表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法使いの世界にて  作者:
三章 マジックバトルトーナメントにて
52/108

先鋒戦の狂気にて①

* * *


 時は少しだけ巻き戻る。


「それでは対戦形式を決めて下さい」


 もう三度目となる、おなじみの闘技場。

 いつものようにアレフを先頭にして、相手のチームである『ブッドレア支部』と対峙していた。


「アレフです。よろしくお願いします」

「ザクロだ。こちらこそよろしく、アレフ君」


 相手のリーダーであるザクロと名乗る男性は、ゆうに四十は超えていた。そのためアレフは敬意を表して敬語を使っている。

 ちょび髭をそろたダンディな顔つきの彼は、スーツを身にまとっていた。

 魔法使いは一般的にローブとマントを着込むが、そんな彼は魔法使いと言うよりは、どこかの会社の社長のようだった。


「こちらはシングル戦、三ポイント先取を要求します」

「私は勝ち抜き戦を要求しよう」


 ザクロの提案に、アレフの鼓動は緊張で高鳴る。ワイルドファングにとって、勝ち抜き戦はもっとも不利な形式なのだ。


「勝ち抜き戦は認められません……」

「こちらも譲る気は無い。ウチのメンバーが、どうしても勝ち抜き戦にしてくれとうるさいのでね」


 アレフはザクロの後ろに待機するメンバーに目を配る。すると、一部のメンバーがにやついていることに気付いた。

 長髪の男は、その髪の隙間から覗かせている瞳を見開いて笑っていた。

 腹の出ている太った男は、息を荒くして、ニタァと不気味に微笑んでいた。

 もう一人のアゴ髭を伸ばした中年の男性は静かに目を閉じ、このメンバーで一番若いと思われる青年は、不気味に笑う二人に気付き、ギョっとした表情を見せた。


「おまえら、なに笑ってんだよ! キモすぎだろ! 相手がドン引くだろうが!!」

「悪りぃ悪りぃ、つい顔にでちまってよぉ……ククク」

「フヒ、フヒヒ! 楽しみだなぁ……」


 そんな彼らに、アレフは得体のしれない不安を感じる。


「それでは、両者共に譲らないようなので、こちらが抽選で決めたいと思います! ではお互いに好きな色を選択してください!」


 審判の女性はそう言って、二回戦で見せた時と同じ魔法を組み上げる。

 ザクロは黒、アレフは青を選択して、二択の魔法が発現した。


――その抽選の結果、勝ち抜き戦が決定して、アレフは頭を抱える事になる。


「それでは両者、メンバーの配置を決めてください!」


 審判に従い、一度控え室に戻ったアレフ達だったが――


「こうなった以上、やっぱりあたしが先鋒を務めるわ!」


 アイリスは気合十分といった感じだった。

 だがアレフは、ブッドレアのメンバーがニヤついていたことが頭から離れない。


「本当に彼らは強敵を求めているのだろうか?」

「もうそんなこと考えても仕方なくない? 勝ち抜き戦が決まった以上、全員倒さなきゃいけないんだから」


 アイリスの言うことはもっともだ。

 アレフはこれ以上考えても答えは出ないと思い、メンバーの配置を決断した。


「それでは両者のメンバー構成が決まったようなので、発表しま~す! ジャン!!」


   ブッドレア支部     ワイルドファング

先鋒 シャガ     ―   アイリス

次鋒 カザニア    ―   チカ

中堅 クレマチス   ―   セレン

副将 ヤツデ     ―   ガル

大将 ザクロ     ―   アレフ


「さぁそれでは早速、先鋒戦を始めたいと思います! 選手は前へ!!」


 審判の高らかな声に、アイリスは気合を入れるように両脇に力を入れた。


「よし! じゃあ行って来るわ! 五人抜きするわよ~」

「アイリス君、あまり無理はしないように。次の戦いに支障をきたしては意味がない」


 わかってる、とうなずき、アイリスはフィールドに向かって行った。


* * *


「よろしく……って、アンタ髪長いわね~。前髪邪魔にならないの?」


 ブッドレアの先鋒シャガと対峙して、アイリスはストレートにそう聞いた。

 彼の前髪は胸元まで伸びている。分け目を付けていて、その僅かな隙間から目が見える程度だった。


「クク、俺ぁ人相が悪いって言われるからよぉ。顔を隠すくらいで丁度いいんだよ。髪を切るのもめんどいしな」

「いや、そっちの方が怖いって……幽霊みたいだし……」


 髪と髪の隙間から覗かせている目は、ギョロっとして不気味だった。


「それでは先鋒戦、シャガ対アイリス。試合を始めてくださ~い!」


 審判が手を振り下ろした瞬間に、二人は文字を刻みだした。


『マジックウィップ!』


 シャガの杖から、ニュルリと魔力で構成された鞭のような長い得物が現れた。それを瞬時に振り下ろす。

 バァン!

 かろうじて回避したアイリス。叩きつけられた地面からは砂埃が舞い上がっている。

 

「うわっ! ビックリした!!『フライ!』」


 急いで空中に飛び上がるアイリスに向かって、シャガは鞭を振り上げる。器用に使いこなし、アイリスの足首に巻き付けた。


「クヒヒ!『ストレングスゥ!』」


 筋力強化をほどこして、力任せに思い切り鞭を振り下ろすと、アイリスの体は凄い勢いで地面に叩きつけられた。

 土が高く舞い上がるほどの衝撃だった。


「くはっ……! この……『マジックセイバー!』」


 刃で自分の足に絡まる鞭を振りほどくと、急いで身を起こして警戒する。


「げほっ……痛っつ~……」


 背中の痛みに、むせるように咳こむアイリスだが、シャガの様子がおかしいことに気が付いた。彼はワナワナと打ち震えていたのだ。


「びゃああぁぁあああぁ~~~~~~~~~!!」


 突然シャガは絶叫をあげた。天を仰いで、体を仰け反らせたまま吠えるその姿は、気が狂ったかと思うほどだった。

 流石のアイリスも、そんなシャガの奇行にしばし動けずにいたが、少しずつ感じつつあった。


(喜ん……でる……?)


 空に叫んでいたシャガが、ガクンと猫背に戻る。髪の隙間から見える瞳は血走り、歯をむき出しにして笑っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ