謎の杖の適合者にて
* * *
アイリスや教師たちは生徒を非難させ、一部、力のある者がキメラと対峙していた。
ガルの言う通り、確かにキメラはこちらが攻撃を仕掛けない限りは襲ってこなかった。しかし、これ以上暴れるなら容赦はしないと学園側がいきり立っており、一触即発な空気である。
遠くの方でガルと少女が戦っているのが見える。
アイリスはその様子を固唾を呑んで見守っていた。
(あれがダブルマジック。すごい攻防! あ、今度は死角の取り合い! なんてスピードなの。……あれがガルの本気)
あんな相手に勝とうとしていたなんて、実力違いも甚だしくて恥ずかしくなってくる。
次の瞬間、少女の大魔法によってガルが吹っ飛ばされたのが見えた。
「ガル!」
思わず叫び、向かおうとすると、キメラ達が行く手を阻む。
――そもそも自分が向かってどうなるのだろうか? ただ足手まといになるだけではないだろうか?
そんな無力感で体が動かなくなる。しかし、
「アイリス、行けよ!」
クラスメイトたちが前に出る。
「キメラは俺たちが抑えるから、お前はガルんとこに行け。助けに行きたいんだろ?」
「先生に言っても止められるだけだからな! 俺たちでやってやろうぜ!」
「みんな……わかった! ありがとう!」
(そうだ、何ができるかなんて行ってから考える。あたしはいつだって、自分に素直に生きてきたんだから!)
みんながキメラを抑える隙に、フライで一気に通り抜ける。
「幸せになれよ!」
「末永くお幸せに!」
などと聞こえてくる。別にガルとはそんな関係ではないのに、とアイリスは思った。
何故か気恥ずかしい気持ちになりながらも、アイリスはガルの後を追う。
* * *
『スパークショット!』
「うおおおおおっあぶね!『フライ!』」
ガルはすでにセレンに追いつかれ、後ろからバンバン魔法を撃たれていた。
急いでフライを発現させる。すでに何発か喰らって体が痛い。
命中率重視の魔法か、大きなダメージではないが、できれば喰らいたくなんかないのは当然の事だろう。
そして逃げ回るごとに、ガルに向けられた攻撃によって周りの扉が破壊されていく。
(おいおい、どんだけ壊す気だよ。いやそうか、扉を壊して回収品を探してるのか)
フライで左右に揺れながら的を絞られないように飛ぶ。
避けた魔法が前方の扉を破壊すると、その奥に杖が祀られるように置いてあるのが見えた。
「ん? この支給品よりましか!?」
一気にその部屋へと飛び込んで、ためらう事無く杖を手に取り感覚を確かめる。
「うん、魔力の上昇もなかなかだし、魔力の流れもスムーズだ。いい杖だな」
セレンが追いついてきた。
「あなた、その杖……適合者なの!?」
そう言われてハッと気づく。
――これが回帰の杖だった。
「どうやらそうみたいだな。どうする? 倒して奪うか?」
「だとすると、この部屋に……」
しかしセレンは部屋を見渡すようにキョロキョロしている。
「何探してんだ? 他にも欲しいのがあるのか?」
ガルの問いかけを無視して周りを見渡すセレンの目が一つの石で止まる。そして、その石目がけて一直線に飛んだ。
だが、ヒョイッと石に近かったガルが先に奪う。
「なんだ? この真っ黒な石。セレン、これが欲しいのか?」
「それを……返しなさい!」
「いや、返せって別にお前のじゃ、うおっ!」
セレンが武器で攻撃を仕掛けてくる。ガルはそれを避けて廊下に飛び出す。
ガシャン!
窓を割って廊下から外へ! もう狭い廊下での鬼ごっこはこりごりだった。
再び空中でにらみ合いながら、石を確認する。それは子供の拳くらいの大きさの真っ黒な丸い石だった。
「セレン、この石は何なんだ?」
「あなたには……関係ない!」
セレンがこちらに杖を向ける。
――まずい、来る!
そう本能が告げていた。
『レリース!』
バオン!
同時にブーストを使って全速力で後方に逃げた。
すぐにブーストが切れて通常の速度になると、魔力の波に追いつかれそうになる。
また墜落するのも嫌なので着地すると波はガルを突き抜け、フライを消滅させた。
すぐにフライを使おうと文字を刻むも、今度はセレンが追いついてきた。ガルに向かって思い切り武器を振るい、ガルはそれを必至に回避する。
避けきれない一撃を受け止めようとするも、セイバー付きの武器の重みに耐えきれず体ごと弾き飛ばされてしまった。
バランスを崩したガルに、セレンが追撃の一撃を振るう。そこへ――
ザシュ!
飛び込んで来たアイリスが盾となり、背中を斬り付けられていた。
「アイリス!」
「早く魔法を!」
「くっ!『フライ!』『マジックセイバー!』」
「邪魔しないで! 『ダークブリッツ!』」
ガルがダブルマジックを使うのと同時に、セレンの魔法がアイリスを吹き飛ばした。ガルがアイリスを追おうとすると、
「ガル! これで負けたら許さないから!」
自分は気にするなと、構わず戦えと、そういう事を言い残したであろうアイリス言葉。それに対してガルは少し迷ったが、一気にセレンに突撃していった!
――恐らく、次にレリースを使われたら負ける。
「うおおぉぉー! セレン!」
近距離戦に持ち込み、激しく武器を振るう。レリース発動の文字を刻ませないために、ガルは激しくセレンを攻撃した!
セレンは防御に徹し、少しずつ文字を刻もうとする。
バオン!
ガルがブーストでセレンの背後に回った。
「ブーストでの死角の取り合いなら、先に使うと不利よ」
バオン!
一瞬で逆にセレンがガルの背後に回った。
「だろうな、けどヤマが当たればそうでもないさ!」
後ろも見ずに、杖を後方に突き刺すように差し込む。
――ズンッ……と、セイバーの付与で先端が槍のように尖った杖が、セレンの肩に突き刺さった。
「なっ!?」
セレンが驚き、距離を取ろうと後ろに下がる。
ガルは距離を詰めようとセレンに突っ込む。
セレンがガルに杖をかざした。
――アレが来る! 間に合え!
ガルも一心不乱に杖を向けた!
『レリース!』
『パライスショック!』
バチッ! とガルの魔法がコンマ早く発現して、セレンの体に電撃を浴びせた。
その後、レリースの波でガルが初期状態に戻されるが、セレンはその場に倒れ、起き上がろうとしても体が動かせない様子でモゾモゾと地面を這っていた。
「体が麻痺して動けないだろ? 射程がかなり短いが、入れば効果は絶大のはずだ」
セレンは地面に突っ伏し、こちらを睨みつけている。
その時、ガルに向かって魔法弾が飛んできた。
「くっ、誰だ!?」
何とか回避するも、爆風で周りがよく見えない。
視界が晴れると、一人の少年がセレンに肩を貸していた。
「セレン、もう無理だよ。撤退しよ」
「……そうね、キメラに撤退指示を」
「もう出してるよ」
前髪で目元が見えない少年が、セレンを急かす様に言い放っている。
「ガル……また必ず奪いに行くわ」
そういうと二人でフラフラと撤退していった。
会話の中に、あれ? 敵の名前はもう覚えたんだ?
などと聞こえたが、何の事だかわからない。それより、急いでアイリスが吹き飛ばされた辺りにガルは向かう。そこは低い崖になっていて、下には川が流れていた。
「流されたのか!?」
ガルは辺りを見渡す。
結局、通報で駆け付けた特殊部隊がガルを保護しに来るまで周りを探したが、アイリスを見つける事は出来なかった……
回帰の杖装備によって、詠唱速度が上がったり、
フライの扱いが楽になったりしております。