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魔法使いの世界にて  作者:
三章 マジックバトルトーナメントにて
67/108

臆病者の戦いにて➂

* * *


「いやあああぁぁーー、私の友達を、傷つけないでぇぇーー!!」


 フランが泣き叫ぶ。それに呼応するかのように、地響きが鳴りやまない。

 ズズズッと、空中で様子を見ているガルの真下の地面が盛り上がった。

 膨らんだ地面は、次第に巨大な「腕」の形となり、ガルに向かって伸びていく。

 巨大な腕は、まるで虫を捉えるように、ガルを掴み取ろうとした。


「くっ! なんだこれは……」


 ガルはヒョイと、巨大な手のひらをかわす。幸いなことに、腕の動きは鈍かった。

 地面から切り離されたその腕は、フワフワと浮かび、腕を切り落とされた高速のゴーレムに向かって飛んでいく。

 腕がゴーレムに密着すると、吸い込まれるように収縮して、ゴーレムの腕は元通りになった。


(なるほど、ゴーレムを攻撃されると感情が不安定になるのか……これがこの子の弱点)


 ガルはそう思った。実際、巨大な腕が出現してから、この場に出ている四体のゴーレムは完全に動きが止まっていた。


(恐らく制御するのは四体が限界で、それ以上のことをやろうとすると、ゴーレムの動きに手が回らなくなるんだろう。やはり、まだ幼い分、未熟な一面がある)


 ガルが今一度フランを見る。彼女は試合が始まった時から同じ位置で、同じ格好のままへたり込んでいた。


「うぅ……みんな、辛いかもしれないけど、もう少しだけ頑張ってぇ……」


 涙を拭っているのか、目をグシグシとこすっている。

 それを見ながら、ガルは使う魔法を決め、文字を刻み始めた。


「エース君、マッハ君、連携して攻めて!」


 攻めのゴーレムが動き出した。二体で互いの隙を無くすように、ガルに攻撃を仕掛ける。


――ギィィン。ガギィィン!


 ガルは魔法が完成するまで、攻撃を捌き、受け流す。

 攻撃力特化のゴーレムは追いつかれないように逃げ回ることで接触する機会を減らし、超スピードのゴーレムは、その目で見据え、セイバーを付与した杖で確実に身を守った。


 ガルの強さは何も、魔法オタクだけという訳ではない。その動体視力の良さと、それについていけるだけの反射神経も持ち合わせていた。

 これまで速さを武器にするチカと、幾度となく練習を重ねてきたが、ガルは負けたことがない。

 そんなガルは、うまく二体のゴーレムから魔法を完成させるだけの時間を稼いでいた。


 ピタリとガルは、その動きを止める。

 この機を逃すまいと、背後からスピード特化のゴーレムが一気に突っ込んできた。


『コンファイン!』


 ギギィィー! と、ゴーレムの鋭い突きが、ガラスに遮られて引っ掻き音だけが鳴る。 


「え!? 嘘……」


 フランから戸惑いの声があがった。

 スピードのゴーレムが封印魔法によって、球体に閉じ込められていたのだ。

 剣のように鋭い腕で切り裂こうとするが、包む球体は全く壊れない。


「エース君、マッハ君を助けて!」


 フランが魔力を操作すると、攻撃のゴーレムはその球体に拳を振りかぶった。


『チェーンバインド!』


 ガルが二つ目の魔法を発現させると、何もない空間から鎖が伸び、拳を振るおうとしていたゴーレムの腕を絡め取った。

 次々と現れる鎖に、ゴーレムの四肢は完全自由を失っていた。

 攻めを担当する二体のゴーレムが封じ込まれたことで、ガルはフランに向き直り、ぐっと構える。


「あ!? マーボー君、テッぺー君、来るよ! 私を守って!」


――バオン!


 ガルがブーストを使って、超加速でフランに迫った。

 遮ろうとする二体のゴーレムをヒラリとかわし、フランの横を抜けて後ろを取った。


「これで詰みだ。降参してくれ」


 背後から、セイバーを顔の真横へと置く。今にもフランの頬につきそうな位置だ。

 フランはしゃべらなかった。まだ手はないかと考えているのだろうか……しかし、体は小刻みに震えていた。


「頼む、降参してくれ。でないと、次はキミの大切なゴーレムを本気で攻撃することになる」


 ガルの言葉に、フランの肩がビクンと跳ねた。そして――


「わかり……ました……私の、負けです……」


 フランは小さな声で、そう言った。

 近くの審判はそれをしっかりと聞き届け、高らかに手を振り上げる。


「フラン選手、降参! よって、ガル選手のぉ~勝ぉ利ぃ~!!」


 会場が一気に騒がしくなる中、ガルはホッとして武器を下した。

 俯くフランにかける声が見つからず、通り過ぎようとした時だった。


「あの、どうして最後、封印魔法を使ったんですか!?」


 突然フランから質問をぶつけられた。

 動きを封じる以外に理由はないため、ガルは質問の意味がよくわからずに口ごもる。


「あなたのデータを見た時に、封印魔法が使えるという情報はありませんでした。もしかしたら、最近覚えた魔法だったんじゃないですか?」

「ああ、三回戦で見た時に、便利だから覚えておこうと思って習得したんだが……」

「そんな短期間に……!?」


 普通、人の使っている魔法を盗もうとするなら、一ヶ月前後の時間がかかる。

 そんな驚いた表情を見せたフランだったが、疑問は消えないようだった。


「なら、なんで自分の手の内を晒すように封印魔法を使ったんですか!? あなたほどの実力があれば、強引にゴーレムを破壊することもできたはずじゃ……」

「ああ、そういう意味か……キミにとって、あのゴーレムは大切な友達だったんだろ? 破壊するよりも、ああしたほうがいいと思ったからさ。なに、手札を取っておこうなんて器用な真似、俺にはできない。次の戦いはその時に考えるさ」


 するとフランはポツリと呟いた。


「あ、ありがとうございます……私の友達を気遣ってくれて……」

「まぁ、俺もキミくらいの頃は友達が誰もいなかったからな。他の物にすがろうとする気持ちはわかるよ」


 学園にいた頃は友達なんかできなかったことを、ガルは思い出す。


「私と似てるんですね……それなのにガルさんは強いです……私とは大違い……」


 辛そうに俯いたフランを見て、ガルはどこか、放っておけない気持ちになった。


「俺とキミに違いがあるとすれば、それはきっと、俺が『後悔』しているってことだよ……」

「後悔……?」


 フランは顔を上げて、聞き返してくる。


「ああ、俺は子供の頃に、両親を事故で亡くしてるんだ。母さんは俺の目の前で、どんどんと冷たくなっていった……」

「え……」


 フランの顔が恐怖で歪む。


「泣くだけの俺に、最後の最後まで無理して笑いかけてさ……今でも思うよ。あの時、俺が何か助けるための努力を一つでもしていたら、母さんだけでも助けられたんじゃないかってね」

「……」

「だから俺は、同じような後悔をしないために魔法を求めたんだ。もう誰も俺の目の前で死なせない。大切な人を失わないためにね。フラン、キミは強くなりたいのか?」


 今度はガルがフランに問いかける。フランは迷っているようだった。


「強くは、なりたいです……けど、私は臆病で、頭も悪いから……」

「なら、誰か大切な人のことを考えてみればいい。人は自分のことよりも、誰かのためになら頑張れる生き物なんだ」

「大切な……人……」

「そう。例えば……今のチームのみんなとか」


 するとフランは両の拳をギュッと握る。


「チームのみんなは大切です! こんな私に優しくしてくれて……でも、みんな強いから、私が強くなくとも全然困らないんです」

「そんなことはないさ。人は誰も万能じゃない。いつか必ず、フランの力が必要な時が来ると思うぞ。それに、どんなに強い人でも、仲間が自分のために頑張ってくれたら嬉しいもんさ」


 するとフランは再び俯く。まるで、自分自身に答えを出そうとするかのように。


「私の……大切な人……」

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