フォッグ支部の『ビリジアン』にて①
「それでは、これから二回戦の作戦会議を行う!」
アレフが会議室にて号令をかける。
彼らは一回戦を突破したその日は近くの宿に泊まったが、次の日には自分達の街、ノードに戻ってきていた。
というのも、二回戦まではまだ日にちがある。その間、ずっとこの街を離れることはできない。ここはそれだけメンバーが不足していた。
そんなこともあって、次の相手の試合を観察してデータを取ることもままならない状況だった。
「次の相手はここより海を越えて東の大陸にある、フォッグという街だ。チーム名は『ビリジアン』として登録してある」
「フォッグ……? 聞いたことがないわね。どんな街なのかしら?」
セレンが考え込みながら質問をする。
「フォッグは街と呼ぶには少し小さいが、自然が多い所だ。緑が多く、のどかで、空気がとても澄んでいるらしい」
「ふ~ん、でもそれってさ」
ここでアイリスが口を挟んだ。
「田舎ってこと?」
シーン……
少しの間、沈黙が訪れる。
「ま、まぁ、そうとも言うかな。ビリジアンというチーム名も『緑の成長』という意味があるらしい。自分達の街の特徴を表現し、大切に想う気持ちが見受けられるチームだ」
「……具体的な戦闘能力はどうなの? っと言っても、今回このチームの試合を見ていた人は誰もいないのよね……」
セレンの言う通り、ビリジアンはトーナメント表に従って、ワイルドファングの前に試合を行っていた。そのために応援に来た人を含め、誰もがこのチームの試合を見てはいなかった。
「まぁウチ等の街も小さいから、別に田舎をバカにする訳じゃないけど、そこまで脅威を感じたりはしないわよね?」
「そうね……もしも強豪だとしたら名前が知れ渡っているもの」
どことなく緊張感がない様子で、セレンとアイリスが簡単に言い放つ。
「隊長はそのチームをどう思って、どういう作戦を考えているんですか?」
ここでガルが話を聞こうとアレフの方に向き直った。
「うむ。前回の大会の時、あのチームは粘り強い戦い方をしていた記憶がある。彼らは自分達が強くないことを自覚している。だからこそ、その実力の差を埋めるため作戦や立ち回りを徹底して、自分達が優位な状況になるまで決してあきらめない。最後の最後で大逆転さえ視野にいれて行動する。そんな戦い方をしていたよ」
「なるほど、最後まで油断できない相手ですね」
ガルは腕を組み、うーむ、と唸り声を上げる。
「ビリジアンはクロガネ支部のように、油断や慢心は絶対にしないと言っていい。むしろワイルドファングの方が格上という認識で、すでに戦い方や使える魔法を調べ上げている可能性もある。恐らく、死にもの狂いで勝利を取ろうとするはずだ」
「だけど、クロガネ以下か、同等の強さなら問題はないわ。一回戦の戦いで、あたし達が世界に通用することは証明できた。この勢いで一気に蹴散らすべきよ!」
握りこぶしを作りながらアイリスが力強く主張した。
顔が若干ドヤ顔になっている。
しかしアレフはため息を吐き、静かに言い返した。
「アイリス君、一回戦をスムーズに勝ったからといって油断していないかい? セレン君は初戦で負けそうになった。次に似たような状況になった時に、もう『レリース』は使えない。アイリス君だって、次も攻撃魔法のせめぎ合いで勝てるとは限らない。ガル君の相手のように、あの手この手を使って隙を突いてきた場合、キミはうまく対処できるだろうか?」
「う……あ、あたしは……どんな相手でも対応してみせるし……」
勢いを失いながらもアイリスは苦し紛れに虚勢を張る。
「君達が強いのは事実だ。だが、油断した結果、負けて悔しい思いをしてほしくはない」
「私も隊長さんと同じ意見です」
今まで静観していたチカが、ここで口を開いた。
「今の皆さんは少し浮かれている気がします。もう少し気を引き締めて行かないとダメだと思うんです!」
そう言い放つチカに、一同の目が向けられる。
今日の彼女は珍しくハチマキを巻いていた。よく見るとそれには『祝・一回戦突破』と書かれている。
さらに彼女の周りには、襷やら旗が乱雑に置かれていた。どれも二回戦開催日時が書きこまれている。
「ねぇチカ、それを振り回して街を巡回してたの?」
「はい! ちゃんと宣伝しておきました!」
「浮かれてんじゃん! アンタが一番浮かれてるわよ! よく自分のことを棚に上げてそんなことが言えたわね!!」
机をバンバンと叩きながらアイリスの力強いツッコミが飛び交った。
「い、いや、知ってもらうことも重要かと思いまして~……」
「一回戦で出番なかったくせに……」
「あぁ~! セレンちゃんひどいです!」
女性陣が騒がしくなることで、もはや作戦会議どころではない雰囲気だ。
そんな様子にアレフは頭を抱えて悩むばかりだった。
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「それでは二回戦、『ビリジアン』対『ワイルドファング』の試合を始めまっす!」
色っぽい女性審判の言葉が場内に響き渡った。
歓声が鳴りやまぬ中、それでも今現在では観客席に空席がチラホラと目立っていた。
「なんか、お客さん少なくない?」
「マイナー同士の戦いだ。よほど好きな人以外は見に来るのも一苦労だからな」
一回戦同様に、リーダーが前に出て残りのメンバーは少し後ろに並んでいる。そんな中でアイリスとガルが会話をしていた。
「だが、そんな観客に交じって魔法使いの姿も見えるな」
ガルが視線で促すと、アイリスもそれを追って客席に目を向けた。
どこぞの支部の紋章が入ったマントを羽織っている者。
杖を持つ者。
恰好からして魔法使いである者。
いたる所からそんな者達がこちらを眺めていた。
「マイナーなチームでも、偵察に来てくれるくらいには気にしてもらえているみたいですね」
チカが闘志を抑えきれない様子で口ずさむ。
「では、始めにリーダー同士で対戦形式を決めて下さい!」
「ビリジアンのリーダー、アッシュだ。よろしく」
「ワイルドファングのリーダー、アレフだ、こちらこそよろしく」
お互いのリーダーが挨拶を交わし、そこから交渉に移っていった。




