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魔法使いの世界にて  作者:
三章 マジックバトルトーナメントにて
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臆病者の戦いにて①

「それでは早速、先鋒戦を始めたいと思います。両選手、出場してください!」


 審判の声に、フランがビクンと体を震わせた。


「だ、大丈夫よフラン。あなたはいつも通り、自分の戦い方で頑張ればいいわ。もし辛いときは降参してもいいから」

「ふえぇ……」


 涙で顔がクシャクシャのフランに、ベイクががティッシュを持ってきた。


「フラン、とにかく顔を拭くッスよ」


 フランは涙を拭い、プーンと鼻をかむ。


「それじゃあ、行ってきます……エリーゼ先生、ウサギさん、預かっておいてください……」


 ウサギのぬいぐるみを渡すと、今にも倒れそうなフラフラとした足取りでフランは出て行った。

 そんな様子を、エリーゼは辛そうに見つめる。


「フラン、大丈夫ッスかね?」

「……正直、今のフランに勝ち目は薄いわ。……いえ、負けるだけならまだマシね。下手をしたら、恐怖で一生戦えなくなるかもしれない……そうなったら私の責任だわ。あの子を部隊に誘ったのは私だもの……」


 フィールドに出て行くフランを窓から見つめながら、エリーゼは語る。


「あの子は魔法使いとして十分な素質があるわ。特殊部隊として必要な正義感と優しい心も持っている。あとは自分に自信を持ってくれれば才能が開花すると思ってこの大会に出場させたけれど、これまでどんなに勝っても成果はなし。未だにぬいぐるみを抱いていないと落ち着かないみたいだし……もしかしたら今日の一戦がトラウマになるかもしれないわね……」


 思いつめるエリーゼに、アルフォートが肩にポンと手を乗せた。


「ほっほっほ。なぁに、ずっとお嬢が手を引っ張っていったこと、あの子は忘れんじゃろう。そう簡単には潰れたりせんよ。それにの、どんな出会いと経験が人を変えるかわからないもんじゃ。もしかすると、この戦いこそ、フランの何かを変えるきっかけになるかもしれんぞい?」


 そうして、シルベーヌ一同が見守るなか、フランの戦いが始まる。


* * *


 一方でワイルドファングは、ガルが出撃準備を整えていた。

 チカを副将に置くことを決めたアレフだが、このまま相手の思惑に乗る訳にはいかないと、意表を突いてガルを先鋒に持ってきたわけだが、それが相手にどんな誤算を与えたのかはわからない。


 とりあえずガルはフィールドに出て、戦闘開始位置まで移動することにした。

――すると。


「キャー! ガルく~ん、こっち向いて~」


 黄色い声援が聞こえきた。

 初めての出来事に、戸惑いながらも声のする方向に目を向ける。


「キャー! こっち見たわ~! ガル君頑張って~!!」


 数名の女性が手を振っていた。

――これがファンか。

 そう思いながら、手を振り返す。


「キャー! 手を振ってもらえたわ~!!」


 すごく喜んでいる。

 なんだか嬉しくも恥ずかしい気持ちが入り交じるガルだが。


――ポコン!


 後頭部に何かがぶつかった。

 何事かと思い振り返ると、窓からセレンが腕を振りぬいた格好なのが見えた。

 地面には飲み物のキャップが転がっている。

 ガルはそそくさと窓に近寄った。


「セレン、何するんだ……?」

「……別に? 試合前に浮かれていたみたいだから、気を引き締めてあげたのよ」


「……ただ単に、観客に手を振っただけじゃないか。無視するわけにもいかないだろ」

「その割には、顔がにやけていたわよ?」


「………そんなことないぞ」

「あったわ」


「ない!」

「あった!」


 不毛なやり取りを続けていた二人だったが、審判の催促が響いた。


「ガル選手、早く中央まで来てほしいんですが……」


 言われるがままに、ガルはセレンを無視して中央に歩み始めた。

 途中、ガルは突然、ファンに向かって盛大に手を振る。

 セレンに対する当てつけだった。

 融通の利かないセレンに対して、ちょっとだけご立腹のガルは普段なら絶対にしないような行為でセレンを煽る。


――ポコン!


 またしても後頭部に何かがぶつかって来たが、ガルは振り返ることもなく、中央に向かうのだった。

 ガルがフィールドの中央に来た時、相手の選手はその場にへたり込んでいた。

 セレンと同じくらい小柄な少女。

 猫耳フードを深く被り、前髪も長いこともあり、その表情はよく見えない。

 両手を地面に着いて、ペタンと可愛らしく座っているが……


――ガタガタガタガタ。


 よく見ると小刻みに震えている。


「あの……大丈夫か?」

「ひぃ!」


 心配したガルが声をかけると、軽い悲鳴をあげた。


「あ、あの……大丈夫ですから……その……近寄らないでください!」


 ガーン!

 ガルは軽く衝撃を受けた。


(俺ってそんなに怖いのか!?)


 絶対にガルの方を見ようとしないフランの反応に、自分が怖がられていることに気付く。

 仕方がないのでガルはフランから距離を置いた。


「それではこれより、先鋒戦を始めたいと思います。……えっと、よろしいでしょうか?」


 いつまでもへたり込んでいるフランに、審判が確認を取る。


「あ、はい、始めて下さい……」


 フランはそのままの姿勢で、うなずいた。


「では、先鋒戦、ガル選手対、フラン選手……」


 審判が再度フランを見る。本当のそのままの体制でよいのかと迷いながらも、右手を振った。


「試合ぃ~開始ぃ~!!」


 果たして、先鋒戦の火ぶたが切って落とされた。

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