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魔法使いの世界にて  作者:
三章 マジックバトルトーナメントにて
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臆病者の決意にて

* * *


「フラン、あなたに家庭教師をつけようと思うの」

「家庭教師……?」


 母親が突然そんなことを言い出した。


「行きたくない学園に無理していく必要はないけれど、でもこのまま魔法の才能を埋もれさせるのはもったいないでしょ?」


 母親はいつでもフランを心配していた。そんな親の気持ちを無下にする訳にもいかず、フランは黙ってうなずく。


(誰が来るんだろう……今の学園の先生だったら嫌だな……)


 そんな不安を胸に、家庭教師に教わる初日を迎えた。

 ドアを開けて現れたのは、透き通るような青い髪の美しい女性だった。

 フランは一瞬見入っていしまうが、頭のてっぺんに一本の跳ねっ毛があるのが妙に気になった。


「そういえばまだ言ってなかったわね。こちら特殊部隊のエリーゼさん。相談をしたら見てくれるって話しで、ホント助かるわ~。ほらフラン、挨拶しなさい」


 そう、これがフランとエリーゼの出会いだった。

 

 エリーゼは特殊部隊の仕事をしながらも、時間を作っては魔法を教えるためにフランに会いに行った。

 フランがどんなに頭を悩ませても、魔法に失敗しても、エリーゼは決して責めたりはしなかった。

 ただ優しく、親身になってフランを受け入れ、包み込むように接した。

 人と触れ合うことに恐怖を抱いていたフランだが、そんなエリーゼに少しずつ心を開いていった。


 半年が過ぎ、一年が過ぎ、何度も季節が巡り、フランが十五歳になったある日、エリーゼは耳を疑うような話をフランに持ち掛ける。


「フラン、考えたのだけれど、特殊部隊として私のチームに入らない?」

「……え?」


 あまりにも唐突で、理解するのに時間がかかった。


「え? えぇ!? えええぇぇぇ!! 特殊部隊って、あの悪い人と戦うお仕事ですよね? 私なんか無理に決まってるじゃないですか!?」

「別に戦うことばかりではないのだけれど……あなたのゴーレムは人命救助にとても役立つ魔法だと思うわ。これを使えば多くの人を救うことができる可能性を秘めている」

「わ、私はただ、魔法でお人形を動かせたら素敵だなと思っただけで……それに私、ドジで頭も悪いし……」

「そんなことないわ。あなたは自分で思っているよりも魔法の才能があるし、それだけ素晴らしい魔法を身に付けているのよ?」


 エリーゼはいつものように優しく微笑む。フランにとって、エリーゼの言葉は絶対的に正しいと信じていた。


「私を助けると思って、入ってくれないかしら? きっとフランの力が必要になる日がくると思うの。絶対に危ないことはさせないわ。後方でゴーレムを操って支援をしてくれればいいから」


 フランはこの時、胸の高鳴りを覚えた。今まで人の役に立ったことなんて無かった。それが、エリーゼに必要とされ、求められたのだ。これが嬉しくないはずがない!

 フランは一日考えたのちに、エリーゼと共に特殊部隊に入る決意を固めた。


 自分の手を引き、真っ暗だった人生を照らしてくれた、恩師の力になることを夢見ながら。

「私、どうして忘れてたんだろう……ずっと、先生の力になりたいと思ってたのに……」

「まぁ、目標が高すぎると、時には見えなくなったりするものさ」


 ガルの言葉に納得しながら、フランはようやくその場から立ち上がった。

 深く被っていた猫耳フードを後ろに下して、真っすぐにガルを見た。


「あの、ありがとうございます。ガルさんのおかげで、大切なことを思い出せました。……それで、もし次に会った時は、また戦ってください! そうして、今の私よりも成長したかどうかを確かめてほしいんです!!」


 もう試合が始まる前の、へたり込んでいたフランはいなくなっていた。

 その瞳には、力強い光が宿されている。


「あぁ、俺でよければ、いつでも相手になる。ただ、俺の魔法を見る目は厳しいぞ」

「はい、ありがとうございます。では失礼します」


 フランはペコリと頭を下げ、自分の陣地に走り出した。

 出入り口から中に入り、控え室に戻ると、メンバー一同がフランを待っていた。

 みんなの顔をグルリと見渡してから、フランはまた頭を下げる。


「エリーゼ先生、ごめんなさい……私、負けちゃいました」

「いいのよフラン、相手が悪かったわ。それよりも怪我はない? 痛い所があるならちゃんと言うのよ?」


 いつものように、優しく迎えてくれるエリーゼに、フランは心が痛んだ。

 一体どれだけ、この優しさに甘えて来たのだろうか、と。

 フランは顔を上げると、エリーゼの腰に抱き付いた。


「フラン?」

「先生……私、強くなります! 先生やみんなが、私を頼れるくらいに!」


 エリーゼは目を見開いて驚いていた。フランがそんなことを言うのは初めてだったからだ。


「き、急にどうしたの?」

「私、ずっと逃げてました。怖いことや、嫌なことから……でも、そのせいで後悔したくないんです。私だって大好きなみんなを守りたい! それをガルさんが教えてくれました。だから、これからもご指導お願いします!」


 その言葉で、エリーゼは涙ぐんでいた。フランのこの成長だけでも、四回戦まで勝ち進んできた甲斐があったと思えるほどだと……


「ほっほっほ! どうやら、ネジがうまい方向に回ったみたいじゃな」

「えぇ、ガルって子には感謝しなくちゃ」


 アルフォートの言った通り、何がきっかけで人は変わるかわからない。

 そんな出来事を体感しながら、次鋒戦へと戦いは進む。

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