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魔法使いの世界にて  作者:
三章 マジックバトルトーナメントにて
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大将戦の重圧にて①

「大将のザクロだ。よろしく」

「……どうも」


 相手の挨拶に、ガルは軽くお辞儀をする。

 倒れたヤツデを複数の審判が丁寧に運んでいく姿を横目に、ザクロは開始位置に立つ。

 ブッドレア支部、大将ザクロ。四十代くらいの彼は、真っ赤なスーツを身にまとい、どこぞの社長のような正装で登場した。

 威厳のある態度と、渋い声で挨拶をされると、初対面ならだれでも緊張してしまうような相手だった。


「ガル君と言ったね。一つ聞きたいのだが、キミはさっきの戦いで『サイレント』の魔法を使っていた。あの魔法をキミは元々使えたのかね?」

「……いえ、使えるようになったのはつい最近です」


 ザクロの問いに、ガルは正直に答える。


「調べたところ、キミは一回戦で『サイレント』の魔法を使う相手と戦っていたね。まさかその時に?」

「はい、面白い魔法だなと思って自分も使えるようにしました」


 ザクロは目を見開いて驚いていた。それもそのはず。基本的に魔法は、使いたいと思って使えるようなものではない。特に、相手の魔法を見て、それを真似するなら尚更だ。


 今回の場合、ガルは『サイレンス』の魔法を見て、それを真似するのに原理を理解する必要がある。

 外に音が漏れない防音能力。それを指定した空間に創生する魔力構成。

 それらを理解して、初めて術式を作り上げる。

 術式もまた、自分の体や魔力と相性のいい組み合わせを何通りも試行錯誤する必要がある。

 一つの魔法を作り上げるのに、原理を理解していたとしても大体一ヶ月はかかると言われるのを、ガルは一週間も経たずに身に付けていた。


「まぁ、俺の取り得なんてそのくらいですから……」


 ガルのセリフに、ザクロは笑みを浮かべながら答えた。


「いや、素晴らしい意欲だ。ウチのメンバーも見習ってもらいたいものだよ。キミ達のチームを未だ最弱だのまぐれ勝ちだの言う者もいるが、もはや優勝候補の一角と言えるだろう」


 いくらなんでもほめ過ぎではないかと思うザクロの言葉に、ガルの気持ちは高ぶっていく。しかし、次にザクロは目を細め、渋い声をさらに低くして重々しい雰囲気で答える。


「だからこそ本気で相手をしよう! 手負いだからと言って油断はしない。全力で勝利をもぎ取る!!」


 場の空気が一変する。その重苦しい空気が、重圧が、ガルの心に重くのしかかるようだった。


(これが……大将を任された者の威圧感……すごいプレッシャーだ……)


 ガル達は一回戦、二回戦共に、大将を出さずに勝利してきた。そういう作戦だった訳だが、だからこそ、これが初めての大将戦ということになる。


「それでは第八試合、大将ザクロ対、副将ガル。試合ぃ~、開始ぃ~!!」


 ババババッ!

 二人は高速で文字を刻み、そして同時に発現する。


『フライ!』


 フワリと二人は宙に浮かび上がる。


『マジックセイバー!』


 ガルが武器強化を施し、ザクロに向かって行く。割と得意な近距離戦から勝負を進めたかったのだ。

 ガルは武器を振り上げ、斜めに振り下ろす。

 ザクロは杖を構え、受け止める姿勢だ。セイバーは付与していない。

 杖に強化を付与しているのといないのとでは、重みが違う。うまくいけばこの一撃で体制を崩せるかもしれない。そう思ったが……


――ィィン。


 ガルの攻撃が受け止められた。しかも、衝撃音がほとんどない。

 杖を引きながら受け止めることで、威力を殺して止めたのだ。

 それにしても、セイバーの重みを完全に殺して受け止める腕前は見事としか言いようがない。


――ドゴォ!


 ガルの腹に蹴りが入る。

 ザクロが攻撃を受け止めてすぐに、反撃に出たのだ。


「がはっ! ぐっ……」


 強烈な痛みが全身を駆け巡る。ヤツデに跳ね飛ばされた時の痛みが、再びぶり返してきた。


「近距離戦ならば武器だけではなく、体すべてを使うべきだ」


 まるで戦術を教え込むかのような口調のザクロ。両者は再び文字を刻む。


『マジックランス!』


 ガルが攻撃に出る。ニ十本以上の魔力でできた槍を、ザクロに向けて一斉に飛ばした。


『エアプレッシャー!』


 ザクロが何かの魔法を発現させた。

 見た目では何も変わらない。しかし、魔力の槍がザクロの前でピタリと動きを止めた。その動きにガルは目を見張る。

 ついに全ての槍がザクロに届くことなく動きを止め、サラサラと消えていく。この現象にガルは理解が追いつかない。


『エアプレッシャー!』


 再びザクロが同じ魔法を発現させた。その瞬間、ガルは動けなくなる。


「くっ……これは……? 空気か!?」


 ガルの体は粘土のような、グニグニとした感覚に覆われていた。

 それをその身で味わい、ようやく正体を知るまでに至る。


「そう、私が使ったのは空気を操る魔法だ。普段は気にもしない空気だが、実際にはちゃんと重さがある。この魔法は空気を集め、密として見えない壁のようなもとを作り出す。『フライ』は自分の周りの重力を操作する魔法だが、私の『エアプレッシャー』は気圧を変えるものだ。重力など関係なくその場を固める。もちろん、その重さで体を押しつぶしてしまわないように調整しているがね」


 ザクロはしゃべりながら文字を刻んでいる。

 ガルは焦りながらも突破しようとするが、まるで水の中にいるような、いや、それ以上に粘り気のある空気に囚われて抜け出すことができない。


「ガル君、覚えておくといい。バリアのような結界よりも、状況によってはこういった方法で身を守った方が効果的な場合がある。そして、それを見抜くのが遅れれば……敗北する!」


 丁度よくザクロの魔法が完成する。冷たい目で、ガルを攻撃しようと杖を掲げた。


「くっ! だがこの状況なら、さっきと同じで俺には攻撃が届かないはず……」

「もちろんそれも計算に入っている。この空気の壁を突破するには、細く、強靭な針のような魔法が必要だ。『マジックニードル!』」


 ブゥン! と、ザクロの周囲に白く光る針が無数に出現した。


「これを、鋭く、速く、打ち込むことで空気の壁を貫いてキミを攻撃できる」

「っ……」


 ガルの表情には余裕がない。ザクロの言う通り、魔法の正体を見抜くのが遅れたことで、対応や対策が間に合わない。


「では、これで終わりだ!」


 杖を振るい合図を送ると、周りの針はガルに向かって一斉に飛ぶ。


『マジックバリア!』


 ガルが結界を張る。

 針が結界に到達すると、まるで紙を突き抜けるかのように貫通していく。

 そのままの勢いで、見えない空気の壁と一緒に、ガルの体を突き抜けた。


「~~っ!!」


 全身を貫かれる痛みが体中に走る。

 針が空気の壁を突き抜けたせいか、ガルに纏わりつく空気が綻んだ。

 一心不乱に体をよじり、ようやくその空間から脱出することができたガルだが、全身の激しい痛みにフライをコントロールすることができず、地面に墜落した。


 地面を転がると、体の痛みがさらに増していく。

 目を閉じ、悶絶する痛みを必死に堪えようとする。


「勝負はついた。降参したまえ」


 ザクロが話しかけてきたのがわかった。これをガルは、ラッキーだと感じていた。

 正直、この間に追撃をされたらたまったものではなかった。だがザクロは、降参するように呼び掛けている。ガルはできるだけ時間を稼ぎたいと考えていた。


「ぐぅぅ……ハァ……ハァ……」


 必死に呼吸を整え、少しでも痛みが和らぐのを待つ。


「そんな状態で戦いを続けるのは無理だ。降参したまえ」

「ハァ……ハァ……降参は……しない……」


 苦悶の表情で目を開く。ガルからザクロの姿は見えなかった。

 声が聞こえる方向から察するに、空中から話しかけているのだろう。

 ガルはゆっくりとその身を起こし、立ち上がった。


「なぜ降参しない! この魔法はセイバーと同じで命に別状はない。しかし、実際と同じ痛みを感じるはずだ。もう戦えないはずだろう!」

「……まだ……戦える……体も動くし……魔法も使える!」


 ガルが顔を上げて、ザクロを睨みつける。その瞳は、決して諦めた者の目ではなかった。


「なぜだ!? 副将のキミが降参しても、まだ大将が残っている。キミがそこまで頑張る必要はない! それなのになぜ降参しない! 大将を出せない理由があるのか?」

「……」


 確かに、大将のアレフは戦うことができない。ガルが負けた時点で、チームの敗北が決まるのだ。……だが、今のガルにはそんな考えは頭にない。


「負けたくない……から……」

「なに……?」

「勝ちたいんだ……今まで俺は、仲間と一緒に協力するなんてことはほとんどなかった……だから、この大会が楽しいんだ……一つでも多く勝って、仲間と一緒に分かち合いたい……俺が頑張ることで、勝率が少しでも上がるなら……今はまだ、降参なんてできない!」


 ボロボロの体を奮い立たせ、ガルは真っすぐにザクロを見つめた。

なんか、気圧とか重さとか重力とか言ってますが、

あまり細かいことはツッコまないでください……

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