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魔法使いの世界にて  作者:
一章 黒不石にて
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旅する魔法使いとの出会いにて②

「ほらアイリス、昨日教えた事をもう忘れたんですか? 足に付加したフライに魔力を収縮させるんですよ。体に流れる魔力を意識して! はい、足に流れを集めて」

「むむむむむぅ、そんな事…言われても……」


 アイリスは現在ブーストを操るための練習中だ。

 頭がこんがらがりそうなダブルマジックよりは、まだブーストの方が習得しやすいのではという理由で先に始めている訳だが……


「ほら、高度が下がってますよ。ちゃんと飛翔して! 違いますよ! 力んでも意味はありません。魔力をコントロールして!」


 前途多難である……


「ちょ、ちょっと待って、休憩も兼ねて少しイメージトレーニングする。ん~、もう少しなんだけどなぁ……」

「もう少し? 点数付けるなら5点くらいなんですが……」


 一呼吸置こうと一度修行を中断して考え込む。

 思っていた以上に難しかったようで、アイリスは自分の杖とカインの杖を見比べた。


「あたしの持ってる杖、学園支給のしょぼい杖なんだけど、これがいけないんじゃないかしら? カインの杖を貸してくれない?」

「杖のせいにしないで下さい。それに私の杖は恩恵が全く無い代物なので、まだあなたの杖の方がマシですよ」


 試してごらんなさいと、カインはアイリスに杖を渡した。


「うわっ、ほんとだ。ほとんど恩恵が感じられない。木の枝の方がマシなんじゃないかってくらい微妙だ! あははは~」


 弱すぎて逆に珍しいと笑うアイリスに対して、カインは驚いた様子で問いかける。


「ほとんど? 僅かでも恩恵を感じられるんですか!?」

「え? うん、僅かに魔力が上昇してるよ。数字でいうなら1くらい。あはは」

「アイリス、それは適合者の証ですよ!」

「へ?」

「これは昨日ガル君が持って行った、『回帰の杖』と同じ物と言われています。どういう理由かは分かりませんが、適合者のみに恩恵が与えられる杖ですよ。まだ未熟なせいか、感じられる恩恵が弱いみたいですがね」

「あたしが……? おお~何かテンション上がってきた~! あ、でもこれカインのものだから返さないとダメかぁ」


 残念そうに言いながら、カインに杖を返そうと差し出すアイリスだったが――


「いえ、旅先で見つけて面白半分で持ってただけなので、あなたにあげますよ」

「マジで!? やった~! この杖、なんて名前なの?」

「『忘却の杖』というらしいですよ。もしかしたら世界を救う伝説の勇者になれるアイテムかもしれませんね」

「ふ~ん、何かおじいちゃんクサくて変な名前ね。でも俄然やる気が出て来た。よし! 練習再開しよっ!」


 嬉しそうにブンブンと杖を振り回しながら練習を再開するアイリス。

 カインはそんな彼女を見つめて、難しい顔をしていた……

 その日アイリスは練習を続けた。食事の準備だの、野営の準備を手伝おうとしてもカインがそれを許さず、ひたすら練習に明け暮れた。なにせ期間は一か月しかないのだからと。

 ダブルマジックにも少しは触れるようにと言われ、飽きないように交互に練習をした。初日という事もありほとんど上達はしなかったが、アイリスはクタクタになり寝床に着くのであった。

 カインが就寝の前に口の中を魔法で綺麗にしてテントに戻ると、アイリスがノートとにらめっこしていた。何やら悩みながらも真剣に取り組んでいる。


「ふむ、魔法の研究ですか。どんな魔法を組めるようにしているんです?」


 カインが興味津々でノートを覗き込む。


「……マジックアクティベーション」

「これはまたマイナーな魔法ですね。しかも補助系。好戦的なアイリスが研究する魔法とはとても思えません」

「悪かったわね!」


 茶化してくるカインを威嚇して、再びアイリスは考え込む。

『マジックアクティベーション』。それは魔力を活性化させ、効果を高める魔法。攻撃魔法は威力が上がり、防御魔法は強度が上がる。便利な魔法に思えるが、上昇値が低すぎるために、次第に使われなくなっていった。

 その魔法のために片手を塞ぐくらいなら、攻撃魔法で手数を増やした方が効率がいい、という事だ。


「なぜその魔法を研究しているか、聞いてもいいですか?」


 とカインが聞く。もう茶化そうというのではなく、純粋な疑問だった。


「別に? 子供の頃に初めてうまくいって褒められた魔法だから……それ以来、進化させようと研究を続けてるけど、ちっともうまくいかないのよね。ホント嫌になっちゃう。褒められて調子に乗って、今までの時間を無駄にしてきたんだから」


 自分で卑下ひげしながらも、その表情は変わらず真剣にノートを見つめていた。


「無駄なんかじゃありませんよ。魔法とは大きな可能性を秘めたものです。そして魔法使いはその可能性を広げたり示したりする存在です。その研究する理由も、今まで費やした時間も、とても素晴らしいものだと私は思いますよ」


 カインがそんな優しい言葉をくれると思っていなかったアイリスは、驚きのあまり言葉を失った。それと同時に嬉しくも恥ずかしい気持ちが入り交じり、顔が赤くなるのを感じてノートで顔を隠す。


「おやおや? アイリス、もしかして照れているのですか?」

「そ、そんな訳ないでしょ! バカ! もう今日は寝るから」


 ノートをパタンと閉じで、そっぽを向いて横になるアイリスを見て、やれやれという感じでカインも横になるのであった。

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