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魔法使いの世界にて  作者:
三章 マジックバトルトーナメントにて
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副将戦の戦術にて②

「そんじゃあ、続きを始めようぜ! 『スパークウェーブ!』」


 ガルに向かって放たれた青白い閃光は、グニグニと不規則な動きで向かってくる。渦を巻くように、そして不意に波打つように……その動きは予測がつかない。

 ガルはその魔法から逃げるように壁際に沿って大きく回り始めた。攻撃魔法の打ち合いや、シールドと張り合う気などさらさら無い。


「オラァ潰れろ!!」


 壁際を飛ぶガルに、ヤツデがシールドを張ったまま突撃してきた。


「シールドで俺を押しつぶす気か……」


 ギュンと急降下して、地面ギリギリの位置を滑るようにしてヤツデの突進をくぐり抜ける。

 ヤツデはそのまま壁に突っ込んで、客席下の壁をえぐりながらもすぐに方向転換をしてこちらに向かって来た。

 ガルに体当たりをかまして、そのまま壁に押しつぶそうとするヤツデ。そんな彼から距離を取るように逃げ回るガル。二人は追って追われて、息もつかせぬ攻防を続けた。


「ウラウラァ! 逃げてばっかりじゃ勝てねぇぜ!」


 ヤツデが後ろから煽るように叫ぶ。


「安心しろ。今、アンタを倒すための準備中だ」

「はっ! 言ってくれるじゃねぇか!」


 ヤツデの突撃を、ガルはギリギリの所で回避する。その際に一瞬彼の背中が見える。だが、二人は高速で飛び交っているため、そううまく背後から攻撃を仕掛けることができない。


「いつまで逃げ切れっかな! 『スパークウェーブ!』」

「くぅっ……!」


 状況は見るからにガルが不利だった。ヤツデの突撃をくらえば弾き飛ばされ、逃げようとすれば、背後から魔法を撃ちこまれる。

 ヤツデの撃ち込んでくる雷撃を肩に受けながら、それでもガルは回避一辺倒だった。


「ガル、お前の作戦はわかってるつもりだぜ? 俺のシールドは前方にしか広がってねぇ。うまく背後に回れないか探ってんだろう? だが無駄だぜ。一瞬たりとも背後は取らせねぇ!」

「……そんな必要はない。正面から打ち砕けばいいだけの話だ!」


 ついにガルが動いた。ギュンと一気に急上昇してからヤツデに向き直る。その手の杖は煌々と輝いていた。

 ヤツデはハッとした表情を見せるも、面白そうにニヤリと笑うと、迷わず一直線に向かっていく。


「俺の渾身の一撃で、シールドごと吹き飛ばす! くらえ!『インフィニティブレイク!!』」


 客席の結界を壊さぬよう、上空から地面に向かって大魔法を解き放った。

 紫色の閃光がヤツデに襲い掛かる。


「いいぜ! 受けて立ってやらぁ! 弾き返してやんよぉ!!」


 ヤツデは自ら、ガルの放った大魔法に突撃していく。


――バリバリバリバリ!!


 ヤツデのシールドと、ガルの攻撃魔法が接触した瞬間、凄まじい音が鳴り、衝撃波が周囲に広がる。


「オラオラオラァ~! 押し返せぇ~!!」


 ヤツデが気合を込める。

 ガルの使った大魔法のランクはS+。にもかかわらず、ヤツデは魔力の波動を押し返し、少しずつ前進している。


「くっ! これでも破壊できないのか!? ……いや、破壊してみせる!」


 ガルが威力を高めようと、両手をもって魔力を制御する。

 体中の魔力を属性に転換して、放出させる。それを全力で行っていた。

 まさにガルのフルパワー。全力全開だった。


――ビシッ!


 ヤツデのシールドにヒビが入った。


「耐えろ! 耐えろよ俺の結界! こんなヤワじゃねぇだろ!」


 この時ヤツデはガルのすぐ近くまで迫っていた。あと一押しと言う距離だが、眩い閃熱に遮られ、お互いに相手の姿はよく見えていない。


――ビシビシ……パリッ……


 崩れかけるヤツデのシールド。だが彼はそれでも前に進もうとする。


「あと少し、あと少しのはずなんだ、一気に……ぶち破れぇぇぇ~~!!」


 バオンッ!

 ヤツデがブーストを解き放った!

 爆発したかのようなブーストの瞬発力で、ガルの魔力を一気に押し返した。


 ズバアアァァン!!

 あちこちにヒビの入った結界は、ガルの攻撃魔法を完全に押し返し、打ち破った。

 その反動にガルはよろめき、ヤツデはそこに突っ込んでいく!


「俺の勝ちだぁ~!!」


 叫ぶと同時に、ガルの体をシールドで跳ね飛ばした。


――はずだった。

 だが、ガルの体は触れた瞬間に水となり、バシャリと崩れる。


「な!?」


 理解が追いつかないヤツデは混乱を通り越して、僅かの間、思考が止まった。


 ザン!

 ヤツデは後ろから、首筋の急所から腰にかけてセイバーで切り裂かれていた。

 あまりに唐突な衝撃に、意味もわからず後ろを振り返ると、そこには武器を振りぬいたガルの姿があった。


「ざ……っけんな……今まで競り合いをしてた……はずなのに……なんで……」


 もはや致命的なダメージを負ったヤツデは、フラフラと地面に落ちて行く。

 審判が駆け寄り、勝敗を決めるべく状態を確認しようとする行為を、鬱陶しそうにしていた。


「ヤツデ選手、戦闘不能! 勝者、ガルゥ~選手ぅ~!」


 ウオオオオォォォォッ!!

 歓声が包まれながら、ガルがヤツデのそばに降りてくる。そんなガルを恨めしそうにヤツデは見つめた。


「なんでだ……どうやって俺の後ろを取った……?」


 起き上がることもできず、ヤツデは倒れたままガルに問いかける。


「簡単なことだ。俺は右手で攻撃魔法、左手で分身魔法アバターを組んでいた。両手で大魔法を制御して、それが破られた瞬間に左手の分身魔法を発現さる。アンタは水で作った分身に突っ込んで、弾けとんだ水で視界が悪くなった瞬間にブーストを使って大回りで背後を取っただけだ」

「ふざけんな! ブーストを使えば独特な音が鳴り響く! そんな音は聞こえなかったぞ!」


 ガルはビシッと人差し指を立て、それを上空に向ける。


「『音響遮断サイレンス!』。上空の一部に、サイレンスの魔法で音を遮断する空間を作っておいた。……最初から説明するとこうだ。俺はアンタから逃げ回っている最中、上空にサイレンスで防音の空間を作っておく。準備ができたらタイミングを見て、その空間の一歩手前に陣取ってアンタに大魔法で攻撃を仕掛けた」

「……突然上空に移動したのは、客席の結界を壊さないよう上から下に攻撃するためじゃなく、その空間の近くに移動したからかよ……」


 ヤツデは悔しそうに顔をしかめた。


「俺はサイレンスの空間を背に、アンタと競り合いを始めた。結果、俺の大魔法は打ち破られたわけだが、その時にゆっくりと後退しながら自分と同じ位置に分身魔法で身代わりを置いた。後退を続けた俺はサイレンスの空間に入り、アンタが分身に突っ込み、水が弾けた瞬間にブーストを使って背後を取った」

「はっ! 全部お前の計算通りだったってわけかよ……」


 ヤツデは力を抜き、ぐったりとした表情で目を閉じた。


「これで二人目……次でラストだ」


 ガルは体を動かし、痛みの具合や体調を調べながら、相手チームの方に視線を移す。

 入口から、一人の男がこちらに向かって来るのが見える。


「続きまして、ブッドレア支部、大将の入場をお願いします!」


 審判の声が響く前に、その男はすでに近くまで歩み寄っていた。


――ブッドレア支部、大将ザクロ。


 彼が一歩こちらに踏み出すだけで、ガルは異様なプレッシャーを感じていた。

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