大将戦の重圧にて②
「……そうか、ならば仕方がない。攻撃を続けるしかないようだ……」
ザクロの言葉で背中に冷たいものが走る。ガルは痛みを堪えて勢いよく飛び上がった。
高速で、不規則に飛び続ける。止まっていてはただの的だ。先ほどのように、圧縮した空気の壁に閉じ込められてしまう。
「動いていれば捉えることは難しいはず……『マジックランス!』」
動きながらザクロに攻撃を仕掛ける。
「確かに、そこまで変則的に動かれては捉えることはできない……だが!『エアプレッシャー!』」
ガルの放った槍は、ザクロの周囲で動きを止めた。そして、押しつぶされてサラサラと消える。
「キミの攻撃は通らない!」
「それはどうかな」
バオンッ!
ガルがブーストを使用して一気に突っ込んで行った。手に持つセイバーを付与した杖を構える。
「鋭く……速く……貫け!!」
ザシュ!
音速の速さで勢いをつけたガルのセイバーが、ザクロの空気の壁を貫通した。
そのまま突っ込んでザクロを狙う。
――シュッ!!
セイバーはザクロの頬をかすめるだけで終わった。
(外した……)
ガルは反撃を警戒して、ザクロの動きに最大限の注意を払う。
だが、ザクロは動かなかった。
「フフ……ハッハッハ。やはり同じ作戦は二度も通じんか………最後に聞こう。はやり降参はしないのだな?」
その問いに、ガルは杖の先端をザクロに向けて答える。
「当たり前だ。今この時も、どうやってアンタを倒すか考えている」
「……ならばこちらも全力で答えるしかあるまい!」
「そのセリフは試合前にも聞いたが……?」
ガルの強気な態度に、ザクロの表情は険しくなる。
そして二人は文字を刻みだした。
完成したのはほぼ同時。だがザクロは突然急上昇を始めた。天高く昇り、上からガルに向かって話し出す。
「ガル君、もう一つ教えよう。我々が今、戦うのは試合であって、殺し合いではない」
ザクロが何を言いたいのか、よくわからない。だがあえてその言葉に耳を傾ける。
「試合にはルールがある。そのルールを見極めれば、必勝法というのも見えてくる」
そう言ってザクロは杖をかざす。
『ドミネイション!!』
瞬時にガルは、逃げるように動く。止まっていては、いつ取り込まれるかわからないからだ。しかし、そんなガルの視界は暗くなる。地面が、客席が、そして空が薄暗く見える。
何が起きたのかを急いで把握しようと考えた時に、ザクロは再び語りかけてきた。
「トーナメントのルールの一つは、この闘技場で戦うこと。ならば直径五十メートルほどの、このフィールド全域を支配できれば、戦いを有利に進めることができる」
その言葉でガルは気付いた。周りが薄暗く見えるのは、自分が何か、黒い半透明な入れ物の中にいるということに。
「封印魔法か……」
「その通り。私の足元から下を、全て封印魔法で包んでしまえば、回避することなどできない。あとは収縮して範囲を狭めていけばいい」
あっさりと実行するザクロに対して、そんな大規模な封印魔法を簡単に作れるか! とガルは心で思う。
ザクロが杖を振るうと、フィールド全域を包んだ封印魔法が収縮され、どんどんと範囲が狭まってくる。
「さぁガル君、私の封印魔法を撃ち破ることができるかな?」
ザクロが余裕を見せている。
ガルはとりあえず、左手の魔法を発現しようと考えた。
『ブレイクナックル!』
攻撃魔法を一発当ててみることにした。
しかし、打ち込もうとした瞬間に、左手の魔法は突如弾けとんだ!
「なっ!?」
「ハッハッハ! 言い忘れていたが、私の封印魔法をクレマチスのものと同じだと思わないことだ。この魔法は特殊でね、中には魔力に干渉する物質が含まれている。魔法を発現しようとすると、その物質が強制的に干渉を始めて、本来使おうとしていた魔法に余分な魔力を与えてしまうのだよ」
「……つまり、ここに囚われた者は、魔法を発現することができない……?」
「そういうことだ」
ガルの額から冷や汗が流れる。
バチン! と、ガルの足から音が鳴る。足に付与していたフライが弾けとんだのだ。
ガルは封印魔法の底まで落ちていき、なんとか着地する。
それを見てザワザワと、観客も騒めき始めた。
「マジかよ! 広範囲に加えて魔法が使えなくなるとか、反則級じゃねぇか!」
「この魔法を撃ち破った奴、まだいないんだよなぁ……」
客の騒めきを一身に浴び、ザクロが叫ぶ。
「これが、私のSSランクの魔法、『ドミネイション』だ」
ザクロは悠々とガルを見下ろしながら、今度は左手の魔法を解き放つ。
「『マジックニードル!』……これを一分後に発射」
ザクロの周囲に無数の針が出現した。時間で自動的に発射するようだ。
右手で封印魔法を維持しながら、ザクロは左手で新たな魔法を刻む。
「一つ聞きたい。俺が封印魔法の中にいる時、アンタはどうやって俺を攻撃するんだ?」
「私の封印魔法は中からの攻撃で壊すのは難しいが、外からの攻撃で簡単に壊せるのだよ。ギリギリまで収縮したら、一斉にキミを攻撃する」
「……」
ガルは無言で文字を刻み始めた。今はまだ、封印魔法は収縮している最中であり、まだ少しの猶予があるのが幸いだった。
文字を刻もうと指先に魔力を集めて空をなぞる。ザクロの言う魔力に干渉する物質のせいか、やたら文字を刻みにくい。
何度か綴り直して、右手の魔法が完成した。
(一応、魔法を完成させることはできる。これを発現しようとすると、干渉されて失敗に終わるのか……)
ガルは考える。この状況を突破する方法を。そして、左手でも文字を刻みだした。
封印魔法は、もはやガルが身動きをするのも困難なほどに狭まっていた。




