!

 あちこちから爆音が響いていた。正直なところ、攻撃を当てるどころか逃げ回る事しかできない。こちらの攻撃魔法は相殺させるのに使わないと、とても避けきる事ができない。


『サウザンドレイ!』


 カインの周りに無数の光の玉が出現した。それらはカインの合図で発射できるようだ。


「アイリス分かりますね。魔法は必ず詠唱や文字を刻む必要があります。だからどんなに早くても両手で二連続しか撃てません。そのために手数が必要になってくるんです。この先必ず、手数で攻めてくる敵を相手にする事があるでしょう。さぁ、うまく捌いて反撃して見せなさい!」


 カインが合図を送ると、光の玉がアイリスに向かって飛んでいく。

 一斉にではなく、ほんの少しの時間差をつけてくるので避けても避けても終わりがない感覚になる。


『マジックバリア!』


 アイリスが丸い円で覆われる。しかし一発目でヒビが入り、二発目で砕かれた。


「嘘でしょ!? Aランクの防御魔法なのに、あの連射性で二発しか持たないの!?」

「シールドではなくバリアで応戦とは……周りの爆発跡を見ればどれくらいの威力か予測が出来るでしょう? あまり舐めた戦い方をしてると、死にますよ?」


 ――防御魔法には自分の体全体を包み込む『バリア』と、前方に展開する『シールド』が存在する。バリアは強度が少し落ちるがどこから攻撃が来ても守ってくれる仕様であり、強度は高いが前方しか守れないのがシールドだ。


 容赦なく降り注がれる攻撃を避けきれず、肩に被弾してしまう。

 まるで砲弾がぶつかったような衝撃で吹き飛ばされ方向感覚が分からなくなり、フライを制御できなくなる。

 地面に撃ち落されてると止めを刺すように追撃が飛んできた。

 ダメージを確認する暇もなく急いでフライを制御してギリギリで回避する。低空飛行で爆炎や砂利を浴びながら、文字を刻んだ。


『マジックシールド!』

『サウザンドレイ!』


 カインが光りの玉を補充して、アイリスは杖の先に障壁を展開させた。


「これなら5発くらいは耐えられるでしょ!」


 再び文字を刻みながらカインに突撃をした!

 カインの攻撃を直撃だけしないようにわずかに中心をずらしながら距離を詰める。

 カインは動かず、こちらを見据えている。シールドは6発で消滅したが、カインとの距離が近いため、アイリスはイチかバチか攻撃に打って出た。


『マジックセイバー!』


 カインの攻撃を何とか捌き、目の前までたどり着いたアイリスは思い切り杖を振るった。しかし、その渾身の一撃さえも光の玉が盾になるかのように杖に衝突する。

 押し負けたアイリスはバランスを崩し、その隙を狙って光の玉が向かってきた。避ける事は叶わず、吹き飛ばされた勢いのまま木に叩きつけられた。

 ズルリ……と地面までずり落ち、そのまま動けずにいるアイリスに、容赦なく追撃が飛んでくる。数発の爆発が起こり……アイリスは意識を失った。


 ――アイリスが目を覚ますとそこはテントの中だった。ランプの光を見ながら状況を整理する。

 ……確か戦闘訓練をしていてそのまま……。

 ぼんやりする頭で考えていると、カインが外から戻って来た。


「おや、目が覚めましたね」


 入る時に少し外が見えた。今はもう夜のようだ。


「カイン、あたしって迷惑……?」

「え? あぁ、そりゃ迷惑ですよ。勝手に修行させろと付きまとって、どこに行くにしても私を連れ回して」


 カインが首を振りながらお手上げのポーズを取る。


「もしかして、すごく怒ってる……?」


 アイリスはいつになくしおらしく、毛布で顔半分を隠して目だけ覗かせている。そんな彼女に調子が狂ったのか、カインは姿勢を正してアイリスと向かい合う。


「怒ってませんよ。むしろ逆です。あなたはブーストやダブルマジックの習得に大体どれだけの時間がかかるか知っていますか? 平均で一年です。二つ覚えようものなら二年はかかる技術をあなたは一ヶ月で習得しようとしている。それは生半可な覚悟では到底無理な話です。私が厳しく接したのは喝を入れ、気持ちを引き締めるためでもあるんです。この程度で音を上げるくらいなら、諦めた方がいいでしょう」


 カインは真剣に語った。それに対してアイリスは……笑った。


「ううん、絶対諦めない。このまま続ける! あたしが一番辛いのはカインに迷惑かけてイライラさせちゃう事だったから、そんな事なくて良かった」

「いえ、迷惑なのは事実なんですが……まぁとにかく今日の授業を始めましょう」


 そう言ってノートを広げ、魔法に関する事をツラツラと書き始める。


「えぇ~! 今から!? もうヘトヘトなんだけど!」

「何言ってるんですか。今まで寝てたから眠くならないし丁度いいじゃないですか。ほら体を起こして! 今日実戦した手数で攻めてくる相手の傾向と対策を勉強しますよ」


 こうして授業が始まり、アイリスの頭が爆発する寸前まで続いた。

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