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魔法使いの世界にて  作者:
三章 マジックバトルトーナメントにて
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攻略不能の魔法にて②

『フライ!』


 二人は同時に飛翔の魔法を発現させた。

 フワリと少し浮かび上がると同時に、エリーゼはもう片方の魔法をすぐに発現させる。


『シューティングスター!!』


 魔力は空に昇り、流星群のようにセレンに降り注いだ。


「うぅ……『マジックシールド!』」


 身を屈ませて、震えながら身を守るセレン。


「あらあら、そこまで多段攻撃が苦手っぽい仕草をされたら、相手に付け込まれるわよ?」


 再び二人は文字を刻む。


「次でシールドも壊れるんじゃないかしら?『シューティングスター!』」


 再びエリーゼが攻撃を仕掛けてくる。その瞬間、セレンは一気に飛び出した!

 怯える演技をして、相手の攻撃を単調化させる作戦だった。


「『アブソリュートゼロ!』、『マジックセイバー!』」


 降り注いでくる無数の魔弾を、絶対零度の冷気で無力化する。

 そのままエリーゼに接近戦を挑んだ。

 セイバーを付与した杖を思い切り振り下ろす!


――ブン!


 渾身の一撃はヒラリとかわされてしまった。

 大振りを綺麗にかわしたエリーゼが、セレンの目の前まで近付いた。


(……え?)


 セレンはエリーゼに抱きしめられていた。

 フワリと、両手を背中に回される。そのあまりにも優しい手つきに、強引に振りほどいていいのかためらわれるほどだった。

 透き通るような青い髪からはいい匂いがして、それがまた思考を鈍らせた。


『パライスショック』


――バチンッ!!


「っ!!」


 体の中に電撃を流し込まれ、目の前が一瞬暗くなる。

 ドサリと、地面に倒れる衝撃で、飛びそうになる意識を繋ぎとめた。

 体を動かそうにも、麻痺して動けない。


「セレン選手、麻痺状態により、戦闘一時中断です。……回復できますか?」


 審判が隣でカウントを取る間に、震える指で文字を刻む。


「キュア……パライス!」


 そうしてゆっくりと立ち上がった。麻痺を治しても、流し込まれた電撃で体が痛む。


「戸惑わせてごめんなさい。あなたは優しい子ね。だからどうしていいのか分からなくなったのね」


 エリーゼが謝るのを聞きながら、セレンは様子を伺う。

 綺麗な着物に身を包み、それを止める帯は長く、髪と一緒に風になびくところは美しい。

 かなりの美人であることも含め、セレンは複雑な気持ちだった。


(なんか……すごく戦いにくい……。まるでお母さんと戦ってるみたい……)


 一瞬、この人になら負けてもいいかな、と考えてしまうセレンだが、ブンブンと首を振る。


(違う! みんな勝つために一生懸命戦ってる。負けてもいいなんて考えちゃダメ!)


「私は……負けない!」

「ふふ。あなたは強いのね。フランも成長したらあなたみたいになるのかしら? 楽しみだわ」


 なにやら楽しそうにしているエリーゼを前に、セレンは思考を張り巡らせる。


(さっきの攻防、うまく相手を騙せたと思ったのに、結局見抜かれてた。まさか時を戻された?)


 考えても答えは出ない。セレンは揺さぶってみることにした。


「あの……時を戻して、私の動きを把握したの?」

「……」


 楽しそうにしていたエリーゼが、キョトンとした表情を見せる。


「さぁ、どうかしら?」


 再びニコニコと笑顔に戻るエリーゼ。


(私の演技がバレバレだったのかな……? でも、次は必ず当てて見せる!)


 セレンは作戦を立てて文字を刻みだした。


『クラフトボム!』


 爆弾を生成したセレンは、それをポーンと上に放り投げた。

 放物線を描く爆弾をエリーゼが見上げた瞬間に……


――バオンッ!


 セレンがブーストを使って真っすぐに突撃をかけた!

 上に気を取られているエリーゼとの距離を一瞬で縮めて、武器を横薙ぎに払った。


『マジックセイバー……』


――ギイィィン!


 セレンの攻撃はあっさりと弾かれた。

 その小さな体を跳ね除ける一撃に、セレンはバランスを崩してしまう。


――バオン!


 まずい! そう思った時には、すでにエリーゼは背後に回っていた。

 ザシュッ! と背中を斬り付けられる。


「ぅあ……」


 ズサァと地面に転がりながらも、すぐに受け身を取り、片膝を付いた状態でエリーゼに向き直った。

 バランスを崩しながらも、背後から来る一撃に警戒していたおかげか、急所は避けられたようだ。

 上に放られた爆弾が落ちてきて、何もない地面で虚しく爆発をする。


(今の、完全に上に気を取られていたはずなのに、また防がれた!? やっぱり、時間を戻されているのかしら……?)


 考えるセレン。しかし、突破口は見つからない。


「そろそろ降参してくれないかしら? なんだかフランと似ているせいか、心苦しいわ」


 困り顔でそう言うエリーゼは、さらにこう続けた。


「……それに、私のSSエスエスランクの魔法は絶対に攻略できない」


 ドクン! と鼓動が跳ね上がり、絶望感が襲い掛かる。

 だが、、そんな絶望感の中に、僅かな違和感を感じた。


(……絶対に攻略できない、時を巻き戻す魔法。でも、それならなんでSSSトリプルエス認定されていないの?)


 セレンはこれまでに、時を戻す魔法を一つだけ知っている。

 それが、カインの使う『クロック』という魔法。

 以前、バージスに刃を振るった時に、この魔法で時を戻されたことを覚えている。


(カインの『クロック』は確か……その出来事だけを戻す魔法だから、人の記憶までは戻らないって言ってた。この人の魔法は使われると記憶までもが戻される。単純に考えると、カインの魔法よりもこっちの方が凶悪に思えるのに、ランクはSSエスエス止まり。その差はなに……?)


 一般的に、SSSトリプルエスランクが存在することは知られていない。賢者によって隠されているからだ。

 だが、SSSトリプルエスを知るセレンだからこそ、エリーゼの言葉に違和感を感じたのだった。


(多分、この人はハッタリを言ってる。アイリスの時も、ハッタリを混ぜて惑わせていた。絶対に攻略できない魔法なら、SSエスエスランクに留まっているはずがないもの。必ず何か欠点があるはず……)


「諦めないのかしら? 仕方ないわね……」


 ブンと杖を振るって、エリーゼが近づいてきた。

 セレンはギリギリまで考える。


(ガルの無敵魔法インビシビリティは一度使うと燃費が悪くてすぐに魔力が空になる。この人も同じで、そう何度も使えないのかもしれない。もしくは、使うためにはクリアしなきゃいけない条件がいくつかあるのかも?)


 セレンは立ち上がり、エリーゼを睨みつけた。


「……強い眼差しね。絶対に勝負を捨てない者の目だわ」

「えぇ。絶対に攻略できない魔法なんてない! それだけはわかったもの!」


 痛む体に鞭を打ち、セレンは再び杖を構えた。

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