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魔法使いの世界にて  作者:
三章 マジックバトルトーナメントにて
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『シェアリングス』の効果にて

「うりゃあ!『サウザンドレイ!』、『フレイムブリッツ!』」

「なんの!『サンダーウォール!』、『マジックアロー!』」


 二人の攻防が続く中、その激しさは次第に増していった。

 流れ弾があちこちに飛び交い。白熱の打ち合いとなっていた。


「にゃろぉ!『エアブリッツ!』」


 アイリスが風の魔弾を地面に放った。破裂と同時に砂が舞い、辺り一面が砂埃で見えなくなる。


「こしゃくな!『エアスラスト!』」


 風の刃で砂埃を吹き払うボルドーだが、その時すでにアイリスは逆さまになりつつ、背後に回り込んでいた。


「もらった!『サウザンドレイ!』」

「甘ぇ!『サンダーウォール!』」


 ボルドーの背中を狙った攻撃は、魔法の障壁で防がれた。


「ふぃ~、危ねぇ~!」

「……」


 今の攻防で、またしてもアイリスは疑問に思う。ボルドーは完全に自分を見失っていたはずで、その死角からの攻撃をなぜ防ぐことができたのか。

 チカを麻痺させた時もそうだった。まるで背中に目が付いているかのような動きを見せている。

 序盤にチカが三十メートル先のコルクを攻撃した時も、その瞬間にコルクは振り向いていた。


(焦るな。絶対に相手のペースに乗っちゃダメ……)


 アイリスは自分に言い聞かせる。これまでの攻防でアイリスが格上なのは明白だった。しかしボルドーは凌いで凌いで今に至る。

 アレフが言ったように、とにかく大逆転のチャンスが来るまで粘るような戦い方。そんな彼に多少の焦りを感じていた。


(なんかの魔法を使ってるのかしら?)


 アイリスがボルドーに注意を払いながら、辺り一面をぐるりと見渡した。

 目で見えるものは何もない。強いて言えば、哀愁漂う姿でヘコんでいるチカと、同じくうつ伏せになっているコルクの姿。

 だがその瞬間、アイリスの鼓動が跳ね上がった。胸騒ぎを覚えて、もう一度倒れているコルクを見る。


――彼は、じっとアイリスを見つめていた。


 目が合うと慌てて顔を背けるコルクを見て、アイリスは思う。


(ずっと見られてた? なんで? 確かに勝敗が決まる大事な局面。見られててもおかしくはないけど……まさか!)


「ほらほらどうした? 続き始めようぜアイリスちゃん」

「ちょっとタンマ!」


 そう言ってアイリスはどこかに飛んでいく。


「は? タンマって……はぁ? フリーダムすぎんだろ!?」


 ボルドーは戸惑うが、アイリスとの実力差が足枷あしかせとなり、深追いすることができない。

 フワフワとチカの元へ飛んできたアイリスは、彼女の首根っこを引っ掴んで持ち上げた。


「はわ? な、何するんですか?」

「チカ、アンタに罰を与えてあげる♪」


 楽しそうな口調で、まるで猫を掴むように運んだ先にはコルクがいた。そしてその真上で手を離すと、当然のように落下してコルクと重なる。


「な、なんなんだな!? 戦闘不能の選手に攻撃するのは禁止なんだな!」

「攻撃じゃないわ。アンタ達、暇してそうだから連れてきてあげたのよ? 戦闘不能の選手に触っちゃダメとか、運んじゃダメってルールはないでしょ? んじゃチカ、こいつの相手してしてあげなさい」


 ええ~! と驚きの声を上げたのはチカだけじゃなくコルクも一緒だった。


「お? おぉ!? 頭に何か、柔らかいものが当たってるんだな!!」

「ひゃあ~~!! それは私の胸です! コルクさん頭動かさないでください!!」


 きゃあきゃあと喚きながら、二人は大混乱に陥っていた。

 イタズラっぽい笑みを浮かべながら、アイリスはボルドーの元に戻って来た。


「……チッ! 気付いたか」

「ええ、なんとかね。アンタ達が使っていたのは多分『視覚の共有』ね。お互いに見たものが、お互いの情報として受け渡しできるんでしょ?」

「……」

「だから最初にチカがコルクを討った時も、狙われていることをアンタが向こうに伝えて振り向かせた。二度目の強襲は、コルクにチカを見させて攻めるタイミングを把握していた。あたしとのサシ勝負の時は常にあたしの動きを見させて死角をなくした」


 どんなもんよと言わんばかりの表情で、アイリスはタネを解き明かした。

『シェアリングス』。開幕時に使ったこの魔法が、彼らの視覚を共有する魔法だったのだ。


「へへっ、正解……おらぁコルク! ちゃんとアイリスちゃん見て情報送れや! 羨まし……じゃなくて負けちまうだろうが!!」

「わ、わかったんだな……」


 しかしコルクがアイリスを見ようとしても、目の前には背中から転げ落ちたチカが横たわっていた。

 足をくねらせ、地べたに倒れるその姿は妙に色っぽい。さらにアイリスに襟首を掴まれて運ばれたせいか、着物がはだけて肌が露出している。

 そんな姿を無視できるはずもなく、コルクの視線はチカに釘付けとなっていた。


「やぁ……み、見ないでください。恥ずかしすぎます……」


 脳がとろけそうになる声。さらには顔を真っ赤にして涙目になるチカを見た瞬間、コルクは盛大に鼻血を噴き出した。


「きゃあ~~! 大丈夫ですか!?」

「ウラァ肉団子!! チカちゃんばっか見てんじゃねぇよボケ!!……あ、でも超カワイイ……ってそうじゃなくて仕事しろや!!」


 視覚を共有しているボルドーもなんだか忙しそうだ。


「あはは~、なんかちょっと腹立つからさっさと終わらせるわね~」


 引きつった笑顔で杖を振りかざし、アイリスがゆっくりと迫っていく。


「かかった!『サンドプレッシャー!』」

「へ?」


 アイリスの周りの砂が、彼女に覆い被さるように集まってきた。アイリスはその砂に包まれてしまう。


「タンマしている間に作っといた罠だ。ボケっとしてるだけと思うなよ!」


 砂は球体となって細かくうごめく。ギギギとガラスに擦るような音が聞こえていた。


「あれ? 俺の『サンドプレッシャー』は球体に固まったりしねぇぞ? それにこの音……そうか! 寸でで『マジックバリア』と発現させたな。どの道そこから動けねぇだろ」


 ボルドーは空に舞い上がり杖を構えた。その先端が光り出す。


「動けないならそのバリアごと、俺の大魔法で吹き飛ばしてやる!」

「アイリスさん!!」


 チカが叫ぶが砂に覆われた球体からはなんの反応もない。


「喰らいやがれ!『フレアストライク!!』」


 真っ赤に燃え盛る巨大な火球が放たれた。砂に包まれたバリアに接触するとミシミシと嫌な音を立て始める。行き場を失った火球は直後、大爆発を起こして辺りに熱風が吹き荒れた。

 顔を庇うように伏せたチカは、恐る恐る顔を上げる。

 黒く炭になった地面の中央に、アイリスは立っていた。


「あっつ~! あ~も~服がちょっと焦げちゃった……」


 そんなアイリスの様子に、ボルドーは驚きのあまり口が開けっぱなしになっていた。


「あの、なんでアイリスちゃんは平気なん……?」

「平気じゃないわよ~。ほらここ! 火傷しちゃってるでしょ?」


 手の甲を指差してアピールしているが、どの道大したケガではない。


「まぁ、あたしをバリアの上から仕留めようと思うなら、最低でもS+くらいのランクは必要よ?」

「え、S+……難易度高くないっすか……?」


 冷や汗をかくボルドーに、アイリスは淡々と言い放つ。


「んじゃ~今回あたしと戦えていい勉強になったわね。今後とも精進しなさい」


 そう笑顔で言いながら、杖をボルドーに向けた。杖が煌々と輝き出す。


「特別にS+の魔法を見せてあげるわね。バリアの中にいる間に準備してたんだ~。アンタが空にいてくれて助かったわ~。空に撃てば結界を壊すこともないもんね」


 顔を引きつらせながらもボルドーは防御魔法を急いで刻む。


「いくわよ~。『イフリートロア!!』」


 閃熱が荒々しい音を立てながら、一直線にボルドーに向かって伸びていく。


「くっ!『マジックシールド!』」


 前方に防御壁を張ったが、もはやランク違いなのは明白だった。すぐにヒビが入り、粉々に打ち砕かれた。


「んぎゃあああ~~~!」


 閃光に包まれて吹き飛ばされたボルドーが、ベシャンと落ちてきた。プスプスと煙を上げて黒ずんだ彼は動かない。


「ボルドー選手、戦闘不能ぉ~! よって、先鋒戦はワイルドファングの勝ぉ~利ぃ~!!」


 場内が歓声が響き渡る。


「戦ってて思ったけど、アンタは動体視力が悪いのよね。だからあたしの魔法を避けるんじゃなく、受けようとしてる。そこら辺も鍛えたらいいんじゃないかしら」


 バサッと金髪を左手で翻しながら、勝ち台詞のようにそう言い放った。

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