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魔法使いの世界にて  作者:
一章 黒不石にて
21/108

不死身魔法の攻略にて➂

* * *


 ガルの行動は逃げの一手だった。

 遠距離から攻撃しても傷はすぐさま回復され、連撃を仕掛けようにも近付けば自爆される。

 どうにも守りを固めるしかなかった。


「オラオラァ、逃げてばっかりじゃねぇか! 攻めてこねぇのかよぉ!」


 バージスがあおってくる。このまま逃げ回り、時間稼ぎだと気付かれても困るので、ガルはその兆発に乗る事にした。

 ハンパな攻撃がすぐ回復されるというのなら、大魔法の一撃で仕留めるしかない。

 ガルの杖が煌々こうこうと輝くのを見て、今度は逆にバージスが様子を伺う。

 ガルは縦横無尽に動き回り、バージスの動きを読み、ここぞというタイミングで両手魔法を解き放った。


『インフィニティ・ブレイク!!』


 バオンッ!!

 直撃コースの一撃をバージスがブーストを使い回避して、そのままの勢いでガルの背後に回り込んだ。

 バオンッ!!

 ガルも魔法をキャンセルしてブーストを発動させた。背後に回ったバージスの一撃をすんでの所で回避する。

 背後の取り合いを制したのはガル。バージスの背中をセイバーで思い切り斬り付けた。


『サークルボム!』


 背中を斬り付けられたバージスは、ニヤリと笑い、自分をも巻き込む爆発を引き起こした。

 とっさに距離を空けようと後方に飛ぶが、ガルは爆発に飲み込まれてしまう。


「お前いい動きするなぁ。戦闘センスあるぜ」

「ぐぅ……そいつはどうも……」


 背中を斬られ、そのうえ自爆までしたにも関わらずバージスの傷はどんどん治っていく。ガルは痛みを堪え、再び両手で文字を刻んだ。

 ブーストが再び使えるくらいに魔力の収縮が完了したのと、両手のダブルマジックが完成した事で、ガルは再び攻撃に出た。ゆっくりと後ろから追って来るバージスに向かって方向転換すると、一気に距離を詰める。


『パライスショック!』


 ガルの左手がバージスに触れると、バチッと音を立て電流が流れた。射程は短いが決まれば相手を麻痺させる事が出来る。バージスは余裕ぶって、あえて回避しなかったのだろうが、ガルにとってはこのチャンスを生かす手はない。


「ぬぅ……!?」

「もう一つ受け取れ!『コールドフリーズ!』」


 右手の魔法を発現させて、杖を通して冷気の魔法をバージスに浴びせた。バージスの体はみるみる凍てつき、皮膚は完全に凝固した。


「麻痺と凍結、これで抑えられるか!? 不死身魔法イモータルを……」


 ガルは油断なく、霜で覆われたバージスの体を険しい表情で見つめる。すると、彼の凍てついた右手が光り出した。

――魔法を発動させた!?

 そう理解した瞬間、爆発が起こり、熱風が吹き荒れる。バージスは自爆する事で凍結した自分の体を溶かしたのだ。


「いやー今のはヤバかった。麻痺はすぐに治るが、凍結みたいな表面を固められる魔法には気を付けねぇとな」


 体に残った氷をパキパキと砕き、ほろいながら「さて……」 とバージスは続ける。


「今ので両手の魔法を使い切っただろ? 今度はこっちの番だぜ。『エリアルマイン!』」


 再び空中に無数の機雷が表れる。

 バオンッ!!

 魔法を使い切って丸腰のガルは、瞬時にブーストを使ってその場を離脱した。音速で機雷の海を飛び抜けるも――


「逃がさねぇぜ」


 背後から声がした。

 それは魔力の差か、技術の差か。はたまた経験差か。追いつかれないようにと一直線に逃げたはずのガルに、バージスはいとも簡単に追いつき、武器を振るった。

 避けようと身体を捻るが、セイバーで鋭く尖った先端が右肩を切り裂いた。

 刹那の攻防で失ったバランスを取り戻そうと、お互いに動きが止まり対峙する形となったが、その間ガルは必死に思考を張り巡らせ、どんな魔法が有効か模索する。

 『魔力吸引魔法サクション』も、『分身魔法アバター』も、『透明化魔法トランスペアレント』も、この男の広範囲の爆発魔法の前では意味がない。


「しかしよぉ。お前達もたった三人で俺にケンカ売りに来るなんて、根性だけは大したもんだぜ」


 すると以外にも、バージスの方から話しかけて来た。その言葉にガルはハッと思い出す。

 確か、他の街の支部からも応援が来る事になっていたはず。にもかかわらず、一向に姿が見えない。もしかして不死身魔法イモータルの解除が困難な状況と見て、作戦が中止になったのだろうか。しかし待機しているはずのアレフからは何の連絡も無い。


「まぁ、こっちも色々と不都合があったりするんだ」


 ガルは何かがおかしいと感じるが、とりあえず曖昧にしてさらに言葉を紡いだ。


「それにしても麻痺もすぐに治るなんて思わなかった。一体どんな原理なのか聞きたいくらいだよ」


 するとバージスは「はっはっは。」と声を上げて笑い、これまた以外にも説明し始めた。


「俺の魔法は不老不死なんて名付けてるが、実際はそこまで複雑じゃねぇ。ただの形状記憶みたいなもんだ。最初にイモータルをかけた時の状態を記憶させて、常にその状態に戻ろうとする、ただそれだけだ。だから傷を負っても最初の状態に戻るだけだし、皮膚が時間で老いても元に戻る」


 それでも十分に凄い事だと思うが、要は発想の転換なのかとガルは関心した。


「そんな魔法が使えるなら人々の役に立つし、その分、好待遇にもなりそうなものだが、なぜアンタはその魔法でみんなを支配する事を考えるんだ」


 ガルの問いに、今までヘラヘラとにやけていたバージスの表情が険しくなった。


「人々に役立つ? 好待遇? 冗談じゃねぇ! 俺は長いあいだ人間を見てきたが、魔法が使えない人間ってのは凄まじく欲深いぜ? こっちの都合も関係なしに不死を求め、みつぎ、周りを出し抜こうとする。時には俺自身さえ騙そうとくわだてて利用しようと考える。俺はそんな人間を腐るほど見てきた。もはや情なんて湧かねぇ。だから俺達魔法使いが、魔法を使えない一般人を管理する必要があるんだ! 勝手に動かないように、貪欲にならないように俺達魔法使いが一般人を支配する。そうじゃねぇとあいつらはどこまでも愚かで調子付く。ガルとか言ったか、お前はそんな風に思った事はねぇか? 何の力もねぇ一般人が、ただただ欲望のままに俺達の力を頼り、求める事に嫌悪感を抱くことはねぇか?」

「無い!」


 自分の溜まった想いを長々と吐き捨てるバージスの言葉を、ガルは強く、たった一言で否定した。


「俺は人間をそんな風には思わない。愚かだとか、力が無いとも思わない。決してだ!」


 バージスの険しい表情を見つめるガルの瞳は力強く、全く揺るがなかった。

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