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魔法使いの世界にて  作者:
三章 マジックバトルトーナメントにて
73/108

攻略不能の魔法にて➂

――ギイィン! ガギィン!!


 近距離戦にて激しく武器がぶつかり合い、火花を散らせる。

 単純ながらも、これが最も有効な作戦だとセレンは考えた。


(時を戻すのに条件がいるなら、その条件を満たせないように攻め続ける! 何度も使うことができないのなら、使えなくなるまで攻め続ける! つまり、どの道攻める以外に手はない!)


 接近戦で戦おうとするセレンだが、エリーゼも引けを取らない。

 優雅な動きでセレンの攻撃は全て受け流されてしまっていた。


『インストレーション!』


 エリーゼが叫ぶと、周囲に細い糸のようなものが張り巡らされた。


「……この糸に触れると、なんらかの攻撃が発動するトラップね?」

「あまり動き回ると危ないわよ?」


 クスクスと笑うエリーゼに、セレンはある作戦を思いついた。

 バッと天高く舞い上がり、エリーゼ目がけて急降下を始める。


「上から私の元に辿り着こうって魂胆? 甘いわよ」


 日の光に、エリーゼの頭上にも糸が張られているのがうっすらと見えた。

 だが、セレンの作戦はそうではなかった。


『レリース!!』


 上から地面に叩きつけるように、解除魔法を解き放った。こうすることで、客席の結界を壊すことはなくなる。

 ガシャーン! と、周囲の糸は全て破壊され、エリーゼのセイバーとフライまでもが打ち砕かれた。


「なっ!?」


 流石のエリーゼも予想外だったのか、驚きの声を漏らす。

 セレンの頭上からのセイバーを正確に見定めて、ヒラリと身をかわした彼女は、文字を刻みながらステップを踏み距離をあけた。


(ここが私の正念場! 必ず成功させる!)


 セレンも文字を刻みだす。その場から動かずに、エリーゼを視線だけで威嚇した。


『フライ!』


 エリーゼがフワリと浮かび上がる。


「逃がさない。『エリアルマイン!』」


 エリーゼの周囲に機雷が出現した。


「防御魔法を組んどいてよかったわ。『マジックバリア!』」


 機雷が爆発するが、エリーゼの結界は壊れない。

 だが、セレンの狙いはエリーゼの足止めであり、結界の破壊ではなかった。


「そこ!『エリアルマイン!』」


 ダブルマジックで組んだ左手で、同じ魔法を発現させた。

 ポンッと、一つの機雷が浮かび上がる。

 エリーゼの結界の中・・・・。彼女のすぐ右隣りに。


「あっ!!」


 気付いたエリーゼは結界を解除して、すぐに逃げようとする。だが……


――ズガアァァン!


 すでに遅く、爆発に吹き飛ばされいた。

 フライを操り、クルリとバランスを取り、空中で静止するエリーゼだが、辛そうな表情で右肩を抑えている。

 かなり痛むのか、右腕はダラリと力なく垂れ下がっていた。


「やった! 初めてダメージを与えた!」


 喜びをあらわにするセレンに対して、エリーゼは悔しそうに呟いた。


「まさか、これほどに空間把握能力があるなんて……これは流石にヤバいわね……」


 シュシュと文字を素早く刻み、すぐさまそれを発現させた。


『リセットロード!!』


――パリーン……


 魔法は砕け、塵になる。


「え?」


 信じられないと言った反応のエリーゼをセレンは見逃さなかった。


(今のは何? 魔法の言葉でリセットは消去、ロードは……読み込み? 今のが時を巻き戻す魔法?)


 この一連の流れで、真相に辿り着けないほどセレンはバカではない。

 数少ないヒントを元に、セレンはようやく一つの答えに辿り着いた。


「そうだったのね……ようやくあなたの『時間を戻す魔法』の正体が見えたわ」

「……」


 エリーゼは黙っていた。話を聞く気があるかのように……


「あなたの魔法は、一度この時間を消去して、繋ぎ止めている時間を読み込む魔法ね。だけどそのためにはあらかじめ、戻したい時間に何か魔法で印のようなものをつけておく必要があった。弱点なのは、その印を身近に置かなくてはいけないことかしら? だから、戦いの最中、その印が破壊されてしまうと時間を戻すことができなくなる」

「……正解。頭のいい子ね」


 エリーゼは静かに肯定した。


「今、時を戻せなかったのは、私が頭上から放った『レリース』が原因ね。それの影響で印が破壊されたのを、あなたも気付かなかった」

「……それも正解」

「そして、私にとっては今が最大のチャンス。時を戻すための印を刻む前に、あなたを討つ!」


 落とした杖を拾うこともできないエリーゼに向けて、セレンが構える。


「そうね。最終局面といきましょう……」


 お互いに動きを先読みする。そんな僅かな探り合い。


(この人は今、右手が使えない。武器もない。今なら近距離戦の方が有利!……だと思うけど、今までの作戦は全て読まれて逆手にとられてた。遠距離戦の方がいいのかな……?)


 見ると、エリーゼはすでに文字を刻み始めていた。


(迷っている時間はない! 大丈夫、今までは時間を戻されて動きを把握されていた可能性が高い。今なら通る!)


 セレンは文字を刻みながらエリーゼに真っすぐ向かって行った。

 正面から武器を振り下ろす。


『マジックセイバー!』


――キィィン!


 エリーゼは自分の左手を武器に見立て、セレンの武器を受け止めていた。


「予想通り接近戦で来たわね。ちょっと単純すぎるわよ?」

「読まれてた……」


 エリーゼの言葉に、胸騒ぎを覚える。


『インストレーション!』


 後ろに飛び退けながら、エリーゼは右手の魔法を発現させた。

 セレンの四方八方に魔法の糸が張り巡らされる。


「触ると爆発するわよ」

「くっ!」


 焦る気持ちを抑えながら、防御魔法を刻む。


『マジックバリア!』


 結界を張り、一気に進もうとしたその時……


「ふふっ、お返しよ。『インストレーション!』」


 一本の糸が張られた。

 セレンの結界の中・・・・。彼女の目の前に。


――ズガアァァン!!


 内側からの爆発で結界は消滅。連鎖的に周囲に残っていたトラップまでもが誘爆して、セレンは爆炎に呑まれた。


 煙が晴れると、爆風によって抉れた地面に倒れるセレンの姿があった。

 意識はある。しかし、立とうとしても、もはや体は動かなかった……

 審判が駆け寄り、様子を伺っている。


「セレン選手、戦闘不能!」


 審判が判決を出した。セレンは必死に立とうと体に力を入れ続ける。


「よって、エリーゼ選手の、勝ぉ~利ぃ~!!」


 審判の声で、諦めやら悔しさやら、色んな感情が渦巻いてくる中、一つの疑問もまた浮かんできた。


「あの……エリーゼさん……」


 彼女が立ち去ってしまわないうちに、セレンはか細い声で呼ぶ。


「なぁに? どうかしたのかしら?」


 エリーゼに声が届き、近付いてきた。

 上から見下ろすのではなく、しゃがみ込んで、うつ伏せに倒れるセレンにできるだけ顔を近付ける。


「この試合に……何回、時間を戻したの……?」

「……」


 エリーゼはなぜか、少し迷うように黙った後に、意を決して口を開いた。


「一度も戻していないわ。あなたに右腕をやられた時は戻そうとしたけれど、それ以外では使っていない……こういう切り札の魔法は、できるだけ頼らないで勝つのが私の信条だから……」


 そうしてエリーゼは立ち去っていく。


(結局、私の行動は全部先読みされていたんだ……。これが大将格の実力……)


「うおおぉぉーーセレンちゃーん! 良い戦いだった~!!」

「リーダー相手によく戦ったよ~!!」


 観客席からは励ましの声援が聞こえてくる。しかし、セレンの心は悔しさで満たされていた。

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