ガルとセレンの誓いにて②
「学園を襲った銀髪少女!」
拠点に戻ったガルと、一緒にいるセレンを見てアイリスが開口一番にそう言った。
「話はあとだ。アイリス、みんなを広間にでも集めてくれ。ちゃんと説明する」
簡潔に伝えて、ガルはセレンを連れて寮へと向かった。
派出所のある建物のすぐ隣に、特殊部隊が寝泊りできる寮がある。その寮の、自分の部屋へとガルはセレンを連れて行く。さすがに今見て来た事をセレンの前で説明するのは気が引けるからだ。
「セレン、説明が終わるまでここにいてくれ。その後、みんなで今後について話し合おう。大丈夫、すぐに救出に向かえるさ」
「……うん」
元気なく頷くセレンに、後ろ髪を引かれる思いで部屋を出ようしたが、
「ガル……」
セレンに呼ばれて振り返った。
「ガルは、私の友達……よね?」
「ああ、何なら親友でも構わないぞ」
「なら、ガルも私を悲しませるような事はしないって事よね?」
「もちろんだ!」
不安そうな目で見つめてくるセレンに、出来るだけ安心させようとガルは力強く答える。だが結局、ガルの表情には変化が乏しく、意思の強さが伝わったかは微妙なところだ。
「私はもう自暴自棄にならないよう努力するわ。だから、ガルも私に心配をかけるような事しちゃダメよ?」
「わかった。約束する」
「ありがとう。私だけ約束させられて、何だか対等じゃない気がしたから」
微かにセレンが笑った。それを見てガルはやっと安堵する事ができた。
「いや、礼を言うのはこっちだ。こんな魔法しか取り得のないつまらない男と友達になってくれて感謝する」
セレンはクスクスと笑ってくれた。
そうしてガルは個室を出てみんなを待たせている広間に向かい、今見て来た事を説明するした。
話しを聞いていた一同は、SSSランクの存在に混乱する事は無かったが、どうすべきか見当もつかない様子で頭を悩ませていた。
一通り説明を終えたガルはセレンを連れてきて、ここから本格的な話し合いが始まる。
「一応聞くが、セレン君は我々と争う気は無いんだね?」
「はい……今まで迷惑かけてごめんなさい……」
隊長であるアレフの言葉に、セレンが申し訳なさそうに謝った。
「いや、念のために聞いただけだよ。君の事はガル君から聞いている。色々と家庭に事情があったみたいだね。やはり今は、その不死身の男から仲間や父親を救出する事を優先しよう。しかし、他の支部に応援を求めるにしても時間がかかりすぎる。どうしたものか……」
「ここは一度、全員の魔法を見直してみてはどうですか?」
カインがそう提案をした。
「なるほど、何か対策のきっかけになるかもしれない! しかし悔しいが私には有効な魔法は無いな」
「では次は……ん?」
カインが一同を見渡すと、アイリスが眉をピクピクと震わせて、いぶかしげな表情をしていた。
「どうしたんですか? アイリス」
「『どうしたんですか? アイリス』、じゃないわよ!! 何でアンタがここにいんのよぉー!!」
カインの真似をふまえながら、アイリスが人差し指を突き付けた。
「いや何でって、この地方を騒がせている事件が佳境を迎えているんですよ? 行く末を見届けないと気になって旅にも出られませんよ」
「いやそうじゃなくて、何でここに紛れ込んでるのかって聞いてんのよ!!」
「ああ、この事件が気になって派出所の方に行ったんですが誰もいなかったので、こちらの寮の方に集まってるのかと思い来てみたんですよ。うちのバカ弟子が迷惑かけてないか不安ですし」
「ぬぁんですって~!!」
今にも噛みつきそうなアイリスを涼しい顔でカインはスルーしている。そんな様子をセレンが不思議そうに見ていた。
「ねぇガル。この人だれ?」
「アイリスの先生だ。一ヶ月間修行を見てくれたらしいぞ」
「じゃあ強いんだ……あの、手伝ってくれるんですか!?」
セレンが期待を込めて訊ねた。
「いえ、悪いんですが私は手伝いません。結果を見守るだけです」
「そう……ですか」
「ちょっとカイン。人の命がかかってるのよ! そんな事言ってる場合じゃ――」
アイリスがツカツカと歩み寄ろうとするのを、アレフが右手で制する。
「いや、彼には我々を手伝う義務は無い。無理強いをしてはいけない」
アレフの言葉にアイリスが渋々引き下がる。
「すみません。私はこの俗世に関わらないと決めているもので。その代わり、アドバイスくらいならしますよ。では魔法の洗い出しをガル君からいってみましょう」
「いや、俺もさすがに不死身に有効な捕縛、封印系の魔法は無いですね……強いて言うなら、SSランクを一つ持ってるくらいです」
その発言に周囲の全員がざわついた。
「SS!? SSランクを使えるの!?」
「ガルすごい……」
アイリスとセレンが驚きの声を上げる。
「どんな魔法なんですか?」 とカインが聞いた。
「無敵になる魔法です」
シーン……
何と言っていいか分からない。そんな雰囲気が辺りを包んだ。
「えっと、なんか子供がノリと勢いで考えそうな魔法ね……」
と、アイリスがケチをつけてくる。
え!? と、ガルがショックを受けたかのように動揺した。
「どういう原理なの?」
すかさずセレンが追及した。
「体の機能を維持したまま、物理法則やらを受けなくなる魔法だ」
「なるほど、物理法則が無くなる訳ですから、ガル君は重みの概念が無くなる。つまり無敵になるという訳ですね」
カインが速攻で理解をしたような発言で頷いていた。だが――
「いや、全然分かんないんだけど……」
アイリスはチンプンカンプンな表情で尚も説明を求めた。
「えっとね、慣性とかが無くなるから、周りの動きに影響されなくなるって事かな」
今度はセレンがそう説明をする。だが――
「ヤバい! 幼女でも理解してるのに、あたし全然分かんない!」
尚も頭を抱えるアイリスに、カインが呆れたように説明を始めた。
「相変わらずアイリスは頭が弱いですねぇ。いいですか? 例えば、無敵の魔法を使ってこの建物の壁を手で押します」
カインは壁に手を当てて、大げさに押す素振りを見せた。
「すると、手は壁にめり込み、簡単に壁を破壊できるでしょう。しかしガル君には物理法則はない。「重い」とか、「押した」という感覚はありません」
「……マジ?」
「逆にアイリスが、ガル君を物凄い力で押したとします。しかしガル君は微動だにせず、押されたという感覚も、触れられたという感覚さえも無いでしょう。つまり、全くもってガル君には干渉出来なくなるという事ですね」
「無敵じゃん……」
一言。ガルに向き合ってアイリスはそう言った。
「だからそう言ってる」
ガルが淡々とそう返した。
「でもそれって地面にも立てなくなるんじゃ……?」
「常時フライ発現付きだ」
「あ、はい……」
「ガルすごい……」
ようやくアイリスが理解して、セレンは尊敬の眼差しを向けていた。
だがここで、ガルが問題点を述べる。
「だけどこれは、まだ未完成なんだ。まだ術式も整理出来ていなくて発現させるのに10分以上はかかる」
「それだと戦闘が終わっちゃう長さね……」
と、アイリスが腕を組む。
場が落ち着いたところで、カインが仕切りに入った。
「いや、でもその歳でSSランクを使えるのはすごい事ですよ。まぁそれは置いといて次にいきましょう。あ、アイリスの特徴ある魔法は『マジックアクティベーション』くらいですね。では次に――」
「ちょっと、あたしの見せ場を取らないでよ!」
「別に見せ場ってほどの事ではないでしょう……」
またアイリスがカインに突っかかっていく。
「アイリス、昔からやってるあの魔法、完成させてたのか」
そうガルが、珍しく驚いていた。いや、彼の表情を変化させるのは魔法の話題だけなのだろう。
「ええ、何とか実戦で使えるくらいにはね」
「だとしたら……セレン!」
「うん、私は全ての魔法を強制解除できる、『レリース』の魔法を使えます!」
ガルとセレンは先が見えたように、お互いに顔を見合わせる。
「ふむ、アイリスのアクティベーションで、セレンさんのレリースを増幅して不死身効果に対抗しようって事ですね」
「でもSSSランクを打ち消すには、同ランクまで威力を高めないといけませんよね? これで行けるでしょうか?」
ガルがカインに意見を求める。
「セレンさん、レリースのランクは?」
「S+です」
「では無理ですね。アクティベーションをかけても精々SS止まりでしょう。なので、お互いに魔法の改変が必要です」
「どういう事?」
案の定、アイリスはよく分からないと言った具合に首を傾げている。
「つまり、効果だけをSSSに近付けるんです。詠唱が長くなっても、消費魔力が莫大になっても構いません。とにかく効果を高める事だけを考えて魔法を組み替えましょう」
「でも、発現速度が遅かったら実戦じゃ使えないんじゃ……」
と、アイリスが不安気に質問をした。
「そこはガル君の出番ですよ。彼に二人の準備が出来るまで時間を稼いでもらいましょう」
少しずつ、SSSランク『イモータル』攻略作戦が進んでいく。
そうして各々が自分のすべき事を見つめ、動き出したのだった。
無敵とか物理法則とか慣性とか言ってますけど、
あまり深くツッコまないで下さい……




