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魔法使いの世界にて  作者:
一章 黒不石にて
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敵勢力との交戦にて②

「あれ? 増援は一人だけなんだ? てっきり下っ端がワラワラと来るのかと思ってた」

「メンバーが少ないんだろう」 


 アイリスとガルがコソコソと会話をすると、それが勘にさわったのか、ナックルが腕を振り上げて抗議を始めた。


「オ、オイラ達は少数精鋭なんだよ!」

「どうでもいいが早く始めよう。ナックル、俺から距離を取れ、魔法に巻き込まれるぞ」

「分かってる。オイラ達は向こうでやり合おうぜ大将。ヴァンの近くじゃ巻き込まれちまう」


 ヴァンの警告にナックルがうなずき、親指で遠くを指した。ガルは距離を取る前にアイリスに囁きかける。


「もう一人は任せた。カインもお前の修行の成果を評価してたし、お前ならやれる」

「あぁ~! やればいいんでしょやれば! 腕試しもしたかったし丁度いいわ!」


 アイリスが吹っ切れたところでガルとナックルは場所を変えた。

 アイリス達と十分距離を取った所で正面から見据える。


「じゃあ始めるとしようぜ。セレンに勝ったみたいだが、だからってオイラがアンタに勝てねぇ道理はねぇ! 遠慮せずに全力で来い!」

「大した熱血漢だな。なら、本気で行かせてもらう」


 ガルはいつもながらの無表情だが、一瞬目つきが鋭くなる。

 ナックルは不敵に笑い、一呼吸おいて……二人が同時に文字を刻み始めた!


『マジックセイバー!』

『フレイムセイバー!』


 二人がほぼ同時に唱える。ナックルの発現速度も相当速い。


「へへっ、やっぱり男は炎属性だよな!」


 ナックルの手甲が赤く輝いている。基本的にマジックセイバーと同じだが熱を帯びている分、僅かに殺傷力が上がる。


『ストレングス!』


 続いてナックルがダブルマジックを使う。

 ストレングスは筋力を上げて主に攻撃力を上げる目的で使われる魔法だ。


『フレイムブリッツ!』


 ガルが攻撃を仕掛けた。人の頭よりも一回り大きい真っ赤な魔弾をナックルに飛ばす。


「ウラァ!」


 ナックルはそれを右のストレートで思い切り殴りつけた。

 バァン! 魔弾が弾けて拡散する。


「次はオイラの番だぜ!」


 ナックルが間合いを詰めて近距離戦に持ち込んだ。右の拳を主体に果敢に攻めてくる。ガルはその攻撃を杖で弾き、捌き、時には避けて隙あらば反撃に転じる。

 ガルが左肩を狙って振るった杖を、ナックルは左腕でガードした。すかさず右アッパーを繰り出すが、瞬時に後方へ飛んだガルに拳は届かない。

 一旦距離が開く。しかしナックルがとことん攻めの姿勢で突撃してきた。

 しばらくの間激しい攻防が続き、杖と手甲が激しくぶつかり合う衝撃音が響く。

 ガルがナックルの攻撃を避ける際にくるっと回り、その遠心力で思い切り杖を振りぬく。ナックルはガードするもその衝撃で後方に弾き飛ばされた。

 また距離が開き、お互いに息を整えるためにしばしにらみ合う。


「やるじゃねぇか大将。ここまで近距離が得意な相手は初めてだぜ」

「俺も前は、強化魔法でステータスを上げて近距離戦に持ち込むのが最強の戦術ではないかと模索していた時期があった。つい懐かしくてお前の土俵で戦ってしまっている」


 軽く会話を交わしながらも、お互い全く油断はない。


「なら見せてくれよ、大将最強の近距離戦を!」

「俺には無理だ。だがアドバイスくらいならくれてやる。『ストレングス!』」


 ガルも同じ魔法で強化し、再び二人の武器がぶつかり合う。

ここでナックルがラッシュをかける。しかしガルは後方へ下がりながら捌くためにうまく捉えきれない。


「こいつ、間合いの取り方がうめぇ……」

「近距離戦でネックなのはやはり、リーチが短い事だ。空中戦じゃどんなに後退しても壁に当たる事がない。そのためにうまく飛び道具も絡ませないと相手に翻弄される事になるぞ」

「なら、これでどうだ!」


 ナックルが攻めるのを止め、ガルの周りを高速で回り始めた。ジグザグに動いたり、フェイントを入れたりと巧みな動きでガルの隙を狙っている。

 一方ガルは僅かな首の動きと視線だけでナックルの動きを追う。

 ナックルが仕掛けた。右側面から突っ込むと見せかけて軌道を変え、背後から殴りかかる。

 ガルは右側面の攻撃を杖で捌こうと構え、フェイントで背後に回るナックルを……しっかりと捉えていた。必要最少限の動きでヒラリと避けてみせる。


『フレイムブリッツ!』


 ガルは避けるのと同時に、魔法を押し付けるように左手を付き出す。

 ナックルはそれを、すんでのところで左手でガードした。しかし魔法の勢いで弾き飛ばされる。


「遅いな。ブーストを使える者は音速級の速さを見極めなければならない。その程度の速さで翻弄できると思うな」

「くっ……だったら、見極めてみな……」


 ナックルがそう呟く。同時に上半身を前に傾け、目はガルをにらみつけるように鋭く見据えて、

 ――バオン!!

 魔力が弾け、ブーストで超加速したナックルが一直線にガルに向かった。真っすぐに飛び、ガルの隣を通り過ぎる際に右の拳で腹をえぐろうとする。

 ――ガギンッ!!

 しかしその一撃さえも杖で弾かれ、ナックルの拳はガルの肉体に届かない。


「回り込もうとしない分、一瞬で距離を詰める大胆かつ的確なブーストだ。だがあの前屈は『今からブースト使います』って言ってるようなもんだったぞ」


 これまで全くダメージいれる事ができず、ナックルの額から冷や汗が流れる。


「……アンタは相手を翻弄できるスピードを出せるのかい?」

「無理だ。俺は様々な魔法を使って相手の隙を突くのが今のスタイルだ。こんな風にな。『アバター!』」


 そう唱えるとガルの身体からスライドするように、もう一人全く同じガルが現れた。


「分身した!」


 ガルがスライドしたのか、分身がスライドしたのか、すでにどちらが本物か分からない様子で困惑するナックル。そんなナックルを気にもせず、シャッフルするように交互に入れ替わりながらガルは距離を詰めて来た。

 先ほどのナックルと似たような動き、ジグザグに動きながら二人のガルが隙を伺っている。


「コンチクショーが!」


 耐えかねたナックルが一人に狙いを絞って殴りかかった。ガルが杖で拳を受け止めると、


「今だ、やれ!」


 叫ぶと同時にもう一人のガルが背後から襲い掛かった。ナックルが振り向きざまに拳でガードすると、

 バシャリ……

 攻撃が防がれたガルが水になって崩れ落ちる。

 最初に狙った方が本体。そう気づいた時にはすでに遅く、ガルの左手がナックルの胴体に触れるギリギリの位置に迫っていた。


『ブラストショット!』


 ほぼゼロ距離で発現された衝撃でナックルが吹き飛ぶ。数メートル飛ばされると身体を制御して空中で静止した。

 ゲホッ……と軽く咳き込む。しかしガルに目を向けると慌てて文字を刻む。


「本気で来いって言われたからな。ブーストを使い切って、ダメージも残るお前にこれが止められるか?」


 ガルの杖が溢れんばかりの魔力でまばゆく輝いていた。大魔法が来る。そう確信したナックルはダブルマジックで左でも文字を刻み始めた。そして、

 ガンッ!

 両手を打ち付け火花を散らす。その火花の一つが丸みを帯び、徐々に大きな球体に変わっていく。

 ガルがほんの僅か、ナックルの準備を待つように止まっていたが、ついに魔法を解き放った。


「行くぞ、『インフィニティ・ブレイク!』」


 凄まじい魔力が解き放たれ、激しい勢いで波動が広がっていく。速く、紫色に輝きながらその一撃がナックルに迫る。

 ナックルは右手を耳の高さに。左手を右脇の位置に構え、両手を同時に前に突き出した!


『ブラスター・ナックル!』


 目の前の真っ赤な火球に拳が触れると、噴き出した炎がガルの魔法とぶつかり合い轟音を立てた。魔力と魔力のせめぎ合い。衝撃波が周りに広がっていく。

 押されているのはナックル、だが彼はなぜか嬉しそうだった。


「熱い! 熱い展開だぜ! 絶対に負けねぇ!」

「両手魔法の競り合いなんて、書物でしか見た事がないな」


 ガルも表情こそ変わっていないが、気持ちの高揚を隠し切れず力を振り絞る。

 ジリッ、ジリッと少しずつナックルが押されている。

 ナックルは死力を尽くすかのように腕をピンと張り、目をつむり魔力の放出に集中している。それでも彼に魔力の波が押し寄せて、今にも飲み込まれそうになったその時、

 バシュン! とナックルの魔法が消し飛んだ。いや、ナックルが目を見開いて魔法を解除した。そして


「まだだ! まだ諦めねぇ!『ブレイクナックル!』」


 左手のダブルマジックを発現させて、迫り来るガルの魔力を左ストレートで受け止めた。

 未ださほど衰えないガルの魔法を受け、左腕がビシビシと悲鳴を上げる。それでも怯むことないナックルだが、抑えきれない魔力が彼の身体を少しずつ飲み込んでいく。


「うおおおおぉぉーー!」


 ナックルが吠える。しかし彼の左手の魔法が弾け飛び、ついに全てを飲み込まれた。後方にある岩山に魔力と共に激突して、巨大な岩山が音を立てて崩れていく。

 そんな岩山が崩れて砂埃が舞う中に人影が二つ。砂埃が風に流され視界が晴れると、そこには気を失ったナックルとそれを抱えるガルの姿が現れた。

 ナックルがすぐに目を覚ます。


「う……あれ? 大将、どうしてオイラを助けた?」

「お前は全力を尽くし、その結果、力を出し切る良い戦いができた。そんなお前に対する俺からの賛辞だ。攻撃魔法よりも、岩に押しつぶされる方が痛いだろ」

「まぁな。けど良い戦いだったか? 実力の差は歴然だったじゃねぇか」


 ダメージの残るぐったりとした体をガルに預け、苦笑いをするナックル。


「ならお前は、今の戦いに悔いが残ったか?」

「……いや、悔いはねぇ。アンタと戦えてよかった」

「俺も同じだ、ナックル。お前が相手だからこそ本気でぶつかって行けた」


 苦笑いをしていたナックルが、その言葉で気持ちのいい笑い声を出した。


「あっはっは! 大将にゃ敵わねぇな。またいつか手合わせしてくれよ」

「全てが終わった後なら、いつでも相手になる」


 そんな会話をしながら、ガルは元の場所に戻ろうとナックルを抱えたまま飛んだ。向こうでは今もアイリスが戦っているだろうか?

 いや、アイリスなら大丈夫だとガルは確信していた。理由は分からない。ただ、彼女が負ける姿がなぜか想像できなかった。

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