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魔法使いの世界にて  作者:
一章 黒不石にて
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ガルとセレンの誓いにて①

 * * *


「やっと出て来たか。さっきから中途半端な透明化の魔法でウロチョロしやがってよ」


 バージスがニヤニヤしながらガルを見つめる。


「透明化って、そんな魔法も使えるのかよ……ってか、いつからいたんだよ大将」

「……朝から」

「オイラ達がまだ荒野で探してる時間じゃねぇか!」

「いつ戻ってきてもいいように入口付近でずっと待機してた……」

「ストーカーかよ!」


 言い難そうに視線を逸らしながら答えるガルに、ナックルがツッコむ。

 しかしガルは周りを無視してセレンに声をかけた。


「セレン、立てるか?」

「……ガル、何で助けたの? ずっといたなら聞いてたでしょ?」

「……ああ」


 セレンは立つことなく、俯きながらしゃべっている。立っているガルにはその表情はよく見えない。


「私、もう疲れたの。どんなに頑張っても欲しいものは手に入らない。こんな辛い想いがこれからも続くくらいなら、今死んだ方がよかった……」

「そんな悲しいことを言うなよ……それに、魔法使いは魔法に耐性がある。今の一発じゃ楽に死ねないぞ?」


 するとセレンは顔を上げた。その瞳に涙を溜めて、ガルに言い放つ。


「なら、ガルが私を殺してよ! 何でもいいから、一発で……」


 その言葉でガルの表情が曇った。ガルはため息を一つ漏らして、その場にしゃがみ込み、セレンとできるだけ目線を合わせた。


「セレン、自分のことを一人でも想う人がいる限り、そんなことを言ってはダメだ」

「……誰が私のことを想ってるっていうの? 誰も私のことなんて――」

「俺がいる」


 はっきりと答えたガルの言葉に、セレンは何も言えなくなっていた。


「俺はキミと友達になりたいと思っていた。もっと話をしたい。そんな相手に殺してなんて言われたら。悲しくて泣きたくなるぞ」

「そ、そんなの知らない。私はもう生きるのが嫌。死ぬって決めたの! だから――」

「だったら……」


 再び目を逸らして俯くセレンに、ガルは優しく声をかける。


「キミの母さんはどうだった?」

「……え?」

「セレンの母さんはずっと病気だったんだろ? その時キミに『苦しいから殺して』なんて言ったか?」


 セレンが再び口を閉ざす。

 思考する。

 何度も何度も思い返す。――結果は……言うまでもないようだった


「それは……けど、ガルに何がわかるっていうの!」

「わかるさ、俺の両親は事故で死んだ。俺がまだ魔法も使えない子供の頃だ。崩れた瓦礫から俺を庇って下敷きになったが、死ぬ間際まで大丈夫だって、すぐ元気になるって、俺を安心させようとしてくれた。だからわかる。セレンの母さんだって、苦しいから殺してなんて、娘が悲しむことを言うはずないんだ」


 セレンの目から再び涙があふれた。


「お母さん、苦しそうだったけど……『セレンが頑張ってるから私も頑張る』って……いつも無理して笑ってた」


 頬をつたい零れた涙は。地面に染みを作る。


「『私なら大丈夫だよ』って、いっつも自分のできる事をやろうとしてた……」


 声が掠れる。

 嗚咽が混じる。


「『セレンを残して、いなくなったりしないよ』って、いっつも言ってた……」


 ポロポロと涙が零れ、拭っても拭っても止めどなくあふれていた。


「キミの母さんはずっと頑張っていたはずだ。なのにセレンは、苦しいと周りの事も考えずに死んで逃げようとするのか?」

「うぅ……ごめんなさい……私、自分のことしか考えてなかった……ごめんなさい……」


 セレンはその場に両手をついて、謝りながら泣きじゃくった……


「生きていれば辛い思いをする日は必ず来る。それは俺達魔法使いも例外じゃない。だけどそんな時は俺も一緒に悩んでやる。だから絶対にヤケを起こしちゃダメだ。約束だぞ」

「うん……うん……」


 セレンは声をしゃくり上げながらも頷いてくれた。すると後ろからパチパチと拍手が聞こえてくる。ガルが後ろを振り返ると、バージスがにやけ顔で手を叩いていた。


「いやぁ、いいものを見せてもらった。世界の人間がお前達みたいなのばかりだったら、俺も変な気は起こさないんだが、実際はどうしようもないクズが多すぎる。そこの親父みたいにな」


 バージスがエルシオンに視線を向ける。


回帰かいきの……セレンを連れて街に戻れ。そしてこいつのことを特殊部隊にでも報告して対策を取ってもらえ」


 エルシオンはガルに背中を向けたままでそう語った。


「お父さんは!?」


 セレンが叫んだ。


「アルメリアに手を出さないように体でわからせるしかない」

「だったら私達も一緒に戦った方が――」

「不死身の上に超回復まで備わっていては対策が必要だ。ランクが違いすぎてレリースも効かないだろう。お前達はさっさと街に報告に行け」


 二人からはエルシオンの表情は見えない。しかし背中から確固たる決意が伺えた。


「セレン、ここは言う通りにしよう」

「待ってガル! そんなことしたらお父さんが!!」

「数で攻めてどうにかなる相手じゃない……対策ができたらすぐに救援に戻る。だから今は報告が先だ」


 ガルはフライの魔法を発現させるために文字を刻む。


「ガル……娘を頼む」

「……っ!」


 エルシオンがそう言ったのに驚きつつ、ガルはフライを発現させた。


「お前達も行っていいんだぞ」


 そう言うエルシオンの周りにはナックル、ヴァン、ストルコが身構えていた。


「まぁ、セレンは大将に任せておけば大丈夫だろう。オイラは旦那に着いて行くぜ」 と、ナックルは言う。

「このくだらない世界に嫌気が差し、やさぐれていた俺達を拾ってくれたエルシオン様に最後までお供しますよ」 そう言ってヴァンは忠誠心を見せる。

「僕のキメラを殺したお兄ちゃんについて行くなんてごめんだね! 僕もここに残るよ」 ストルコはガルが気に入らないようだった。

「ふん、好きにしろ……」


 そうして四人がバージスと対峙する。それを見て躊躇ちゅうちょするセレンの手を引き、ガルは空へと浮かび上がった。


「セレン、飛び難いからフライを発現させてくれ」


 未だ中途半端な気持ちのセレンを引き、ガルは街へと急いで戻るのであった。

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