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魔法使いの世界にて  作者:
三章 マジックバトルトーナメントにて
62/108

大将戦の重圧にて➂

「さぁ時間だ。これで終わりにする」

「……」


 ザクロが左手を差し出すと、手のひらの先に魔弾が現れる。

 ガルは無言でザクロを見つめていた。


 フッと、周囲の針がほのかに光る。時間が来たことを示し、一斉にガルに向かって発射された。その後を追うように、ザクロは左手の魔法を解放する。


『シュプリームリベーション!!』


 ドウン!!

 凄まじい魔力の波動が解き放たれた。鋭い無数の針と、その中心から迫る大魔法に逃げ場はない。

 そんな押し寄せる脅威の中、ガルは呼吸を整える。


「俺の考えが正しければ、これは発現できるはずだ……勝負!『インビシビリティ!!』」


 カッ! とガルの体が一瞬光る。試しに封印魔法を触ってみると、あっさりと砕け散った。

 完全にガルの体は無敵状態に変わっていた。

 

 発現した瞬間に魔力干渉が始まるザクロの魔法だが、このインビシビリティは発現すると身体の中から組み変えられていく。それによって外からの魔力干渉の影響は受けないとガルは考えていた。

 実際にガルの読みは当たり、押し寄せる無数の針をその体に浴びても、なんてことはない。針は弾かれ、跳ね返るだけになっている。

 少し遅れて大魔法が到達する。地を砕き、周囲を吹き飛ばす威力だが、今のガルにはなんの感覚もない。


 ガルはフワリと浮かび上がった。無敵状態になると、地面に立つという概念すら危うくなるので、自動的にフライが付与される。

 ガルは魔力の波動の中を進んでいき、ザクロの前に飛び出した。


「なん……だと……!?」


 ザクロは一瞬、戸惑いの声を上げるが、すぐにガルを睨みつけた。


「二回戦で使っていた魔法か!? それは恐らく、魔法抵抗力を極限まで高めた魔法と見た! つまり、物理攻撃が弱点のはず!」


 そう言って、振りかぶった杖を思い切り振り下ろした。

 ゴスン!

 ガルの頭部に杖が叩き込まれる。しかし当然のことながら、ガルはのけ反る事もない。


「バ、バカな……まさか本当に……無敵の魔法なのか……!?」


 完全に効果をはき違えたザクロは、戸惑いながら、少しずつ後退する。


 ある意味で、これはガルにとって予想外の行動だった。二回戦でこの魔法を見せたことで、かなり警戒されていると考えていたのだ。

 正直なところ、とにかく逃げ回って時間を稼がれると思っていたため、そのための左手の魔法をどうしていいか迷っていた。

 ザクロにぶつけることもできず、仕方なくガルは左手の魔法をポンと真上に放り投げた。大きな魔弾はチカチカと点滅しながら昇っていく。


「バージス、アンタの魔法と戦術、ここで使わせてもらうぞ……『エクスプロージョン!!』」


 放り投げた魔弾が、一段と強く光り輝き、次の瞬間――


 ズガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!


 凄まじい大爆発を起こした。

 フィールドの中央で爆発したにもかかわらず、客席の結界をビシビシと揺るがし、今にも壊れそうな衝撃が走っている。

 その爆音と衝撃波は、本来ならこの世界を一周するほどの勢いで広がって行くであろう勢いだ。それが、このフィールドでは全方位を客席の結界に包まれているために、行き場を失い真上に昇っていく。

 その力に乗っかる様に、黒煙が天高く舞い上がり、恐ろしいほど巨大なキノコ雲を作っていた。


 オオオォォォォォォーーーーン……


 次第に音が小さくなっていき、やがて消える。

 周りは未だ煙で視界が遮られていた。

 そんな自爆ともいえる破壊力の中、ガルは無敵状態で同じ位置に浮遊していた。魔力はもう空に近い。


(これで決まってくれ。たのむ……)


 煙が薄くなっていき、周りが見渡せるようになると、そこに人影が現れた。

 紳士的なスーツがボロボロになりながらも、ザクロは地面に立っていた。

 「フゥ……フゥ……」と呼吸を荒くしながらもガルを睨みつけている。


「これでも……倒れないのか……」


 移動しようとするガルだが、ついに魔力が底をつきた。無敵の魔法も、飛翔の魔法も消え去り、地面にドサッと膝を付いた。

 ズン! とザクロが一歩、歩み寄る。

 ズン! また一歩……


 ガルは立ち上がろうとするが、無敵が切れた体からは再び激痛が走り出し、うまく動くことができない。もはやガルも体の限界だった。


 ズン! また一歩こちらに歩みを進める。

 二人の距離が十メートルを切ったときに、ガルは敗北の覚悟を決める。だが――


 ズウゥン……

 ザクロがついに倒れた。ガルの目の前でだ。

 ガルは動くことができず、ただ、ザクロが再び立ち上がらないことを祈ることしかできない。


「ザ、ザクロ選手、ダウンです!」


 フィールドの隅っこで結界を張り、ガタガタと震えていた審判が急いで駆け寄って来た。

 ザクロの様子を見て、真剣に審議をしている。

 ガルはゴクリと喉を鳴らす。


「ザクロ選手、戦闘不能!」


(動くな……これで決まってくれ……)


 ガルは息を呑む。


「よって、この勝負、ガル選手の――」


(早く……早く勝利宣告を……)


 最後の最後まで、安心などできるはずなかった。


「勝ぉぉぉ利ぃぃぃ!!」


 ワアアアアァァァァ!!

 歓声が上がる。それも、これまでにないほどに。

 そのけたたましさに、ガルは尻餅をつき、脱力をする。


「勝った……のか……」


 バタバタと、足音が聞こえてくる。

 気付くとチームのみんなが駆け寄っていた。


「ガル、お疲れ様! すごい頑張ったわ!」


 クレマチス戦から目を覚ましたのだろう。セレンがガルに寄り添ってきた。


「流石師匠です! もうヒヤヒヤしましたよ!」

「ガル君、よく頑張ってくれた……」


 チカとアレフも、感極まった様子だ。


「ガル、ごめんね~、あたしが勝手に棄権したから、アンタに負荷をかけちゃったわね」


 アイリスが申し訳なさそうな顔をしている。

 そんな彼女に、ガルは小さく笑って見せた。


「構わないさ。これが俺の役目だからな」

「も~、カッコつけちゃって~」


 テンションの上がったアイリスはバンバンと背中を叩く。


「はは……アイリス、今は体中が痛いんだ。そんなに叩かないでくれ」

「あはははは!」


 バンバン!


「イタタ……勘弁してくれよ」


 バンバンバンバン!!


「いだだだだだ!! だぁ~! 痛いっていってるだろうが!!」

「あははははは」


 仲間に弄られながらも、ガルは仲間と共に勝利の余韻に浸るのであった。


* * *


 そんな様子を客席で一人の男性がジッと見ていた。

 首にスカーフを巻き、なかなかおしゃれに気を使っていそうな青年である。

 右手に杖を持ち、左目に眼帯をしていた。


「お嬢の予想通り、ワイルドファングが勝ったか……」


 青年はそう呟くと、観客席を背中に会場を出て行った。


――ワイルドファング、三回戦突破。四回戦進出決定!

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