SSSの候補にて➂
* * *
「すごい! 融合魔法だ!!」
控え室からセレンを見守っていたガルが大声をあげた。
「融合魔法? それって、二回戦で双子の姉妹が使ってたやつかい?」
そうアレフが聞いた。
「そう! そして驚かされたのは融合魔法を一人で使ったところです! 融合魔法は二つの魔法に、それを融合させるもう一つの魔法が必要になる。二つの魔法はダブルマジックで準備するとして、それを融合させる魔法はどうしたって準備できない。セレンは一体どうやって……」
ガルが興奮した様子で考え込む。
「どうでもいいけどさ、アンタって相変わらず魔法の事になると口数が多くなるわよね」
アイリスが呆れたようにジト目でそう呟いた。
「はっ!? そうか!! 詠唱だ!! セレンはずっと何かを詠唱していた。二つの魔法を融合する部分は、口頭だけの詠唱で完成させたんだ!! 凄すぎる!! やっぱりセレンは天才だな!!」
「いやテンション高いなぁ!」
「見たところアレはマジックセイバーとレリースを融合させた魔法! そうする事によって客席の結界を壊さずに振るう事ができる! セレンはずっとこれを狙って完成を急いでいたんだ!! 一体どんな術式なのか、早く見たくて待ちきれない!!」
「もうテンションたっかいなぁ……」
アイリスのツッコミさえ届かないほどに、ガルはその場で喚き散らすのだった。
* * *
「届かない? 僕の魔法が……? は、ははは……」
クリスが肩を震わせて不気味に笑う。
次の瞬間、クリスは大きく杖を振って魔法を発現させた。
「『フレイムアロー!』 だったら、その武器で消せないくらいの量で攻めればいいだけの話だよ! 『フレイムアロー』『フレイムアロー!』『フレイムアロー!!』」
もはやクリスの姿が見えなくなるほどに、炎の矢がびっしりと空中に敷き詰められる。
『フライ……』
セレンが飛翔の魔法を発現させて、フワリとその場から浮かび上がる。
「そう来ると思ってたわ。『マジックシールド』」
さらにセレンの前方に半透明の防御壁が展開される。
「最低でも二人は抜かないとソルティさんに怒られるんだ。怒られたら面倒なんだ。だから……これで落ちてよおぉぉ!!」
ブン、と杖を振るうと、炎の矢が一斉に降り注ぐ。それはもはや炎の雨である。
しかし、セレンの展開したシールドはその炎の矢を弾き返していた。
「その程度の威力なら、何発撃っても無駄よ。私のシールドは壊せない」
そう言って、ゆっくりとクリスの方へと近付いていく。
どしゃ降りの雹の中を、決して壊れない傘を差して突き進むかの如く、セレンは確実に迫っていく。
「ならこれでどうだああ!! 『シャイニングレーザー!!』」
クリスから無数のレーザー光線が放射される。それはセレンの左右を通り越したかと思えば、突然直角に曲がりセレンへと向かう。
「……むだ」
左右から直進する数本のレーザーを、セレンはクルリと身を翻して回避する。もちろん前方にはシールドを張っているので炎の矢はまるで問題にならない。
そうやってレーザーを避け続けるセレンだが、最後の一本だけはセレンを捉え、体に被弾しそうな角度で襲ってきた。
だがそれすらも、セレンはセイバーを振るいレーザーを切り裂く。当然レーザーは触れた瞬間に光の粒子となり霧散していった。
「遅すぎる。チカはもっと速いし、一瞬で背後を取ってくるわよ」
そうして再びクリスに向かって飛んだセレンは、セイバーで目の前のシールド事クリスを切り裂いた!
戸惑うクリスは、セレンの斬撃で肩を切り裂かれて苦悶の表情を浮かべていた。
——バオン!!
クリスがブーストを使い、その場を離脱する。
セレンはそんな様子を恨めしそうに見つめていた。
「むぅ。まだブーストが溜まってなかったから追撃できなかったわ……」
頬を膨らませてむつけるセレンだが、距離を置いたクリスは余裕のない表情をしていた。
「あぁもう面倒だなぁ。どうしてこう思い通りにいかなんだろう。僕はただ、早く終わらせたいだけなのに……」
そう言って、杖を自分の目で固定する。
すると、地面からゴゴゴゴという地鳴りが聞こえ始めた。
「魔法を消滅させる刃って事は、それを超えるランクなら消せないんじゃないかな。だったら、僕の最強魔法で勝負だよ!!」
そして、目の前にかざした杖を天高く振り上げた!
『フォースウォール!!』
地面が割れ、大量の水が空高く立ち上る。それはまるで滝のようであった。いや、滝であり、水の壁でもある。
巨大なソレは闘技場の端から端まで連なって、地面を砕きながらセレンに押し寄せてきた。
(さて、ここが私の正念場ね。見たところランクはレリースと同等。あとはどっちの魔力が高いかね……)
セレンも杖を強く握り、高々と振り上げる。そして、迫り来る滝の壁に向かって思い切り杖を振り下ろした!
「やあああああああああああああああっ!!」
ザン!! と滝に一筋の切れ目が入ると――
ズバアアアアーーーーン……
割れる。
巨大な滝が真っ二つに割れる。
そして割れた部分から光となって消えていく。
後には大量の光の粒子が舞い散って、幻想的な光景が広がるばかりであった。
「僕の……魔法が……」
魔法を打ち破られたクリスは呆然となり、目の焦点が合わずにどこを見ているのか分からない。それを見逃すセレンではなかった。
——バオン!!
ブーストを使い、一気にクリスの背後に回ったセレンは、その手に持つセイバーをクリスの首元に突き付けた。
「これで私の勝ちよ。もう降参して」
しかしクリスは何も答えない。
動きもしない。
ただ、静かに震えるのみである。
はぁ……っと、セレンはため息を吐いた。そして後ろからクリスの襟首を掴み、飛翔の魔法を操って強引に下降する。
もはや分かっていたのだ。クリスが茫然自失となっている事が。
「審判。判定して」
ポイっと地面に投げるように放り出し、審判を呼ぶ。
「な、なんと! クリス選手、攻撃を打ち破られて戦意喪失だぁ~!!」
審判はクリスに近寄り、話しかけながら状態を確認する。しばらくそれを繰り返し、意を決したように立ち上がった。
「クリス選手、もうこれ以上の戦闘意欲がないものとみなし、戦闘不能!! よって、セレン選手のぉぉ勝ぉぉぉ利ぃぃぃ!!」
——ウオオオオオオオオオオオオオオ!!
湧き上がる歓声に、セレンはホッと安堵の溜め息は吐く。そうしながら改めてクリスを見つめると、彼は地面に両手両膝を付きながらブツブツと何かを呟いていた。
「怒られる……絶対に怒られるよ……もうやだ……面倒くさい。メンドクサイ。メンドクサイ……」
そんな様子に、セレンは呆れながらも近付いて声を掛けた。
「まったく……男の子ならシャンとしてよ。そんな目の前でショック受けられると、こっちの方が面倒くさいんだからね」
そう言って杖を一振りし、自分にかけられた魔法を全て解除するのであった。




