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魔法使いの世界にて  作者:
三章 マジックバトルトーナメントにて
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未完成の魔法にて

* * *


「それではこれにて第四回戦、ワイルドファング対シルベーヌ支部の闘いを終了します。一同、礼!!」


 お互いの選手が深々と頭を下げる。しかしそこには、大将戦で戦った者の姿は無かった。

 アレフは全てをガルに任せて闘技場の中へと消えていき、その彼と戦ったベイクは控え室で治療中だからである。

 そんな中で、ガルが顔を上げると相手のリーダーであるエリーゼが歩み寄ってきた。


「ガルさん、準決勝進出おめでとう。大将の姿が見えないようだけど、何かあったのかしら?」

「それは……すみません。俺にもよくわからなくて。けど決して悪い状態じゃないと思うので、大丈夫です」


 アレフが今、気持ちの整理を付けている事を誰も知らない。

 しかしそれはガルの言う通り、決して悪い状況ではなかった。今はただ、時間が必要なだけである。


「そう、ならよかった。私は個人的にあなた達にはすごく感謝しているのよ」

「え!? どうしてですか?」

「うちのフランがね、あなたと戦ってから凄く前向きになってくれたのよ。ここまでこころざしを高く持つ事なんてなかったから、本当に嬉しくて」

「エリーゼ先生!? やめて恥ずかしい……」


 そのフランが顔を赤くしてエリーゼの腰にしがみ付き、ゆさゆさと揺さぶっていた。


「他のメンバーにもいい刺激になったみたいだし、この戦いは物凄く価値のある試合だったわ」


 そう言ってエリーゼは周りを見渡す。

 ガルも釣られて周りを見ると、チカとアルフォート。アイリスとリッツがそれぞれ話をしていた。


「ガルお兄ちゃん……」


 ふと、エリーゼにしがみ付いていたフランがガルの目の前にいた。

 とは言え、背が低いので、ガルの視線のかなり下である。


「次も頑張ってね。応援してるから……」


 恥ずかしそうに、少し顔を赤くしながらそう言った。


「ありがとう。全力で頑張るよ」

「ガルお兄ちゃんが頑張っているところを見れば、私ももっと頑張れそうな気がするの。私だって後悔したくないから……そして大切なみんなを守れる魔法使いになる!」


 その瞳はまっすぐで、見るだけで決意や希望を宿している事がわかる。

 ガルはそんなフランの頭を優しく撫でた。


「ああ、俺は目の前で悲しむ人がいなくなるように魔法の修行を続ける。だからフランもサボるんじゃないぞ」

「う、うん。えへへ……」


 フランの顔はさらに赤くなり、けれど嬉しそうに頬は緩んでいた。

 しかしその時、ガルは異常な寒気を覚えた。そしてその原因がすぐ横にいる人物であることにすぐ気付く。

 なんとセレンが冷たい眼差しをガルに向けていた。

 そのことに気が付いたガルはゆっくりとフランの頭から手を離し、背筋を伸ばしてシャンと立つ。


「ガルがロリコンだっていうのは知ってる。アイリスがよく言ってるもの」


 静かな声で、しかしやたら威圧感を放ちながらセレンがそう言った。


「いや、別に俺はロリコンってわけじゃ……」

「ちょっとあなた。フランって言ったかしら?」


 ガルが否定するのを無視して、セレンはフランに歩み寄って行く。


「な、なに……?」

「ガルに色々と教わったようだけど、あまり親し気にしないでほしいわ」

「な、なんで?」


 頬を膨らませているセレンに、歳の近いフランは切り込んでいく。どこか興味があったのかもしれない。そんな彼女に、セレンは耳元で誰にも聞こえないように囁いた。


「だって私とガルは……ごにょごにょ……」

「え……? えぇ~~!! 二人はそんな大人な関係だったの!?」


 とたんにフランは顔を真っ赤にして後ずさる。


「あ、あの、私知らなくて……別に奪うつもりとか無いから~」


 そうして再びエリーゼの後ろで腰にしがみ付くように隠れるのだった。


「なぁセレン。何を言ったんだ?」

「……別に……」


 ガルが聞いてもセレンは答えない。しかし、目を合わそうとしない彼女は耳まで火照ったように赤みを帯びていた……


「まぁいいか。別にセレンとの関係で何を言ったとしても、俺は否定するつもりはないしな」


 ガルがしれっとそんな事を言うと、セレンはさらに顔を赤くして俯くのであった。


「さてっと、次は……」


 ガルがセレンにちょっかいを出し始めたのを境に、エリーゼはフランを引きずるように歩き出す。その向かった先にはリッツとアイリスがいた。


「あんたねぇ、魔獣を封印しているなんて嘘だったんでしょ! 危うく騙されるところだったわ!!」

「あはは。これも立派な戦術の一つだよ。騙される方が悪いのさ」

「にゃ、にゃにお~……」


 ぐぬぬ、と悔しそうにしているアイリスに、エリーゼは横から割って入るように話しかけた。


「アイリスさん。ちょっといいかしら?」

「へ? な、なに?」


 相手のリーダーが突然話しかけてきた事によって、アイリスは意表を突かれたような声をあげた。


「あなたの『マジックアクティベーション』という魔法。あれはまだ未完成ね?」

「!?」


 アイリスが目を見開いて驚愕する。

 アイリスだけではない。その場の全員が一斉に二人に注目した。


「見ていればわかるわ。あの魔法を使った時、魔力の流れが荒ぶってスムーズに変換されていない」

「そ、それは……まぁ……ね」


 口ごもるアイリスに、真っ先に声を掛けたのはガルであった。


「本当なのかアイリス。ちっとも気が付かなかったが……」

「ぐぅ……食いついてきたわね、この魔法オタク」


 隠し通すつもりだったのか、アイリスはメンド臭そうな表情をしている。

 エリーゼもまた、そんな空気にするつもりはなかったのだろう。少しうろたえながら、咳払いをして続きを話した。


「言われなくてもわかっているかもしれないけれど、未完成の魔法のまま勝ち上がれるほどこの大会は甘くない。強敵と戦う前に完成させたほうがいいわ」


 それだけを伝え、エリーゼは身を翻して去っていく。仲間達も引っ張られるようにしてエリーゼの後を追い、そんなシルベーヌ支部の去り際を、アイリスは神妙な面持ちで見つめるのであった。

「アイリス、そのマジックアクティベーションは未完成ですね?」


 唐突だった。

 そうカインに言われたアイリスはキョトンとして首を傾げる。彼と修行を始めてもうじき一ヶ月が経とうとしていた頃だった。


「え? そうなの?」

「そうなのって、気付いてなかったんですか……その魔法を使うと魔力が活性化して、体が光り出すでしょう? けれどそれは、流れがスムーズにいっていない証拠ですよ。ただ漠然と活性化させればいいという話ではありません」

「ええ~!? せっかくいい感じに仕上がったと思ったのに~……」


 がっかりするアイリスだが、すぐに思いついたように顔をあげる。


「でも、これを使っても特に問題ないわよ? なんかマズい事でもあんの?」

「大ありです。と言っても、かなり高位の魔法じゃないとその影響は出ないと思います。だからランクの高い魔法を習得する時までにはそれを完成させるのですよ?」

「う、うん。まぁ努力はするけどさ、具体的にどんな魔法を使うと、どんな事が起こるの?」


 尋ねられたカインは、少しだけ考えてから答えを口にする。


「最初に言った通り、あなたのマジックアクティベーションは魔力の流れがスムーズにいっていません。この状態でランクの高い魔法を使おうとすると、膨大な魔力の流れに腕が耐え切れず、最悪の場合消滅します」

「マジでー?」


 アイリスの大声が周りの河原に響き渡る。それだけ衝撃的だった。


「特に放出系の魔法には注意が必要ですね。発現時間が長い分、腕にかかる負荷も大きくなりますから」

「えっと……放出系って何?」


 アイリスの質問に、ガクッと首をうなだれるカインである。


「あなたの『イフリートブレス』のような魔法の事ですよ! 魔力を放出すればした分だけ前方に攻撃できる魔法の事です。放出系は腕に流れる魔力の量が半端じゃないですから」

「でも私、イフリートブレスにアクティベーションを重ねて使ってみた事あるけど、特にヤバい事にはならなかったわよ?」

「言ったでしょう。ランクの高い魔法が危険だって。あなたのイフリートブレスは大体ランクA+です。これにアクティベーションを重ねても威力はSになるだけなので、まだ問題ではありません。……そうですね。恐らく、S+の放出系魔法にアクティベーションを重ね、ランクSS級にすると危険だと思いますよ。けどまぁ、使った瞬間に腕が消滅するという訳ではありません。腕を焼かれるような痛みが走るはずですから、そうなったらすぐに魔法を解除して下さい。そうすれば問題ありませんから」


 そう言って、カインは細い目をさらに細めて微笑むのだった。

(ランクSS級の放出系魔法か……)


 アイリスは考える。

 途中、アレフと合流して一同が揃ったところで帰路に着く。そうして歩いている最中にモヤモヤと考えていた。


(私が今使える攻撃魔法で、この条件が整っている魔法と言えば――)


 ——イフリートロア。


 これがアイリスの持つ最大最強の攻撃魔法である。

 イフリートブレスを改良して編み出したこの魔法は、推定で威力がS+はあり、且つ放出系である。

 しかし、未だかつてこの魔法にアクティベーションを重ねた事は一度もない。それは、彼女がカインの教えを忘れずにしっかりと心身に刻み込んで来たからだろう。


(う~ん……まぁいっか)


 とは言え、アイリスに未来を見据えた計画性を期待するなど無理な話のようで、物語は準決勝である五回戦へと続いていくのであった。

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