次鋒戦の欲望にて②
中途半端な場面で一ヶ月放置になってました。
本当にすみません。
ここからサクサク更新していきたいと思います!
実は新作書いて遊んでおりました。
もしよければ、そちらもよろしくお願いします。
「次は私の番ね。行って来るわ……」
スタスタと歩き出すセレンの肩を、アイリスが慌てながら掴んだ。
「ちょ、ちょっと待って! 今回の相手はマジでヤバいって! セレンみたいな純情な子は棄権させた方がいいかも」
「そうです! 見てください私の着物! 危うく全部溶かされて辱めを受けるところでした! 隙あらば全裸にしようとする鬼畜変態なんですよ!! 控え目に言ってキモすぎる変態なんです!!」
ボロボロになった裾や袖を指しながら、チカまでもが取り乱している。
「……だけど私が棄権したら、あと戦えるのはガルしかいないわ。そうなるとガルは四人抜きしなきゃいけなくなる……私が一人でも多く倒さないと」
セレンはいたって冷静に答えた。
その言葉にガルが一歩前に出た。
「二人がここまで言う連中だ。俺なら四人抜きでもなんでもするから、セレンは棄権した方がいい」
「大丈夫よ。結局は相手の攻撃を浴びなければいいんでしょ? なんとかする……」
セレンは決して戦うことを止めようとはしない。
ついには審判が中堅を呼ぶ声が響き渡った。
「じゃあ行って来るわ……」
いつものように、セレンは静かに言い残して戦いに赴いた。
* * *
「ブヒィィィィィ!! 幼女キタァァーー!!」
セレンと対峙すると、突如カザニアは発狂した。
「……幼女じゃないわ。もう十六だもの。それよりもあなた、あまり私の仲間をいじめないで! 特にアイリスがションボリしてて慰めるのが大変だったのよ? アイリスはスポンジだから、変なことを吹き込むとすぐに吸収しちゃうの」
「スポンジ? でもアイリスたんがへこんだのは僕のせいじゃなくて、先鋒のシャガが原因だと思うよ?」
「似たようなものよ。お仕置きしてあげる……」
セレンがキッと目つきを鋭くするが、カザニアはニタニタと不気味に笑っている。
「フヒヒ。幼女にお仕置きされるなんてご褒美だなぁ~」
「それでは第四試合を始めたいと思います。次鋒カザニア対、中堅セレン! 試合~開始~!」
女性審判は開始を告げると、急いでカザニアの後方に逃げるように移動した。彼の溶解液の巻き添えに合いたくない一心だろう。
『フライ!』
カザニアが先に飛翔の魔法で空中に浮かび上がった。そのままセレンから距離を取る様に離れていく。セレンは未だ動かない。
「フヒ。正直、チカたんとの戦闘で受けたダメージがしんどいから、出し惜しみなしで行くよ。『メルトフォール!!』」
ザバァァーーと、地面から勢いよく噴き出した液体はセレンを包み込むように迫ってくる。その壮絶な迫力に、セレンは表情一つ変えずに杖を構えた。
「やっぱり初手で使ってきた。予想通り……液体は凍らせれば問題ないわ。『サーチ!』、『アブソリュートゼロ!』」
パキパキパキ……と一瞬にして津波が凍り付いた。その絶景たるや、観客は息を呑む。
闘技場の端から端まで逃げ場がないように生み出された津波が凍らされたことで、フィールドは完全にセレン側と、カザニア側に分かれてしまった。
一部の観客は試合が見えない状況となり、慌ただしく移動を開始している。
セレンはすぐさま、両手の指で文字を刻み、次の行動に移った。
* * *
フィールドが壮絶な氷で二分割されたカザニア側。ここで彼は作戦を練っていた。
(完全にセレンたんの姿が見えなくなっちゃったなぁ。だけどそれは向こうも同じ。僕の『メルトフォール』を解除して、この氷の壁を消すことはできる。けど、今はこれを利用してセレンたんのローブを溶かす作戦でいこう! 僕は溶解液を雨のように降らす魔法も使える。これを使って相手側だけに攻撃すれば、セレンたんを全裸にすることも……デュフフフ)
カザニアがいやらしい目つきで不気味に笑う。だがその時だった。
――ブウゥン!
カザニアの周囲に突如として魔法の玉が出現した。
チカチカと点滅するその光を見て、カザニアはハッと我に返る。
ズガアアアアァン!!
「んぎゃ~~~!」
一斉に爆発した衝撃で吹き飛ばされ、地面を転がるカザニア。
(そ、そうだ! 確かセレンたんはどこの空間にも爆弾を生み出す魔法が使えたはず! けど、氷の壁で僕の姿は見えないから狙えないんじゃ……)
――ブウゥン!
続けざまにカザニアの周囲に機雷が浮かび上がる。
「う、うわああ~!!」
慌てて機雷の薄い、右側へ逃げ出すと、背中から爆発音と共に衝撃が襲ってきた。
「な、なんで正確に僕の場所がわかるんだよ!!……まさか、『サーチ』か何かの魔法を初手でかけられたのか!? だとしたらこんな氷の壁なんか意味がない!」
カザニアはこの時、すでに混乱状態に陥っていた。『メルトフォール』の維持で、右手では魔法が使えない状況下で、必死に最善の行動を考えようとしていた。
(攻撃? 防御? 溶解液? どれを使えばいいんだ!?)
しかし、セレンがいつ攻撃を仕掛けてくるかわからないという焦る頭では考えがまとまらず、逆に動けずにいる。
「くそぉ! とにかく、この氷を消して、それから防御魔法を刻んで――」
慌てながらもカザニアは、『メルトフォール』の魔法を解除した。
するとフィールドを二分割していた巨大な氷の壁は、一番上の先端から徐々に消えていく。ただの魔力に戻り、空気中に霧散していく様を見ながら、防御魔法を刻み始めたが――
ドゴオオオオオオオン!!
目の前の氷の壁に大穴が開き、轟音を響かせて閃熱が目の前まで迫っていた。
(大魔法!? このタイミングで!?)
意表を突かれながらも、体が反射的に回避行動を取る。
――バオンッ!
ブーストを使い、横へと高速移動したカザニアだったが……
その先に待っていたものは、またしても無数の機雷。
(あ! 逃げ道が……)
頭が理解した時にはすでに遅く、音速の速さで複数の機雷に体からぶつかっていった。
* * *
ドオオオォォン!
爆音が響き、目の前の氷の壁がサラサラと粉のように消えていく。
セレンは『サーチ』の魔法によってカザニアの位置を把握していたために、見なくとも結果はわかっていた。
――彼はうつ伏せの状態で、尻を浮かせる恰好のまま、煙を上げて気絶していた。
「カザニア選手、戦闘不能! よって、セレン選手のぉ~勝ぉぉ~利ぃぃ~!」
ウオオオオオオオ!
叫び声にも似た歓声があがる。
「マジかよ! あのセレンって子、一歩もあの場所を動かなかったぜ? 飛翔の魔法も使わなかったし」
「全部計算尽くって感じだったな。にしても、攻撃魔法オンリーとかヤバくね? 少しでも読みが外れたら終わりじゃねぇか!」
「うひょ~! あの幼女強ぇ~!」
あちこちから観客の声が聞こえてくる。
「幼女じゃないわ……もう大人よ……」
どこから聞こえてくるかもわからない声に、小さく呟くセレンだった。
 




