犯罪組織の強襲にて
この世界の法律とか全然考えてないまま投稿しちゃったなぁ。
小説って難しい
「なぁアイリス? イフリートブレスって何ランク?」
ガルが教室で、アイリスにそう問いかけた。
「……どの辺だと思う?」
「Aランクか? いや、A+か?」
魔法にはランクが存在する。色々とあるが、大まかには『威力』、『消費魔力』、『発現速度』で決められる。
どんなに威力が大きくてAランク級でも、発現するための準備が長ければ意味は無い。総合的に見てランクを決めるのだ。
「じゃぁその辺」
「調べてないのか……」
アイリスはかなりアバウトで大雑把な性格だ。さらに言えば細かい事が嫌いで勉強も嫌い。典型的な体育会系の学生といった部類だ。
「仕方ないでしょ! 出来立てホヤホヤだったのよ! イフリートだけにねっ! フフン♪」
「いや、別にうまくないからな? むしろ恥ずかしくて顔真っ赤になるわ……」
「イフリートだけに? ププッ」
「うるさい……」
乗っかろうか迷っているところに、まさかの先読みで言い当てられ、恥ずかしくなるガル。
そんな下らない話しをしていると生徒の一人が途端に声を上げた。
「おい! なんかでかい生き物がこっち向かってくるぞ!」
「って、なんか二、三匹いないか? いや、どんどん増えてる!」
生徒が教室の窓から外を指さしていた。
ガルもすかさず窓に張り付くように外を眺める。そこには異様な姿をした生き物がドカドカと向かって来ていた。
体が太く、ずんぐりとしているのに飛び跳ねながら移動をする獣。
首が長いのに顔はでかく、その巨大な口は中型の生き物を丸呑みにしてしまいそうな獣。
手足が無い代わりに、大きな翼を羽ばたかせ、鋭い牙を持つ鳥もいた。
「合成獣だ! 今じゃ法律でキメラの作成は禁止になっているのに、あんなにたくさん!?」
ガルがキメラの存在を叫ぶと、教室は一気にパニックにおちいった。
キメラ達は完全にこちらに向かっており、校庭にまで侵入している。
「くそ! みんなフライで空に逃げろ! 鳥のキメラもいるけど手を出さず、逃げることに専念するんだ! アイリス、お前はみんなを守りながら誘導してやってくれ」
「ちょっ! ガルは!?」
答える間もなくガルはフライでキメラの群れに向かって飛ぶ。心配なのは飛翔の魔法『フライ』がまだ使えない低学年の生徒だが、そこは教師に任せる事にした。
自分にできる事、それはキメラの足止めをして、時間を稼ぐ事。
ガルは鳥のキメラより高い高度まで浮かび上がると、そこから魔法を発現させた。詠唱なんて飛んでいるときにすでに終わらせている。
『マジックランス!』
無数の槍が空中に現れる。
右手と左手で、同じ魔法を同時に発現させたその槍は、50本ほどにもなる。
「一気に数を減らさせてもらう」
すでに気づいた鳥のキメラがこちらに向かって来るが、構わずに振り下ろす。槍を一斉に地上に降らせると、その魔法で体を貫かれ、鳥のキメラも、獣のキメラも合わせて多くが動かなくった。
しかし残りのキメラが構わず校舎の壁に突撃して穴をあけた。
やはりフライをまだ使えない低学年の生徒がバタついており、それを先生が誘導している。助けに行こうかと思うも、鳥のキメラが攻撃してきてうまく近付けない。
もはや周りのキメラを殲滅した方が早いかと思ったが、そんな中ガルはキメラの特徴的な動きに気付いた。
獣のキメラは生徒に見向きもしていない。校舎を壊し、中をウロウロして警戒しながら歩き回るだけで、誰かが襲われている様子はない。鳥のキメラと距離を取ると、こちらを威嚇するだけでやはり襲ってこない。こちらから攻撃を仕掛けないと襲ってこない事を考えると、これは陽動。
そうガルが考えたその時、目の端で動く人影を捉えた。人目につかない場所をフライで高速移動して、校舎に向かっている。
なるほど、あいつが本命かとガルは確信する。
「アイリス! キメラは囮だ! こちらが攻撃しなければ何もしてこない! 攻撃するなと皆に伝えてくれ!」
「え!? わ、わかった」
近くで生徒を誘導しているアイリスにこれだけ伝え、ガルはあの人影を追った。
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「何をさがしているんだ?」
旧校舎の建物の裏手から中へ入った所でガルはその人物に追いついた。その人物が振り向くと、なかなか整った顔の少女だった。歳も身長もガルより下に見える。銀髪の髪は味気なく下して、髪留めなども付けていない。まぁ、キメラを統率するなんて犯罪組織だろうし、その組織が仕事をするのにおしゃれなんてする訳ないのだろう。
「……邪魔しないで、そうすれば消したりしないわ」
少女の声は幼く、意外と澄み切ったきれいな声をしていた。
「そうはいかない。それに俺を倒せば、探し物の場所を白状するかもしれないぞ?」
「……」
少女はこちらを睨みつけながら答える。
「……回帰の杖はどこ?」
――回帰の杖。それはこの学園に収められているよくわからない杖である。
誰が、いつ作り、なぜそう命名したのかもわからない。しかも持ち主を選ぶかのように、装備できない者には魔力の増幅などといった杖としての恩恵が全く出ない。
毎年、卒業生にこの杖を使ってもらい、恩恵を受ける者が出ないか試しているが、未だに使えた者はいないという。
別名、適合者の杖とも言われている。
「アレが目当てか、アレの事を何か知ってるのか?」
「……」
少女は何も答えない。ただじっとガルを睨みつけていた。
「んじゃぁ、君の名前は? 俺はガル」
「…………セレ――」
「んじゃ~、って、え? 今なんて言った?」
「……セレン」
「ほう、セレン、俺が勝ったら杖の事を教えてくれ。キミが勝ったら杖の場所を教える」
「……何でもいい。邪魔するなら倒すだけ」
「そーかい」
しゃべるのに間があるけど、一応答えてくれる。倒す相手に名前を教えるなど、あどけなさが見え隠れする少女だとガルは思った。
そんな少女だからこそ、つい子供扱いをする様な会話をしてしまっているが、ガルは思った。
こいつは強い! 今まで戦った誰よりも!
隙を一切見せない、貫くような鋭い視線。
装備も学校の初心者用の杖を使っているガルと違い、一式揃えている。
さらにフライの移動速度。あの速度はフライAランクを操れるほど魔法に長けていると言っても過言ではない。その証拠に単独強襲。いくらキメラ付きとはいえ、よほど実力を信頼していないと、一人で学園を相手にケンカを売るなんてできないだろう。まぁ、他にも仲間が待機しているかもしれないが。
(こんな小さな子にこれだけ魔法を仕込んだり、強襲させようなんてどんな都合だよ)
ガルとセレンはすでにフライを使っているため外に出て空中で対峙した。
恐らく学校側は、魔法犯罪専用の特殊部隊に救援を要請して、こちらに向かっている頃だろう。それまで時間稼ぎといきたいところだが、ガルは実の所、この子がどんな魔法を使ってくるのかという興味で、不謹慎ながらも少し気持ちが高揚していた。
いつか記述しますが、この世界の回復魔法は習得するのがとても難しい魔法です