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魔法使いの世界にて  作者:
三章 マジックバトルトーナメントにて
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生命の神秘にて①

「チカ、いま回復させてあげるから」


 アイリスはチカに麻痺回復の魔法をかける。

 ポワワーっと光に包まれると、チカはムクリと体を起こした。


「ありがとうございます。……それとすいませんでした。先に脱落してしまって」

「仕方ないわ。それに視覚を共有していたもう一人の相手をしてくれたし十分よ。さ、戻りましょ」


 そう言って二人は、周りの歓声に手を振りながらフィールドを後にした。

 控え室に戻った二人を仲間が出迎えてくれる。真っ先に声をかけたのはアレフだった。


「二人ともお疲れ様。よくやってくれた。特にアイリス君は、最後まで冷静に判断していたね」

「最後はちょっとヒヤヒヤしたけどね」


 セレンがボソッと口に出す。


「なんか企んでるのはわかってたから、『アクティベーション』と『バリア』で潰しておこうとしただけよ。それより問題なのは……」


 全員が一斉にチカを見る。その視線にチカはカタカタと震え出した。


「この子、麻痺回復の魔法を覚えていなかったわよ」


 アイリスの言葉にガルの表情が険しくなった。


「そういうことか……アイリス、すまないが今からこいつに麻痺回復の魔法を教えてくれないか」

「い、今からですか!?」


 ギョッとしたようにチカが叫ぶ。やはり、魔法の習得は相当苦手なようだ。


「当たり前だ! この試合には多くの偵察が来ている。チカに麻痺攻撃が有効だということが完全にバレただろう。次の三回戦までに麻痺回復を習得しないと格段に不利だ」

「うぅ……師匠とセレンちゃんの試合、ちゃんと見たかったです……」


 そしてすぐさま習得に向けて術式を組む作業に入るチカであった。


* * *


「よし! 次は俺達の番だ。セレン、頑張ろうな」

「まかせて……」


 ガルに向けてビシッと親指を立てるセレン。相変わらず物静かだが、気合は十分のようだ。


「では隊長、俺達にも作戦を!」

「え? ああ~、そうだね。……まぁ、双子のタッグが相手なわけだが、彼女たちは恐らく強敵だ」

「はい!」

「だからその……連携とかも完璧だと思う。頑張ってくれ!」

「……つまり作戦はないのね」


 体裁を取りつくろうアレフを、セレンが一刀両断にする。


「すまない。彼女達がどんな行動に出るか、まるで想像ができない……臨機応変に対応してほしい。」

「わかりました」


「だがあえて言うのならば、双子という特性だろう。キミ達はなぜ、双子のタッグが強敵だと思う?」

「それは……意思疎通ができているイメージがあります」


「そう、双子はどういうわけか、お互いに考えていることが理解できるという話がある。連携も、役割も、いちいち言葉にせずとも伝わり、故に無駄な動きはなくなる」

「そう言えばあたし達の相手、視覚を共有する魔法で戦ってたわ。似たようなことをするかもしれないわね」


 チカに魔法を教えているアイリスが、アドバイスを送るように投げかける。


「恐らく魔法を使わなくてもそれくらいの意思疎通はできると思っていい。好みの男性、好きな食べ物。それらが一緒なのはさることながら、病気になると片方も具合が悪くなり、腕に傷を負うと、もう片方も腕にあざが浮かび上がるという話も聞いたことがある。そう、それは正に、魔法を超えた生命の神秘!」


 ガルは腕を組んで考える。想像以上に厄介な相手なのかもしれないと思った。


「だがキミ達は魔法使いとして質が高い! どんな連携で攻めて来ようとも、弾き返すだけのステータスがあると思っている。強引に攻めるのも一つの手かもしれない。私が言えることはこれくらいだ」


 そう言ってアレフは口を閉ざした。

 ガルとセレンは今の話を参考に、出来る限りの作戦を練る。


「それでは中堅戦。選手の入場をお願いしまっす!」


 ギリギリまで話し合っていた二人だが、意を決して立ち上がった。

 フィールド中央にて両者が対峙する。双子の女性は長い髪をツインテールに結んでおり、まだ若い。恐らく二十代前半だろう。


「頑張ろうね! クラちゃん!」

「油断しちゃダメだよ! スカちゃん!」


 二人で激励を飛ばしている。近くで見ても、どっちがどっちなのか見分けがつかない。


「……よろしく」


 セレンが小さく挨拶をした。ガルも合わせて会釈をする。


「「よろしくお願いしま~す」」


 双子は見事にハモった。


「それでは中堅戦、スカーレット&クラレット 対 ガル&セレン。試合開始ぃぃぃ!!」


 審判の宣言と同時に両者は文字を刻む。


『フライ!』と、その場の四人の声が同時に響いた。

 フワリと浮かぶ双子に対して、ガルとセレンが素早く双子を挟むように、分かれて飛んだ。

 一対一の勝負に持ち込めればよし。固まって行動するなら挟んで攻撃を仕掛ける作戦だった。


「挟みこんできたね、クラちゃん」

「作戦通りにいこう、スカちゃん」


 挟まれた双子は唐突にセレンに向かって突っ込んで行った。その全く乱れのない動きに、セレンは気圧され後ずさる。

 ガルは慌てて後を追うが――


「うりゃあ~!『ウィンドスラッシュ!』」


 かまいたちと言うべきか、風の刃がセレンに向かって真っすぐ飛んでいく。


『マジックシールド!』


 ガギィィン!

 かまいたちを弾いたセレンだが、すでに目の前まで双子が迫っていた。


『ボルティックストーム!!』


 ほぼゼロ距離で放たれた魔力の放射は、セレンのシールドをミシミシと軋ませる。次第にヒビが入り、ついには大きな音を立てて砕かれた。


「ひゃあぁ~……」


 セレンを吹き飛ばし、動きの止まった双子にガルが追いついた。


『ブラストショット!』

『マジックシールド!』


 背後を狙った衝撃波を、セレンに攻撃した逆の子が防いだ。

 交互に魔法を使うことで、片方が対応している間にもう片方が文字を刻む。そうして、いつでも魔法を発現できるようにしているようだ。

 ガルは攻めるのを止めて、相手の様子を見た。少なくとも双子は、まだ二つの魔法を発現できる状態にある。今攻めても打ち負けると思い、セレンが復帰するのを待つことにした。


(セレンのシールドはSランク。見る限り、それを打ち砕いたさっきの魔法は同ランクか……)


 Sランクの大魔法をうまく戦術に組み込み、その隙やリスクを二人で埋めるその連携は見事としか言いようがなかった。今、目の前にいる相手は、まるで四連続で魔法を使える一つの意思にすら思えた。

 そのうちに、吹き飛ばされたセレンが舞い戻り、ガルに向かって呼びかける。


「ガル、近距離戦の方がむしろ安全かもしれない……」

「わかった。『マジックセイバー!』」


 ガルとセレンは杖に魔法の刃を付与させて、同時に挟むように双子に突撃をかけた。


「いくよ、クラちゃん!」

「決めちゃお、スカちゃん!」


 双子が杖を天にかざし、コツンとお互いの先端を合わせた。

 その瞬間、ゾクリと寒気が走る。

 何か分からない。いや、分からない何かが来る! 本能がそう告げていた。


「融合魔法!『ディアボリックサンダー!!』」

「くっ!『マジックシールド!』」


 双子の周囲に激しいいかづちが巻き起こる。いくつもの荒れ狂う雷に、咄嗟に張ったシールドを傘のようにして身を守るが、あっさりと引き裂かれた。


「ぐあぁっ!」


 落雷を受け、ガルはそのまま地に落ちていった。

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