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魔法使いの世界にて  作者:
一章 黒不石にて
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不死身魔法の攻略にて①

「レリースの組み換え、終わった……」


 ガルの隣の空き部屋にいたセレンが、ガルの部屋の扉をノックもせずに開け放った。あまりの唐突さにガルは少しビクつく。


「早くお父さん達を助けに行きましょう!」


 ズンズンと部屋に入り込んでガルの服を引っ張る。


「待て待て! 気持ちは分かるがアイリスがまだ終わってない。それに組み替えた魔法の試し撃ちで魔力も消耗してる。セレンだって午前中は黒不石探索で動きっぱなしだったんだろ? 相手はSSSランク級だ。とにかく万全の態勢で行かないと助けに行くこっちが危ない」

「むぅ~、なら私、アイリスを手伝ってくるわ!」


 そう言ってバタバタと部屋を出て行く。が、外から聞こえる足音が再びこちらに戻って来ると、ドアの隙間からひょっこり顔を覗かせた。


「ねぇ、アイリスの部屋ってどこ?」


 ガルはそんなセレンに少し不安を覚えながら、アイリスの部屋まで案内する事にした。

 結局アイリスが魔法の組み換えを終える頃には、日はどっぷりと沈んでいた。

 ガルの部屋に三人が集まり小さなテーブルを囲うが、アイリスはぐったりとしている。


「ふあぁ~、他人に自分が組んだ術式を見られるのって何か恥ずかしい~」

「気にしなくても大丈夫よ。術式は自分の魔力や体質で決められた組み合わせは存在しない。故に効率の良し悪しは無いわ。他人に見せても全く問題ないもの」


 セレンがそうフォローをした。

 それに付け加えてガルが、

 

「だからこそ、人が使っている術式を見ただけで同じ魔法が使えるかと言えば、そんな事も無いしな」


 そう言って、一息入れるための飲み物を周りに配っていた。


「でも幼女に手伝われて、こんな時間までかかって、あたしの威厳が無くなっちゃうよ……」


 そのまま溶けて液体になるのではないかと思うくらい、だらしなくテーブルに突っ伏しているアイリスを見て、どの口が威厳とか言うのだろうとガルは割と本気で考えた。


「それでガル、いつ助けに行くの? 今から?」

「ちょ、ちょっと待って! あたし組み替える度に試運転して、もう魔力無いからね」

「その事でさっきアレフ隊長と話し合った。夜はしっかりと魔力を回復させて、明日の早朝で救援に向かう。他の街からも応援が来る事になったから、協力してバージスを押さえる!」


 セレンは今すぐに向かいたいと気持ちをはやらせていたが、二人がかりで何とかなだめた。正直なところ今行こうが、明日行こうがさほど変わらない。どういう結果になったかは別として、この時間ではすでに戦闘は終わっているだろう。……もちろんそんな事をセレンには言えないが。

 しかしガルには、バージスが殺戮さつりくの限りを尽くすとは思えなかった。いくら彼がこの世界を自分の都合のいい世界にしたくとも、何の準備も出来ていない今、人に危害を加えればそれこそ多くの魔法使いを敵に回す事になる。

 セレンの父親もナックル達も、きっと頃合いを見て戦闘を離脱したに違いない。もしかすると、バージスもすでに場所を変えて、救援活動が無駄になり、バージスの件はとりあえず様子見という事で保留になるかもしれない。ガルはその事だけはセレンに伝え、その憶測が決して適当な考えでは無いと思っていた。

 そうして各自、魔力回復のため早めに休息に入る。

 ともあれ明日、もしかするとSSSランク級の相手と戦う事になるかもしれないというプレッシャーを感じつつも、心を強く持ち、一同は眠りに付いた。

 次の日の早朝五時、ガル、セレン、アイリス、アレフの四人がバージスがいるであろう洞窟へと向かった。

 作戦はこうだ。アイリスとセレンが洞窟に着くまでに、魔法を発現可能な状態で維持しておき、バージスと対峙したらすぐに不死身の魔法『イモータル』を強制解除する。あとは他の魔法使いと連携してバージスを無力化する。

 アレフは念のために少し離れた位置で待機してもらい、何かがあった時のための連絡役になってもらった。


――そしうて、作戦が開始された。


 ガル達三人はゆっくりと、セレンが拠点にしている洞窟へと近づいていく。

学園を卒業したばかりのこの季節は肌寒く、五時だとまだ日の光も微かで薄暗い。少しずつ明るくなり始める、そんな時刻だ。

 アイリスとセレンの右手には、すでに発現可能の魔法が用意されていた。文字を刻み、発現可能にするまでに五分以上かかった。

 アイリスのアクティベーションはランクを大体二つ上げるほどに改良され、セレンのレリースは効果だけならSS級に仕上げていた。このランクSSのレリースにアクティベーションをかける事で、SSがSSSまで引き上げられ、イモータルにも張り合える、という計算だった。

 ちなみに第二プランは無い。この作戦が通じなければ、もはやどうする事も出来ず各自撤退するしかない。

 ガル達は他の街から応援に来るという特殊部隊の到着を待ちながら、旋回するように飛んでいる。

その時である。まだ空が薄暗い事もあって、目の前の空間が僅かに歪んでいるのに気づくのが遅れた。

 『それ』は一瞬カッと光り、ガルは反射的に後ろの二人を両手で抱えて押し返し、そこから少しでも遠くへ離れようとした。そして――

 ズガァーーーン!!

 歪んだ空間が大きな音を立てて爆発した。その爆風にガル達が吹き飛ばされる。

 なんとかバランスを取り空中で静止して、体をチェックする。どうやら大きなダメージは無いようだ。だが。


「なになに? いきなり何なの!? って、あぁ~! 今の衝撃で右手の魔法が消えちゃった……」

「わ、私も……」

「落ち着いてもう一度、魔法を刻もう。それと今の爆弾はバージスが仕掛けたものだ。奴が来る前にここを離れよう」


 二人の戸惑う姿を見て、ガルが指示を出す。

 だが、すでに遠くからこちらに向かって来る人影が見えて、心臓の鼓動が早くなるのを感じた。その人影は完全にこちらを捉えており、凄い速さで近づいてくる。目の前まで来ると、ガル達よりも少し高い位置に仁王立ちで腕を組んだ。


「おいおい、またお前達かよ。昨日逃げたばっかりじゃねぇか」


 バージスはにやけながら、三人を見下ろしてそう言った。


「お父さんを助けに来たの。お父さんはどこ!?」


 セレンが少し興奮気味で問う。

 それに対してバージスは後頭部掻きながら、なんだかばつが悪そうにしている。


「ああ~、あいつは……ありゃ多分死んだな」


 目を合わせずに、そっぽを向いたままそう答えたのだった。

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