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魔法使いの世界にて  作者:
二章 失踪事件にて
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薬と祭りの準備にて

* * *


「ってか、今更だけどさ、この人達なんで襲ってくんの? 実験にされた被害者じゃないの?」


 アイリスが疑問を口にすると、チカが説明を始めた。


「私達は人と動物のキメラになることで拒絶反応が出て、定期的に発作が起こるようになったんです。それを抑える薬は博士しか作れません。だからみんな、否が応でも従うしかなかったんです」

「そ、その通りだ! 私を捕らえるとこいつらは全員死ぬことになる! わかったら私を解放しろ!」


 すでに拘束された博士は、余裕のない様子でしきりに喚めいている。


「うるさいわねぇ。『スリープ!』」


 アイリスの魔法で、博士はあっさりと眠りに落ちた。


「チカも薬が必要なのか?」

「はい師匠。私も例外ではありません。だけど私の覚悟は決まっています。自分の命欲しさに犠牲者を増やす訳にはいきません。ここで全て終わらせましょう……」


 チカの言葉に周りの獣人だった者達は悲痛な面持ちになる。みんなすでに、力を抑え、普通の人としての姿に戻っていた。


「なら、最後の時くらい家族と過ごさせてくれ。子供がいるんだ……」


 獣人であった男性が、そう静かに口にした。

 するとセレンがハッとした表情で声を上げた。


「ちょっと待って。私の仲間にストルコっていう合成獣キメラに詳しい子がいる。まだ少年だけど、キメラに対する愛と知識は本物よ。彼ならなんとかしてくれるかも」


 一同がそれぞれ、驚いたように顔を見合わせる。


「チカ、俺達は今回、お前のケンカに乗っただけだ。薬を確実に手に入れるために、この男を解放するかどうか、最終的な決断はお前が決めていい」

「いえ、博士は役人に引き渡します。薬はセレンちゃんの仲間にお願いしていいですか? それに賭けます。……他の皆さんには申し訳ないですが」


 チカが獣人だったみんなを見渡した。


「それでいい。キャットがそこまで腹をくくってるんだ。俺達だって意地とプライドを見せるぜ」


 男達も、ラビットも、決意を固めたようだった。

 こうして、この場の戦闘で傷を負った者の手当が済んだ後、博士をノードの街で待機している隊長に引き渡した。

 さらわれた子供と獣人の被害者達も、それぞれガル達が手分けして家に送り届け、とりあえずは一段落つくことになる。

 だがここから、ガルとセレン、そしてチカの三人はすぐにストルコの元へおもむき、話を聞くことにした。なにせ、時間がない。残りの薬を均等に分けて、それらがなくなる前に薬を作らなくてはいけないのだから。

 ストルコは土木作業の仕事に携わり、住み込みで働いている。ガル達はストルコに面談する許可を得て、彼の登場を待っていた。


「やぁセレン。急にどうしたのさ? うわっ! 僕のキメラを殺した兄ちゃんもいる!?」


姿を見せるなりその少年は、あからさまに嫌そうな顔をする。


「スポイト、あなたにお願いしたいことがあるの」

「……セレン、人に頼み事をするならまず、ちゃんと名前を憶えてから来るんだね。ボク忙しいから」


 ストルコはやる気がなくなったようにきびすを返す。

 ガルは慌ててセレンを抑え込み、ストルコに取り繕った。


「話を聞いてくれ。この一大事にキミの力が必要なんだ。頼む、ストルコ」


 ピクリとストルコが反応した。


「ふ~ん、ボクの名前、憶えてくれたんだ?」

「え? まぁ当然だろ?」

「仕方ないな……お茶くらい出してあげるよ」


 何やら機嫌がよくなった少年が、部屋に入ることを許してくれた。

 寮の小さな部屋に四人というのも狭く感じるが、そんな些細なことは置いておくように、一同がテーブルを囲む。

 ストルコはご機嫌な様子でガルに雑談を振っていた。

 しかしその少年とは逆に、やたら不機嫌なセレンが湯飲みをテーブルに叩きつけるように置いた。


「ストルコ、お茶のおかわりはないのかしら? 気が利かないわね!」

「え? ああ、わかったよ。面倒くさいなぁ……」


 ストルコがいそいそとセレンの湯飲みにお茶の注ぐ。


「まったく……あなたがうちに来た時は周りに溶け込めなくて、キメラしか友達がいなかった。だから私が気を使い名前で弄ってあげてたというのに……」

「やっぱりワザとだったんだ! そんな弄りいらなかったんだよ!」


 セレンとストルコが揉めるのをバツが悪く見ていると、チカが話しかけてきた。


「師匠。この二人、なんだかお似合いじゃないですか?」

「いや、揉めてるようにしか見えないが……」

「仲がいいほどケンカするものです。ここはお若い二人に任せて、邪魔者は退散しましょう!」


 何やらお見合いのようなセリフを言うチカが、ガルの腕を引こうとする。そんな彼女の頭をセレンががっしりと掴んだ。


「誰のためにここまで来たと思ってるの。大体ストルコは私の弟みたいな存在よ。勝手にくっつけないでくれる?」

「ボク、セレンを姉として見たことなんて一度もないよ?」

「なんですって!」


 再びいがみ合う二人にチカがさらに興奮する。


「お似合いです! お似合いのお二人です! さぁ師匠、もうセレンちゃんのことは忘れて、今は私と……」


 いそいそと立ち上がるチカの首根っこを掴み、セレンが怒りを押し殺したような声を出す。


「チカ、あなた本当に状況わかってるの? 危機感がまるで感じられないのだけど」

「私はもう覚悟を決めていますから。もう残り少ないこの命、師匠との青春に使おうかと思いまして……」


 その言葉にストルコが反応した。


「ん? 残り少ない命?」

「そう! 今日はそのことでストルコに相談をしに来たんだ」


 ガルはこれを好機として、話を膨らませた。

 ようやく話が進み、獣人のことや、拒絶反応による発作の薬が必要なこと。全てを話した。


「人と動物の合成獣とかすごいね。正に神をも恐れぬ行為だ」

「で、薬は作れそうなの?」


 セレンの問いに少年は腕を組み、少しの間考え込んだあとに口を開いた。


「ボクには無理だね」


 その言葉に、その場の空気が絶望へと変わった。


「師匠~! ショックです! 慰めて下さい!!」

「ちょっとチカ! 事あるごとにガルに抱きつこうとしないで!」


 いや、あまり重い空気にはならなかった。

 そうガルは複雑な気持ちになる。


「ああ、ごめん。言い方が悪かったよ。ボクには薬学はないから無理であって、街の薬剤師と協力すれば作れると思うよ」


 え!? と、三人は交互に顔を見合わせる。

 そして深く頭を下げ、大至急取り掛かってもらうようにお願いするのであった。

 急ピッチで行われた薬の作成は、一週間もかからずに完成した。これによって、ようやくこの事件は終わりを迎えることとなる。

 そして今、派出所内にて――


「え~、今日からチカ君がここの仲間に加わった。みんな、ちゃんと面倒を見るように」

「ちょっと待ったああぁぁ~~!!」


 能天気な顔をして紹介されるチカを前に、アイリスが叫び声をあげた。


「チカって普通の学校通ってたでしょ!? いいの!? これっていいの!?」

「はっはっは! アイリス君はせっかちだな。別に正式に加えるわけじゃない。アルバイトだよ。学校が休みの日、人手が足りない時に手伝ってもらう感じさ。それと彼女は今年で卒業だ。その後は正式にうちに加わりたいと言ってきた」

「はい! 私のこの刀は正義のために、ここで振るいたいと思っています。皆さん、よろしくお願いします」


 目を輝かせて挨拶をするチカに一同が群がり、その場は騒然としていた。

 そんな中、アレフは自分のあごを指でなぞりながら、何かを考えている。


「これで四人か……少し早いが、まぁいいだろう。みんな聞いてくれ。ガル君!」

「はい」

「アイリス君!」

「はい?」

「セレン君」

「はい……」

「そしてチカ君!」

「なんですか?」

「この四名は来年の『お祭り』、に参加するメンバー確定だと思ってくれ」


 そのアレフの言葉にガルが首を傾げた。


「お祭り?……あ、『マジックバトルトーナメント』だ! もう来年か!」


 アイリスとセレンも思い出したような声をあげる。


「アレにあたし達が参加するの?」

「……考えてなかったわ」


 しかし、チカだけは何もわかっていないような顔をしていた。


「あの、マジックバトルトーナメントってなんですか?」


 その信じられない言葉に、一同の視線が一斉に向けられる。


「アンタ、実は異世界から召喚されたとか、そんなこと言わないわよね?」

「こ、この世界に召喚術なんてありませんよ! 私は侍の修行ばかりで、魔法使いのイベントには無関心だったんです……」


 アレフはまぁまぁと一同を落ち着かせて、チカに最初から説明を開始した。


「マジックバトルトーナメントは元々、魔法犯罪を減らす目的で開催された大会だ。かく支部の特殊部隊から五名を選抜して、先鋒、次鋒、中堅、副将、大将と置き、相手のチームと戦うトーナメント戦さ。四年に一度行われており、来年の五月に開催される」


 その説明に、チカはまたしても能天気な顔をしていた。


「それに私が出るんですか?」

「ああ。その頃、チカ君は正式にうちの特殊部隊のメンバーだからね」

「私、侍ですよ?」


 するとガルがポン、とチカの肩に手を置いた。


「強者揃いの大会で、お前がバッタバッタと勝ち抜いていけば、それは侍の強さを証明することになるじゃないか」

「おお~~! それもそうですね! 私、頑張りますよ~!」


 目に火をつけたようにやる気になった彼女が、握り拳をかかげ興奮していた。

ってことで、三章はチームトーナメント開催です。

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