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魔法使いの世界にて  作者:
三章 マジックバトルトーナメントにて
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空気の読めない仲間にて

「セレン……」


 ガルは唖然と呟く。


「……ケホッ! そう……直撃の寸前に使ったって魔法……身代わりの魔法だったみたいね……片方のダメージを……もう片方が全て肩代わりする……」

「くっ! 離しなさい!!」


 腹部からセイバーが貫通しているにも関わらず、セレンは双子の手首を掴んで離さなかった。


「ガル……ちょっと離れてて……『エリアルマイン』」


 フワリと空中に現れた機雷は、二人を囲むように漂う。

 その行動にガルも、手首を掴まれている双子も青ざめた。


「終わりよ……」


 力無く呟くセレンが合図を送ると、周囲の機雷が一斉に起爆する。

 その爆風に巻き込まれたガルが必死に体制を整え、周りを見渡しセレンの姿を探すとクレーターとなった地面のかたわらに倒れる二人の姿があった。

 そこにガルよりも早く、審判が駆け寄っていく。


「両者、戦闘不能! ガル選手が残りましたので、ワイルドファングの勝利となります! これにて二回戦を先に二勝いたしましたワイルドファングは三回戦進出決定ぃぃ~!!」


 審判の宣告に会場が一気に騒がしくなる。だがガルはそんなことはお構いなしにセレンに駆け寄った。


「セレン! 大丈夫なのか!?」


 セレンは気を失っており返事は返ってこない。

 そこへアレフ達が駆けつけて来た。


「隊長、三回戦の日時を聞いておいてください。俺はセレンをベットに運びます!」

「わかった。セレン君は任せたよ」

「あたしも行く!」


 セレンを抱きかかえて運ぶ後ろをアイリスが着いて来る。


「私は……隊長さん一人じゃ可哀そうなんで、ここにいますね」


 チカと隊長を残して、ガルは控え室のベッドにセレンを運んだ。控室には医療担当が必ず一人は付いているので、すぐに診てくれた。


「後頭部に大きなタンコブがありますね。それと先ほどの自爆による火傷、まぁどちらも大したことはありません。腹部もセイバーによるダメージなんで、命に別状はありません。痛覚遮断の『インタラプト』をかけましたので、安静にしていれば三回戦までにはほぼ完治するでしょう」


 担当医はそう告げて、席を立った。


「いやぁ~、でもまさかセレンがガルを庇うなんてねぇ。こういう場合って普通逆じゃない?」

「……」


「え~っと……意外とアンタも抜けてるのね。やっぱこのチームはあたしが引っ張っていかないとダメよね~」

「……」


「あの……なんか反論してくれないと心苦しいんですけど……」


 アイリスはばつが悪そうに自分のほっぺたをポリポリとかく。


「……俺は、どうせただの魔法オタクだ……」

「え……うん、それはみんな知ってるけど……って、もうウジウジしないでよ! そもそもあの暗闇の中、なんでセレンは相手の動きが読めたのかしら?」

「……俺とセレンで、『サーチ』の魔法で双子を分けて監視していたんだ。結局セレンの担当した方が暗闇を作り出して、恐らく俺を強襲しようとした。『サーチ』で動きを把握したセレンは咄嗟に自分を盾にしたんだろうな」

「なるほどねぇ」


 すると横たわっていたセレンが目を覚ました。


「あれ? ここは……?」

「セレン!? 大丈夫か? どこか痛んだりしないか?」

「いや、インタラプトかけてもらったんだから痛むわけないじゃん。アンタちょっと落ち着きなさいよ!」


 アイリスは半ば呆れた様子だった。


「何か飲み物が欲しかったりしないか?」

「あ、うん、じゃあもらおうかしら……」

「わかった! 今すぐコーヒー買って来る!」


 そう言ってガルは走り出す。


「待ってガル! 私コーヒー苦手よ~……」


 アイリスはもやは、心配するどころか呆れるばかりだった。

 その日、闘技場の近くの宿にて一泊することになった。セレンのダメージもそうだが、ガルもインビシビリティの使用で魔力がほぼ空っぽだった。

 その宿の一室、ガルはセレンを付きっ切りで看病していた。


「三回戦までには治りそうだわ」

「……そうか」


 ガルは小さな声で相槌を打つ。


「ガル、元気ない? どこか痛いの?」

「……痛めているのはセレンの方だろ……?」

「これくらい平気よ。ガルは遠慮しないで私に頼っていいのよ?」


 その言葉に、ガルの胸は痛みだす。


「セレンは何もわかってない! それで無理して怪我をしたり、痛い思いをしたら意味がないんだ! 今日だって俺は心臓が止まるかと思ったんだぞ!」

「この大会は殺すのは禁止のクリーンな大会よ? ガルは少し心配しすぎ。それに、もし立場が逆だったらきっとガルも同じようなことをしたんじゃない?」

「それは……俺は男だから別にいいんだ」

「何それ? 性別なんて関係ないでしょ。私だってガルを助けたい。前に助けてもらった上に、生きる支えになってくれたこと、まだ全然返せてないと思ってる」

「別に返してもらおうと思ってやったことじゃない」


 するとセレンは、少しの間言葉を失っていた。

 だが、静かにこう言った。


「なら、なんでガルは私を助けたの?」

「いや、なんでって……前に言ったろ? 俺は素直な奴と友達になりたかったんだ。その上魔法の知識も豊富で……」

「本当にそれだけ? ガルは素直な子だったら誰でもよかったの?」


 セレンは口元を毛布で隠し、目だけ覗かせている。

 その瞳は、どこか寂しげだった。


「いや、それは……だって、俺は……別に、そんな……」


 言葉になっていなかった。

 ガルのセレンに対する感情は、明らかに一線を越えていた。だが、それを口にすることができず、ただただ口ごもる。


「ガルのばか……」


 小さく、たった一言、セレンはそう呟いた。

 それを聞いたガルは、何も言えなくなってしまう。

 そうして僅かな時間、沈黙が流れた。なぜかそれは、永遠とも思えるほど長く感じたほどだった。


「もういい。無茶なことしなければいいんでしょ? はいはいわかりました」


 沈黙を破ってセレンが半ばヤケクソ気味にそう告げる。

 そんな態度にガルは粛々しゅくしゅくとしていたが、次にセレンは突拍子もないことを口にした。


「でもその代わり、無茶なことをしちゃダメっていうおまじないを私に掛けて」

「おまじない?」


 ガルが聞き返すと、セレンの頬が少し赤くなる。


「うん。私はもう寝るから、その後でガルは私にキスするの。それができたら、もう無茶しないと思うわ」

「!?」


 その言葉に耳を疑う。鼓動が急激に早くなった。


「じゃあ私、もう休むわね。お休みなさい。……ぐぅ~」


 セレンは眠ったようだ。いや、どう考えても起きている訳だが、つまりはそう言うことなのだろう。ガルに逃げ場は無くなった。


(女性に恥をかかすなって、前に読んだ本に書いてあったな)


 ガルは震えながら立ち上がるとベットに近付いていった。

 セレンの顔の横に手を置くと、ベットが軋む。

 とりあえずここまでは行動できたが、この先に中々進めない。

 ゴクリと喉を鳴らし、ガルは覚悟を決めた。

 ゆっくりとセレンに近付いていき、互いの吐息が感じられるほどまで迫ったその時――


――バタン!


不肖ふしょうながら私も侍のはしくれ! 義によってお見舞いにきました~!……って、あれ? セレンちゃん寝てるんですか?」


 ノックもせずにチカが扉を開け放ってきた。

 ガルはグイーンと背伸びをするように伸びをして、セレンは毛布を被って顔を隠していた。


「ああ、眠ったよ。たった今、な……」


 ガルはそう言って、重いため息をはいた。

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