敵勢力との交戦にて④
* * *
「アイリス! 終わったのか?」
「とーぜん! 完全勝利!!」
ガルはアイリスと合流するとすぐそんな質問をした。
それに対してアイリスは真っ白な八重歯を見せるようにニカッと笑い、ブイサインを思い切り前に突き出す。
よほど嬉しいのか、かなりテンションが高いように見える。
「無傷か? オイラ達、二人でパーフェクト負けかよ……」
ガルの肩を借りているナックルが悔しそうに呟く。
「ガル、アンタ何で敵に手を貸してんの?」
「全力でぶつかり合って、お互いを認めた証だ」
「ふーん。私には勝者の余裕にしか見えないけどね」
アイリスは面倒くさそうに眼を細めている。
「ヴァンはどうしたんだ?」 とナックルが聞く。
「あの辺に落ちて行ったわよ」
「よし、そこでナックルを下ろそう」
アイリスが指をさし、ガル達はその方向へと向かった。
辺りを捜索すると、ヴァンは木に寄りかかるようにして休んでいたので、そこにナックルを並んで座らせる。
「ナックルもやられたのか。まだ子供に見えてかなりの腕だな」
「あたし達だってこう見えてかなり努力してるんだから」
ヴァンとアイリスが雑談を始めたが、次のガルの言葉がそれを止めた。
「では俺達は進ませてもらうぞ」
「チッ、仕方ねぇか」
「安心しろ、セレンに会うだけだ」
そう言って歩き出そうとするガルだが、向かおうとする方向から誰かが飛んでくるのが見える。
四十代くらいの無精ヒゲの男。それだけでガルは察しがついた。
「へへっ、どうやらこの先には進めそうにねぇな、ガル」
「エルシオン様、申し訳ありません。我々が不甲斐ないばかりに」
声が届く距離まで近づいてきた男にヴァンが頭を下げている。
やはりそうか、とガルの予想は確信に変わる。
この男がこいつらの統率であり、セレンの父親。
「セレンのお父さんですね? セレンに会いに来ました」
「回帰の杖……お前がガルか」
お前と呼ばれた事に敵意を感じてガルは警戒する。
「何をしに来た?」
「セレンと話をしに来ました。黒不石の事とか、お母さんの具合の事とか」
ガルの言葉にエルシオンの目つきが鋭くなる。
「全部セレンから聞いたのか?」
「……俺が無理やり聞きました。セレンがあまりにも必死だったので」
セレンに怒りを覚えたような表情のエルシオンに、ガルは取り繕おうとする。
「我々に協力する気はないのだろう?」
負傷した二人の部下に目を向けて、聞かずとも分かり切っているかのように問う。
「協力はできません。ただ、何かセレンの力になれれば……」
「ならば話し合うだけ時間の無駄だ」
ガルが最後までしゃべり終わらないうちに、エルシオンが魔法を使おうと文字を刻み始めた。
ガルも慌てて対抗する。
『ダークネス!』
ガルが魔法を発現させた。辺り一帯が深い闇で覆われる。
「アイリス! 逃げるぞ。ブーストを使え」
「そこか。『ブラッドスフィア!』」
バオン!!
捕縛の魔法なのか、ガルの体が包まれそうになる。しかし、すんでのところでブーストによる超加速で離脱に成功した。
ガルとアイリスは後ろを振り返る。誰も追ってこない。どうやら逃げ切れたようだった。
「やれやれ、ちょっと会いに来ただけでこの歓迎か」
「いやいや、少人数とはいえ、Sランク級の犯罪組織の所に手軽に行こうとするとか、アンタどんな神経してんの?」
ガル達はぼやきながら、特殊部隊の拠点がある街、ノードへと戻って行った。
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派出所に戻ると、隊長ことアレフと、その部下数名が待機していた。
「聞いて下さい隊長! あたしいきなり戦闘要員に駆り出されたんですよ!? 信じられます?」
「あはは……それは大変だったね」
戻るなりアイリスがアレフに泣きついていた。
「何だよ。ここに入隊するって言ってたしいいだろ?」
「『考えとく』って言ったのよ! アンタ立場分かってんの!? アンタはここの隊員なのに対して、あたしはまだ一般人なんだからねっ!」
「俺とお前の仲なんだから固い事言うなよ」
「隊長~! この魔法オタクにちゃんと言ってやって下さい!」
アイリスがアレフを盾に、シャーっと猫のようにガルを威嚇している。
「オホン! ガル君、彼女の言う通りだ。学生気分で巻き込んだ挙句、ケガをさせたとあっては始末書ものだ。以後気を付けてくれたまえ」
「はい、すいませんでした隊長」
「ちょっとガル、あたしに謝んなさいよ!」
アイリスに対していまいち反省しているのか分からない表情のガル。
まぁ元々無表情なので、どの道分かりにくいのだが……
「勝って大はしゃぎしてたくせに……」
「聞こえてんのよ! 別にはしゃいでないし!」
「で、結局ここの特殊部隊に入るのか?」
ガルの問いにアイリスが少しだけ口を閉ざした。僅かの間考え、
「入るわ!」 そう力強く答えた。
「ブーストとダブルマジック、二つとも扱う推定Sランク魔法使いに勝った。あたしはこの力が通用するなら、ここで使いたい!」
アイリスの瞳からは決死の覚悟が見受けられた。その真剣な眼差しにアレフがいきり立つ。
「よく言った! アイリス君、君の覚悟はしかと受け止めたぞ。手続きは私が済ませておくから安心したまえ」
アレフの嬉しそうな反応に呼応するかのように、周りにいた隊員達が歓声を上げる。
こうしてアイリスが正式に、対魔法犯罪特殊部隊に加わった。




