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魔法使いの世界にて  作者:
三章 マジックバトルトーナメントにて
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二つのチームの交錯にて

* * *


「ワイルドファングだ! ワイルドファングが入場してきたぞ!」

「うおーい! 頑張れよー!!」

 

 四回戦試合当日。

 アレフ達が一同が入場すると、これまでにない声援が聞こえてきた。その声に一同が、キョロキョロと周りを見渡す。


「凄い声援ですね。きっと三回戦で師匠が頑張ったから、みんなが認めてくれたんですよ! 流石、私の師匠ですね! フフン♪」


 なぜかチカが得意気に、胸を張って歩いていた。


 そしてフィールド中央。

 ワイルドファングとシルベーヌは対峙する。


「それではお互いのリーダーは、対戦形式を決めて下さい!」


 審判促されて、アレフはいつものように最初に提案を持ち掛けた。


「こちらは一対一の三ポイント先取を要求する」

「そう、奇遇ね。私達もそれを望んでいたのよ」


 ニコッと笑うシルベーヌのリーダー、エリーゼ。

 綺麗なストレートの青髪は風が吹くと美しくなびく。

 絶世の美女と言っても過言ではない彼女は、周りのメンバーと違ってローブではなく、動きやすそうな着物をきていた。


「それでは、対戦形式が決まりましたので、一度控え室に戻りメンバーの配置を決めて下さい」


 審判の誘導に従って、アレフは戻ろうとしたその時だった。


「あの、アレフさん、少しいいかしら?」


 エリーゼが呼び止めてきた。

 アレフは少し警戒しながらも、エリーゼに向き直る。


「あなたのチームには、刀を使う接近戦のエキスパートがいるのよね?」

「えぇ、よく調べていらっしゃる。そういえばシルベーヌにも、刀使いがいるようですね」


 エリーゼの美貌に少し緊張しながらも、アレフは紳士的に振る舞う。


「えぇ、そうなのよ。アルフォートっていうのだけれど、この二人が戦ったら似た者同士、いい経験になるんじゃないかしら?」

「……まぁ、観客にとってもいいパフォーマンスになるでしょうね」


 アレフは一応話を合わせながらも考える。相手の狙い。その作戦を。


「私はアルフォートを副将に置くわ。それだけよ」


 イタズラっぽい笑みを浮かべるエリーゼだが、そこへ審判が割って入ってきた。


「エリーゼ選手! 相手との相談は禁止ですよ!」

「あらごめんなさい。なら、私の独り言だと思って忘れてくれて構わないわ」


 そう言って、エリーゼは自分の陣地である控え室に戻っていく。アレフはそんな彼女の背中をしばらく見ていた。

「戦いたいです! 戦わせてください、その剣士と!!」


 控え室に戻りチカに相談したところ、彼女は一発で食いついてきた。


「しかしチカ君、あまり相手の手の内に乗るのはよくない。相手の作戦だろうし、何よりも相手の剣士は熟練者だ」

「……わかっています。相手が強いのも、罠かもしれないのも……ですが、同じ侍として、この機会を見逃したくないんです! お願いします!!」


 相手が侍かどうかはわからないが、そんなツッコミを入れるのも野暮というくらいに、チカは必死に頭を下げていた。

 アレフは悩む。チカを副将に置くかどうかを。

 チカはまだまだ魔法使いとの戦闘経験が浅い。だからこそ、三回戦のような相性が出てくるのだ。下手に相性の悪い相手と当たった場合、完封される恐れもある。それならばいっそ、相手の思惑に乗るのも悪くわない……

 アレフは考え抜いて、決断をする。


* * *


「副将戦、相手、乗ってくるッスかね?」

「くるわ、必ずね。大将もアレフで間違いないから、残りは先鋒、次鋒、中堅ね……先鋒はセレンかしら?……いや……」


 エリーゼもまた、頭を悩ませていた。チームのメンバーを、できるだけ相性のいい相手とぶつける配置を。


「中堅はきっとガルね……できたわ。これでいきましょう」


 控えている担当者に、配置表を手渡した。

 担当者はそれを持って表に出て行く。


「それでは両者とも、配置が決まったので発表します! ジャン!!」


   ワイルドファング   シルベーヌ支部

先鋒 ガル     ―   フラン

次鋒 アイリス   ―   リッツ

中堅 セレン    ―   エリーゼ

副将 チカ     ―   アルフォート

大将 アレフ    ―   ベイク


 これを見て、真っ先に青ざめたのはフランである。


「わ、私、アイリスさんとじゃない……三連勝したガルさんとだよ! どうしよう……殺されちゃう!」


 ガタガタと震えて、今にも泣き出しそうな顔になっていた。

 今日はウサギのぬいぐるみを抱きかかえているが、もはや二つ折りになりそうな勢いで抱きしめている。


「お、落ち着くッスよフラン! この大会で死亡者が出たことなんてないッス!」

「でも、相手は化け物だよ!? 私食べられちゃう!!」


 一体その目にガルはどう映っているのか……フランは完全に冷静さを失っていた。

 しかし、意外にもフラン以上に取り乱している人物がいた。それは……


「なんで!? どうしてガルが先鋒なのよ!? ありえないわ!!」


 エリーゼが目を白黒させていた。


「ま、まさか、私の作戦が全て見抜かれていて、逆手に取られた!? た、たた、大変! 作戦を考え直さなきゃ!!」

「お嬢も落ち着けって! 今更考え直す時間なんてないぜ……」


 リッツがなだめようとするが、エリーゼは止まらない。

 フォンフォンフォンフォン!

 よく見ると、エリーゼのアホ毛が凄まじい勢いで左右に荒ぶってる。


「しし、審判に、試合の延期を頼んでくるわ!!」

「んなこと認められるわけねぇだろ! もうこれで勝負するしかねぇって」


 ワタワタと取り乱すエリーゼに、フランがすがりついてきた。


「先生! 私、どうすればいいんですか!? どうすれば勝てますか!?」

「え? えぇっと……それは……」


 言葉に詰まり、いいアドバイスが出てこない。


「ピェ~~!!」


 打つ手がないと悟ったのか、フランはついに泣き出した。


「やれやれ……今日は一段と賑やかじゃのう」


 その場にいたアルフォートだけが、呆れたように目を細めていた。

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