表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法使いの世界にて  作者:
一章 黒不石にて
14/108

黒不石の開放にて①

読み返すと誤字、脱字が多くて焦ります。

投稿前に確認はしてるんですけどね~(言い訳)

 * * *


 セレンは木陰から様子を伺っていた。ガルと自分の父親が対峙しており、酷く険悪な空気に思えた。

 セレンは飼い主の喧嘩に隅で震える猫のように、とても二人の間に割って入る事なんてできそうにない。


『ダークネス!』


 ガルが魔法を発現させた。辺り一帯が深い闇で覆われる。


「アイリス! 逃げるぞ。ブーストを使え」

「そこか。『ブラッドスフィア!』」


 バオン!

 魔力の弾ける音が聞こえた。


『シャイニング!』


 エルシオンが唱えると、周りの闇が一気に晴れた。

 捕縛魔法には誰も囚われていない。ガルはうまく逃げれたのだと、セレンは少しホッと息を吐く。


「セレン。そこにいるんだろう。出てきなさい」

「はい……」


 見つかったので恐る恐る出ていくセレンに、エルシオンが冷たく言い放つ。


「母さんのことも黒不石のことも、全て話したみたいだな。一体なにを考えているんだお前は!」

「うぅ、ガルって結構強くて、力ずくじゃ奪えなかったから……」

「それはお前の力不足のせいだろう!」

「ご、ごめんなさい……」


 父親に怒られてしゅんとするセレン。そこにナックルが割って入った。


「まぁまぁ旦那。実際にガルは強かったぜ。少なくともこの前まで学生だったってレベルじゃねぇ。それに比べてセレンはまだ15歳だろ? 負けても仕方ねぇさ」


 それに対してヴァンが冷や汗をかきながらたしなめた。


「お前はもっと目上に対する口の利き方を考えろ!」


 しかしエルシオンはナックルの言葉遣いなど気にもとめない様子で、セレンだけを睨みつける。


「その実力差を無くすためにセレンには『レリース』を授けている。それでも負けるということは使いこなせていないか、慢心したか……お前は恥ずかしいと思わないのか?」

「……っ」


 セレンは何も言えず、うつむくことしかできない。

 母親の病気を治すために何でもした。父親に褒めてもらいたくて努力もした。しかしいまだどちらも叶わず、それがとても悔しかった。


「まぁいい。黒不石さえ全て集まれば問題ない。先ほど最後の石の場所が判明した。お前たちは全力で回収しろ」


 エルシオンの言葉に一同が同時に頷く。

 これが最後の石。それを持ち帰れば全てが終わる。この時セレンは出口のない迷宮に光が差し込むような、そんな感覚を覚えた。

 その後、結果を言えば最後の黒不石は見つかった。

 だだっ広い荒野をセレン、ナックル、ヴァンが飛び交い、ストルコがキメラに指示を出して三日三晩探し続けてようやく発見された。

 見つけたのはセレン。他の者は皆、足取りが重かった。いくらこの辺にあるというエルシオンの情報でも、荒野という範囲が広すぎる事に手をこまねく中、セレンだけは必死に探し回っていた。

 そうして見つけた時のセレンは、感極まって涙を流し、石を自分の胸に押し当てて強く抱きしめるほどだった。

 ――これで全てが報われる。全てが終わる。全てが昔と同じように元に戻る。そんな想いを胸に、セレン一行は急いでアジトに戻り、エルシオンに報告をした。


「お父さん、最後の石、ようやく見つかったわ!」

「おおぉ!! でかしたぞセレン!」


 久しぶりに父の喜ぶ顔を見れたこと、褒められたことでセレンは達成感を得た。

 エルシオンはセレンから黒不石を受け取ると準備を始める。いくつか道具を持って外に出て、魔法陣を描いていく。それをメンバー一同が見守っていた。


「お父さん、どうやれば願いを叶えられるの? 私は何をすればいいの?」

「うむ、この石は何らか魔法で封印されている代物らしい。それも相当高ランクの物だ。セレン、こいつに『レリース』を放ってみなさい」


 言われるがままにセレンは、転がる六つの黒不石にレリースを放った。波が石に触れると一瞬変色するものの、何も起こらない。


「お前のS+のレリースではこの封印は解除出来ない。私でも結果は同じだろう。だから魔力増強のアイテムと、魔法陣を使って爆発的に魔力を高める。どちらも一度きりの効果だがな」


 そう言って様々なアイテムを使い魔法陣を組み上げていった。

 魔法陣の設置が終わるとその上に乗り、魔力増幅のための一つの腕輪を身に着ける。


「この魔法陣と、腕輪で魔力を最大限に底上げする。では始めるぞ」


 エルシオンは文字を刻み始める。じっくりと、はやる気持ちを抑えるように魔法を組み上げると、魔法陣と腕輪が反応するかのように輝き出した。

 魔力の上昇を確認するかのように一呼吸置き、魔法を発現させた。


『レリース!!』


 波が石に届くと爆発したように砕け散り、煙が上がって視界が遮られた。

 セレンは息を止め、煙が晴れるのを待つ。次第に煙が薄くなり周りが見えるようになると……

 ――そこには一人の男が座っていた。


「かぁー! やっと外に出られたぜ」


 男はボサボサの赤髪を掻きむしりながらぼやいている。三十代後半くらいだろうか。顔はいかつく、荒々しい印象を受け、赤髪とは正反対の真っ黒い服装でやたら目立つ。


「お、おぉ! あなたが願いを叶えてくれる存在か!?」


 エルシオンが歓喜に震えながら問う。


「は? 願いを叶える? なに言ってんだアンタ」


 男は不思議そうな顔で答えた。そしてそんな思いもしなかった反応にエルシオンが戸惑う。


「封印を解き放てば願いを叶えてくれるのではないのか!? 頼む、アルメリアを……私の妻を生き返してくれ!」

「生き返す? お父さん何を言っているの? お母さんは病気で……」


 セレンがおずおずと尋ねるが、エルシオンは相手にしていない。


「あぁ~? そんなこと俺にはできねぇな」

「そうか生け贄か!? 生け贄が必要なんだな!? だったら私の娘をやろう。その代償で妻を……」

「お前、俺をなんだと思ってんだ。俺はただの人間だぞ? 生け贄なんかいるか! 俺を解放してくれたことには感謝するが、できねぇもんはできねぇ!」


 男のそんな言葉に、エルシオンが愕然となった。

 だが、愕然としたのは父親だけではない。娘もまた、恐怖と混乱に震えていた。


「お、お父さん……私、生け贄なんてヤダ……それに生き返すって何を言ってるの? お母さんは病気で今も寝てて……」

五月蠅うるさい!!」


 思うように話が進まないことに苛立ちと焦りを感じ始めたところに、セレンが割り込むことでエルシオンの感情が爆発した。


「アルメリアはお前を産んだから死んだんだ!」

「……え?」


 セレンは目の前が真っ白になった。父の罵声ばせいが怖くて体が震える。けれどそれ以上に自分の知らない何かを叫ぶのを父の言葉が理解できなかった。


「だから私は反対したんだ。子供を産むのは体に負担をかけ過ぎる。ろすべきだと! 私はアルメリア一人いればそれでいいと……だがアルメリアは産むことを決して譲らなかった。出産後、なんとか一命は取り留めたが、病気の進行が格段に進み寝たきりになった……月日が経つごとに衰弱して、二年前に亡くなった……」


 セレンは記憶をさかのぼる。

 自分の記憶にある母親は、確かに体が弱く、床にせることが多い女性ひとだった。そして家族に優しく、目を離すと何かしら家事をこなそうとする女性ひとだった。

 幼かったセレンは母親に元気になってほしくて沢山手伝いをしたのを覚えている。

 ……だが、セレンの想いも虚しく、年月が経つにつれて立つ事さえ出来ないほどになってしまった。


「二年前って、ここの洞窟に移住してきた時期……じゃあ、回復のためだって作ったお母さんの部屋の魔法陣って……?」


 セレンがおずおずと質問をする。

 母親が立てなくなり、寝たきりになってからしばらくして、父親は療養のためといってこの洞窟に移住する事を告げた。だがそれは、同時に母親を治すために犯罪行為に手を染めるため、人目のつかない場所への移動でもあった。少なくともセレンはそう聞いていた。


「あの魔法陣は魂を転生させないための処置にすぎない。生き返らせる時が来る前に魂が消えては意味がないからな」


 エルシオンが淡々と言い放つ。

 セレンの目から光が消え、体からは力が抜け落ち、その場にへたり込んだ。


「結果、今のアルメリアは死体に無理やり魂を乗せているゾンビ状態だ……」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ