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魔法使いの世界にて  作者:
一章 黒不石にて
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最終決戦の行方にて①

タクティクスオーガみたいな戦争のゲームでよく、

敵と味方でお互いが自分の信じる理想を熱く語り、でも分かり合えず、

結局戦う事になるようなシーンがあると思います。

自分はそういうシーンが結構好きで、バージス戦はそんなイメージで描いてみました。

* * *


「私、もう少しで完成するわ。アイリスはどう?」


 セレンが少しだけ手を緩めて、アイリスに魔法の進捗しんちょく状況を聞いた。


「ん~、あたしはもうちょっとかかりそう……」


 アイリスは自分が組み替えた術式をメモした紙とにらめっこしながら、ゆっくり文字を刻んでいる。かなりいっぱいいっぱいな感じだった。


「セレン!! まだか!?」


 唐突に遠くからガルの声が聞こえた事で、セレンは辺りを見渡し、すぐに状況を理解した。バージスがこちらに向けて大魔法を放とうとしており、それをガルが庇うように立ち塞いでいる。


「アイリス、急いで!!」

「分かってる! でも、まだ……」


 この時セレンの魔法は完成したが、アイリスは間に合いそうにない。セレンはガルに向かって叫んだ。


「ガル、逃げて!」


 しかしガルは逃げない。その事にセレンは不安と焦りが入り交じる感情を覚えながら、アイリスの魔法を待った。

 そして、バージスの魔法がガルに撃ち込まれ、大爆発を巻き起こす。セレンとアイリスは吹き荒れる熱風と衝撃を、岩肌を盾に必死にやり過ごした。鼓膜を破りそうな音が次第に静まると、セレンは恐る恐る顔を出してガルの姿を探すために目を凝らす。煙が晴れると、ガルは何事も無かったかのようにその場にいて、余裕にも衣服のススをほろっていた。


「あの爆発でピンピンしてる! なんで!?」

「あっ! 無敵の魔法!! 完成していたんだわ」


 セレンはそれ以外に考えられないと思い、ガルの無事に胸を撫で下ろした。


「セレン、私の魔法完成したわよ。いける?」

「うん。お願い!」


 セレンは待ちわびたと杖を構えた。


「かけてから三秒後に一番魔力が活性化するわ。だけど、持続時間は五秒しかないから気を付けて。あと相手に直接作用させる術式は難しかったから、セレンのいる空間を指定しているの。だから動かずその場で撃って」

「分かった!」

「じゃあ行くよ!『マジックアクティベーション!!』」


 かけられた魔法によってセレンの体内の魔力が極限まで活性化する。そのためか体はまばゆく光り出し、漏れた魔力が雪のように舞った。セレンはバージスを睨み、杖を強く握りしめた。


「2……1……0!『レリース!!』」


 ドン! と砲撃のような音と共に、魔力の波が打ち出された。波は一気に広がり、ガルを突き抜けると全ての魔法を一瞬で解除した。波はさらに広がりバージスの体に触れると、まるで大量のガラスが粉々に砕け散るように光の粒子が飛び散った。SSSトリプルエスランクの大規模な魔法が、ただの魔力に戻り霧散したのだ。


「やった? ねぇアレやったんじゃない!? 私達、二人掛かりとはいえ、伝説級のSSSランクに打ち勝ったよ! ってあれ? セレン?」


 セレンはすでにフライを発現して、ガルの方向へと飛び出していた。


* * *


 ガルとバージスは全ての魔法を打ち消され、落下していく。だが、流石の早さで二人同時にフライを発現させ、再び空中で静止した。


「ぐぅ……何だこれ、傷が治らねぇ。まさかこいつを狙ってやがったのか!? こんなガキ共が俺のイモータルを打ち消したってのか!?」


 バージスはさすがに戸惑いを隠し切れず、焦りの表情を見せている。


「終わりだバージス。アンタはさっきの超爆発に巻き込まれた傷が癒えないうちにイモータルを解かれた。その火傷じゃもう戦えないだろ……ブホォ!」


 ガルがしゃべっていると後ろから何かがぶつかって来た。驚きながら確認すると、どうやらセレンが突っ込んで来たようだ。


「ガル、平気? 怪我は無い? もー無茶ばっかりして! ばか! ホントばか!! 私に心配かけないって約束したくせに……」

「すまん……だがあの時はああするしか方法が無かったからで……」

「もう……私の大切な人がいなくなるなんて嫌なの……グスッ」


 セレンはガルの後ろからタックルを決めた格好のまま、背中に顔をうずめて鼻を鳴らしている。ガルの位置からでは泣いているのかどうかよく見えない。


「心配をかけてすまない。だけどもう終わったよ……全部」


 ガルはセレンをあやすように言葉をかける。この時、ガルの魔力はもうほとんど残ってなかった。


 ――インビシビリティ。

 物理法則を無くし無敵となるガルの切り札。だが、実はこの魔法は完成していた訳ではない。セレンとアイリスが一晩で魔法を組み替えたように、ガルもまた、この魔法を組み替えていた。

 元々は効果が効果だけに、多量の文字を刻み準備が必要だったこの魔法を、魔力の供給で補えるところは全て省き、簡略化したのだ。

 要は、「莫大な魔力を消費して持続時間も短い変わりに、発現速度だけを出来る限り速くした」という方法だった。

 効果を極限まで上げる代わりに発現速度が遅くなるというセレン達の組み換えとはまさに逆の方法で準備したこの魔法により、ガルは今使っているフライを維持するのがやっとだった。


「ガル、大丈夫だった~? って、何やってんのアンタ達……」


 アイリスがようやく追いついて、抱き着くセレンを見ながら顔をしかめた。

 みんなが集まった事で、やたら長い間一人で戦ってきたような錯覚を覚えたガルは、ようやく安堵してバージスに向き直る。


「バージス、俺が自分の想いを譲らなかったり、アンタに必死に喰らいついたのはこいつらがいたからさ。俺なんか一人じゃアンタに勝てない。アンタの言う通り、これから人々の欲深さを見る事になるかもしれない。でも、もう俺は一人じゃないから、きっとみんなで乗り越えてみせるよ。アンタにはそういう仲間はいなかったのか?」

「仲間……俺は……」


 バージスは俯き、何かを呟いている。


 ――それが、魔法の詠唱だと気付いた時にはすでに、バージスの魔法は完成していた。


「終われねぇよ! 自分の魔法で自爆してもう戦えないなんて、そんな終わり方があるかよ! 仲間と一緒だのと生ぬるい事言ってる奴に、このまま負けてたまるか!『インタラプト!!』」


 バージスが自分に魔法を使った。


「な、何!? 何の魔法を使ったの!?」 とアイリスが戸惑う。

「分からん! だが、まだ終わりじゃない……」

「ぐうぅ……俺は今から全力でお前らを殺す! 俺はこんなところで終わる訳にはいかねぇんだ!!」


 バージスの目つきを見て、全員に緊張が走った。

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