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魔法使いの世界にて  作者:
三章 マジックバトルトーナメントにて
76/108

負け戦の行方にて①

* * *


「アイタタタタ……」


 アルフォートがベイクの肩を借りて控え室まで戻ってきた。


「アル、お疲れ様。これで二勝二敗。予定通りね」


 ふふんと、機嫌が良さそにエリーゼが笑みをこぼしている。

 ピコピコと頭のてっぺんのアホ毛も、リズミカルに揺れていた。


「にしても、チカって子も以外とやるもんスね。まさか接近戦でアルじいちゃんにダメージを与えるとは思わなかったッスよ」

「ほっほっほ! あの若さであの実力。あと一年も修行すれば、ワシなんぞ超えていくじゃろうな。世の中は広いわい」


 よほど楽しかったのか、アルフォートはご機嫌に笑う。

 それと正反対に、今から出番のベイクは緊張した面持ちだった。


「ベイク。ワイルドファングのアレフは五人の中で最弱のはずだわ。まず間違いない。怯んじゃだめよ?」

「いや、そんなこと言ったら自分だってこのチームの中じゃ最弱ッスよ?」

「そ、そんなことないよ。最弱なのは私だから……」

「いやいや! フランは強いッスよ! 相手が悪かっただけッス!」


 気を使い合う二人に、エリーゼはキョトンとして口を挟んだ。


「何を言っているの? 最弱はリッツよ?」

「俺かよ!?」


 ギャーギャーと騒ぎ始めたメンバーを見て、ベイクはついつい笑ってしまう。


「よっしゃ! 緊張も解けたッス! 頑張るッスよ!!」


 そうしてベイクは、未だ実力のわからないアレフとの闘いに赴く。


* * *


「ここまでだな。みんな、よく頑張ったよ」


 アレフが一同を見渡して、静かな口調でそう告げた。

 まるで、すでに自分が負けると言っているかのように……


「隊長さん!」


 ベッドで治療を受けているチカが、こらえきれない様子で声を上げた。


「本当にこれで終わりなんですか!? 私、悔しいです! このまま敗退なんて……」

「チカ! 一番辛いのは隊長だってこと、お前だって知ってるだろ……隊長は昔……」


 チカをなだめようとガルが言葉を紡ぐが、その声は次第に途絶えていく。


「みんな知っていたのか……そう、私は昔、ある事件で妹を亡くした。……完全に私の判断ミスだった……」

「そんな……アレは隊長のせいなんかじゃないって、みんな言って――」

「ダメなんだよ!」


 ガルが取り繕おうとするが、アレフはそんな言葉さえ遮った。


「ダメなんだ……アレ以来誰かを攻撃しようとすると、これで本当にいいのかって妹のことを思い出してね。頭が全く判断できなくなるんだ……」


 アレフが諦めにも似た笑いを浮かべて、さらに続けた。


「だがいいじゃないか。四回戦まで来ることができた。今までの成績と比べたら大きな進歩だよ」

「……本当にそれでいいんですか……? 隊長さんだって、このチームを最強にするって目的があったじゃないですか! 一つでも多く勝ち進んで、名前をあげるんだって嬉しそうに話してたじゃないですか! それなのにここで諦めるんですか!? 辛い出来事から逃げてばかりじゃ、夢なんて叶わないですよ!」


 ガルが再びチカを止めようと口を開きかけるが、チカの勢いに押されてか、何も言わずに押し黙った。

 もうどちらを立てていいか分からなかったのだろう。


「……すまない。負けてくるよ……」


 アレフはそう告げて、控え室を後にした。

 チカの言葉が頭に残るが、自分ではどうしようもなかった。


「うおお! ついにワイルドファングの大将が出て来たぜ!」

「今回が初陣なんだろ? 一体どれだけの強さなんだ!?」


 観客の声に申し訳なさを感じながら、アレフは黙って中央に進んだ。

 試合開始位置まで歩みを進めると、小柄な少年と向かい合った。

 身長は百六十センチもない。アレフと並べたら、きっと頭二つ分は身長差があるだろう。そんな彼に、アレフは珍しい物を見るような目でジロジロと見てしまっていた。


「なんスか……あっ! 今、自分のことちっちゃいって思ったッスね!?」


 アレフの視線で察したのだろう。ベイクがいきり立ってきた。


「い、いや、そんなことはないよ」

「これでも自分、今年で二十八ッスから! 子供扱いだけは勘弁ッスよ」

「え!? 私と同じなのか!? それで!?」


 身長差があることに驚いたアレフは、ポロっと口を滑らせた。


「それで!? それでってどういう意味ッスか!? 小さいといけない決まりでもあるんスか!? あなたは自分より小さい人間を見下すんスか!?」


 コンプレックスでもあるのか、ベイクは取り乱したように責め立てる。


「い、いや、そういう訳じゃないよ。……そう! 童顔だし、まだ二十歳はたちくらいに見えただけさ。よく年齢よりも若く見られることはないかい?」

「ん、まぁ確かに、よく若く見られるッスけど」


 少し気を良くしたのか、ベイクが落ち着いてきたことで、審判は二人に声をかけた。


「え~……そろそろよろしいでしょうか? それでは、これより大将戦、アレフ選手対、ベイク選手。試合ぃ~開始ぃ~!!」


 審判の宣言と同時に、二人は文字を刻みだした。

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