ガルと過去の想いにて
過去からスタートです。
もう少しで終わりですが、二章始めようか
このまま終わらせようかめっちゃ悩んでます。
プロットが……
ガルは子供の頃に両親を事故で亡くしている。とても不運な出来事だった。
その日、ガルとその両親は街の診療所に来ていた。子供は定期的に検査を受け、魔法使いとしての素質があるかどうかをチェックする。
その時の検査でガルは見事に魔力を操り、担当医からは魔法を学ぶべく、一番近くの『ガルノフ学園』に入学する事を薦められた。両親は大いに喜び、ガルは喜ぶ両親を見て喜んだ。
――そして、その帰り道に事故は起きた。
ガル達が建設途中の建物の近くを通っていた時だ。上で作業をしていた一人の男が道具を落とした。落とした道具は建設中の骨組みの一部を外し、外れた一部は立てかけてあった木材を倒した。ドミノ倒し的に倒れた木材は囲いをなぎ倒し、親子の目の前まで迫る。
異音に気付いた母親はとっさにガルを突き飛ばし、ガルを庇った母親を庇うように、父親が前に立ち盾になった。
突き飛ばされたガルが目を開くと、そこには地獄のような光景が広がっていた。父親は即死。母親は意識はあったが、体を挟まれ身動きが取れず、出血も酷かった。
普通、こういった現場には魔法使いが呼ばれ、事故が起こらないように警備している。しかしこの日は魔法使いの数が足りず、一般作業員だけで仕事をしていたようで、そんな最中に起こった悲劇であった。
まだ幼かったガルは泣き叫び、助けを呼んだ。そんなガルの呼びかけに、建設作業員だけではなく、通りかかった人々が集まり、手を貸してくれた。
その時の光景をガルは忘れる事は出来ない。魔法も使えない一般人が、みんなと協力して救助に当たるその姿は、ガルにとって正義のヒーローだった。少なくとも、その場にいない魔法使いよりも頼りになり、とても心強かった。
普段は魔法使いの助力を得て動かしているとても重い木材を、集まった人達は協力して素手で持ち上げ、両親を引きずり出した。急いで止血をしてタンカに乗せると、診療所まで足早に移動する。そんな中、泣き止まないガルに対して母親は、「大丈夫よ、すぐに先生が治してくれて、元気になるからね」と、元気付けてくれた。
――だが、現実は残酷だ。みんなの努力も虚しく、母親は助からなかった。
診療所に着いたが回復魔法を使える熟練の魔法使いがここでも出払っており、決定的な救命ができなかったためだ。
数々の不運が積み重なって起きたこの事故で、ガルは強く恨む事になる。それは、その場にいなかった魔法使いではない。ましてや救助に当たってくれた人達でもない。自分自身を恨んだのだ。
その場にいた全員が一丸となり、人の命を救うために必死で動く中、自分はただ泣き叫ぶ事しかできなかった。
――もしあの時、自分に出来る事があれば……。いち早く行動できていれば……。母さんだけでも助けられたかもしれない。
ガルはそう思い、助けてくれた人達に申し訳なく思うと同時に、自分を恨んだ。
その後、街の援助を受け、ガルは学園に入り寮で生活する事になる。その日からガルは取り憑かれた様に魔法に没頭し、食事の時間や寝る間を惜しんで、魔法の勉強と研究に時間を費やした。
それは、両親を失った悲しみを紛らわすためだったかもしれない。
自分自身が許せなく、守る力が欲しかったのかもしれない。
事故現場に駆け付けてくれた人達に対する、敬意や罪滅ぼしだったかもしれない。
いや、それら全てだったのだろう。
ガルは学園にて、奇才の魔法オタクとしてその名を知られる事になるが、その経緯を知る者はいない。よく会話するアイリスにさえ話した事は無いし、話す事では無いと思っていた。そして、小中高一貫性のこの学園で数年過ごしたガルは、両親のいない寂しさが時間と共に薄れていき、その分魔法に対する興味や執着が膨れ上がって行った。
それでもガルは、魔法の研究のために机に向かうといつも両親の事を思い出す。自分がここまで来た理由。そして、その両親を助けるために奇跡を起こそうとした人達の事を。
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「俺は人が愚かだとは思わない。それに、魔法が使えない事が無力だという考えも間違っている。人は魔法が使えないからこそ、協力して互いに補い、自分に出来る事を必死にこなしている」
ガルの鋭い視線は、バージスを真っすぐに見据えていた。
「ガル、それはお前がまだ成人もしてねぇガキだからそう思うんだ。もっと長いこと人を見て、関わればお前にも分かる。人は誰しも自分が一番かわいいんだよ! 自分の欲のためなら魔法使い相手でも平気で騙し、裏切り、利用する。この俺が保証するぜ。ガル、俺の下に付け! そうすれば俺達が戦う理由は無くなる」
バージスはガルに手を差し伸べる。しかし、ガルがその手を取る事は無かった。
「確かに、アンタの不老不死から見れば、俺はほんの僅かな時間しか生きていないだろう。長い学園生活で一般人と関わった事もそう多くはないかもしれない……だが、だからと言ってアンタの言葉を鵜呑みして、人々に絶望する事は絶対に無い!!」
ガルは強い口調で言い放ち、次にバージスと分かり合えない事を惜しむように静かな口調で言葉を続けた。
「アンタが自分の見てきた事を譲らないように、俺にも譲れない想いがあるんだよ……俺にはこの想いが偽りだとか、簡単に壊れるものだとは思えない……だからさバージス、俺はアンタを止めるよ……」
「そうか……」と、バージスもまた残念そうな表情で呟いた。そして、意を決したように声を張った。
「なら、俺とお前の気持ち、どちらが上かやる事は一つだ! お前の信念を見せてみろ!」
そう言うとバージスは文字を刻み始めた。ガルも、その空気の重さを感じ取り使う魔法を決めて文字を刻む。
バージスが杖を真上に掲げた。すると頭上には不気味に点滅する魔弾が出現する。先ほどから使っている爆弾の魔法だが、一つ違うのはその大きさ。三倍は大きいであろうその魔法は、まさに威力を物語っているかのようだった。
「これが……俺が人々を支配するために生んだ、不老不死とは別の究極破壊魔法。お前にこれが止められるか!?」
「……っ!!」
ガルが身構える……が、バージスが何かを捉えたのか、別の方向を見ている。
「あいつら……何をやってんだ?」
ガルがバージスの視線を追うと、そこには隠れていたはずのセレンとアイリスの姿があった。ブーストで移動したせいで、死角からずれてしまったのだろう。懸命に魔法を構築しているのが目に見えて明らかだった。
「なるほど、お前ら三人で攻めて来た時は無謀だと思ってたが、何か企んでやがったな?」
そう言うとバージスは二人の方に体を向けた。
「おい!? 相手は俺だろ!? どこを狙っている!」
「何を企んでいるかは知らねぇが、見過ごす訳にはいかねぇな。それによ、お前が俺から一般人を守るというなら、ここにいる仲間くらい守れねぇと口だけになるぜ?」
バージスがセレン達を狙う事はもはや明白だった。ガルは急いでバージスとセレンの間に入って盾のように立ち塞ぐ。
「セレン!! まだか!?」
ガルは遠くにいるセレンに叫んだ。まだなのは分かっていた。あとどの位かかるのかも分からない。
「ガル、逃げて!」と、状況を理解したセレンの声が遠くから聞こえた。
だが、逃げる訳にはいかない。
「さぁて、こいつで終わりだ!『エクスプロージョン!!』」
「くそっ!『インビシビリティ!!』」
バージスの放った魔弾をガルは杖を前に出して受け止めた。その瞬間、凄まじい爆発が巻き起こる。その衝撃は周囲の柔らかい岩なら砕け散り、爆風はこの世界を一周し兼ねないほどの勢いで吹き抜けた。
巨大なキノコ雲は天高く舞い上がり、遠くからでも視認できるほど黒々と浮かび上がる。
音や光もまた、世界を駆け抜けた事だろう。
それほどの威力を持ったこの爆発で、近くにいたバージスの肌も焼けただれていた。
「痛ってぇ……自分で言うのも何だが、相変わらずすげぇ威力だぜ」
そう零すバージスだが、煙が晴れると驚愕の表情に変わった。
ボロボロになったバージスとは裏腹に、どこも怪我をしていないガルが悠然と浮いていた。
「バージス、これが……人々を守るために生んだ、俺の切り札だよ……」
ガルは服やマントに付いたススを払いながら、無表情のままそう言い放った。




