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魔法使いの世界にて  作者:
一章 黒不石にて
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敵勢力との交戦にて①

「たーのーもー!」


 声が聞こえたので手を止めた。

 ガルは今、派出所の奥の部屋で魔法の研究中である。セレンの使うレリースのような、相手の魔法を強制解除できる魔法を自分も使えないか術式を組んでいるが、全くうまくいかない。


「たーのーもー!!」


 声が一段と大きくなった。聞き覚えのある声と、留守を任されていることを思い出し急いで出迎えに行くと、そこにはアイリスの姿があった。


「アイリス!」 いつも無表情のガルが、珍しく驚いた表情を見せた。

「やっほーガル。一ヶ月ぶりくらいかしら」 


 アイリスはいたずらっぽく笑い、手を振った。ガルも釣られて微かに笑顔を見せる。

 積もる話もあり、椅子を用意してこの一ヶ月を二人で交互に語った。


「えぇ! カインがここに来たの!?」

「あぁ、お前が自分の所で修行していることとか教えてくれたぞ」


 そうこう話している間にアレフ達が見回りから戻ってきた。


「おや? お客さんかな?」 アレフがガルに聞いた。

「隊長。こちらはアイリス。俺と同級生です」 


 ガルがアイリスの紹介を始めた。

 学園が強襲された時に一人行方不明になっていた本人である事や、この一ヶ月の修行で相当腕を上げたであろうこと。

 それを聞いてアレフは嬉しそうにポンッと手を打った。


「なるほど、それでアイリス君は今日、ガル君に会いに来たわけだね」

「はい。ガルがここにいる事はカイン……修行を見てくれた先生が教えてくれました」

「うむ、これも何かの縁だ。君もここの部隊に入らないかね?」 と、しっかりと勧誘を開始するアレフ。期待に満ちた目で見つめ、どうしても欲しいのかアイリスの肩をがっちりと掴んでいる。


「えぇ~! あたし、そこまでは全然決めてなくて、えぇ~!?」 


 突然の勧誘にアイリスが戸惑っている。

 無理もない。アイリスは目先の事ばかりで少し先の事なんて考えられる性格ではないのをガルは知っている。


「ちなみに、君のランクはどの辺なのかね?」

「修行でSランクになりましたけど……」 アイリスがおずおずと答えると、周りから驚きの声が上がる。

「学園も卒業扱いだし、君のその力を活かすのならばここしかない。いや、むしろ我々が君の力を必要としているんだ。若く、才能有る君の力を!」

「そ、そうですか? そこまで言うなら考えてみようかしら」


 力強い言葉でうまく持ち上げられたアイリスがそう答えると、おおぉ~! と周りから歓声が上がる。

「ついにリコさん以外に女性が!」 などと叫ぶ男達に、あのアイリスが若干怯えていた。

 考えておく、という答えに対して期待しすぎな気もするが、ここで一旦ガルが割って入った。


「それで隊長、アイリスを借りて少し外に出ていいですか? 前から行きたかった所があるんです」 

 ガルの目がギラリと光る。


「……分かった。気を付けて行きたまえ」

「アイリス、少し付き合ってほしいんだが、今から大丈夫か?」

「えぇ、別に構わないけど、どこに行くの?」

「行けば分かるさ」 


 そう言い、外に歩きながらフライを使うために文字を刻む。

 アイリスもガルに続いてフライを発現させ、後ろに付いて空へ身を浮かせた。


 木々に囲まれ、近くに川も流れている自然の真ん中にあるガル達に学び舎「ガルノフ学園」。そこから南に進むと、対魔法犯罪特殊部隊の拠点のある街「ノード」がある。

 ガルはアイリスを連れてノードから東にしばらく飛んだ。景色は平原から少しずつ岩山へと変わっていき、ゴツゴツした場所に出ると、アイリスが待ちきれない様子で再度聞いてきた。


「ねぇ、どこまで行くの?」

「もう少しだ」


 ガルが答えると、前方に人影が見えた。徐々に人影と近づいて、その者はガルの行く手を遮るように正面で止まった。


「そこの魔法使い、この辺はオイラの修行場だ。危ないから近寄らない方がいいぜ」


 その男はボサボサの頭に鉢金を巻いて、腕に手甲を付けていた。硬い物でも殴れるように、拳の部分が鉄で覆われている。

 彼も空を飛んでいるのだから魔法使いなのだろうが、見た目はまるで武闘家だった。


「そうはいかない、この先に用があるんだ」

「ん? 黒の短髪に長身、それに回帰の杖。ははーん、お前がガルか」

「え? 何? 知り合い? どゆ事?」


 アイリスがあたふたしながらガルに尋ねる。


「セレン……学園を襲った女の子にちょっと会いに来ただけだ。この男はセレンの仲間みたいだな」

「えぇ~~!! そんな友達みたいな軽い気持ちで会いに来たの!?」

「いや、実際友達みたいなもんだし。なぁあんた、セレンに会わせてくれないか?」


 ガルが男に向き直った。


「ダメだね! アジトには誰も近付けるなと命令されている。っていうか、どうやってこの場所を知った?」

「セレンと最後にあった時に『サーチ』の魔法を密かにかけた。尾行を気にしてかぐるぐる回っていたみたいだが、最終的にこの辺で落ち着いたのを確認している」


 ――『サーチ』という魔法は、いわば発信機のような魔法だ。相手の体に付着させると、使用した術者の頭に直接その位置が送り込まれてくる。

 ちなみに魔法は重ね掛けできない。いくつもの強化魔法を重ねる事はできないし、相手に直接弱体化の魔法を付与するのも難しかったりする。相手に直接付与するような魔法を使おうと思ったのなら、相手の位置を計算して、その空間座標を組み込む必要がある。もちろん相手は止まってはいない。だから相手に直接干渉させるような魔法は難しいのだ。

 その点このサーチという魔法は相手の体に付着させるだけで、魔法を重複させた事にはならなかったりするのである。


「チッ! そんな魔法も使えんのかよ……この場所を知っているなら拘束させてもらうぜ!」


 ガンッ! と両の拳を打ち付け火花を散らせる。


「オイラの名は『ナックル』。久しぶりにひと暴れと行くか!」


 そして右の拳を高々と掲げると拳から光が放出されて高く昇り、花火のように弾けた。


「ガル、これ合図だよ! 仲間が来る!」

「分かってる。だからお前を連れて来たんだよ」

「ええぇ~~! そういう事? あたしって戦闘要員で連れて来られたの!?」

「さすがに俺一人だけだと戦闘になった場合きついからな。……来たぞ!」


 ナックルの後方から一人、メガネをかけた男が合流する。こちらはいかにも魔法使いといった格好で文様の入った着物を着ていた。


「どうしたトーマス、侵入者か?」

「トーマスじゃねぇ! オイラの事はナックルって呼べ! こいつらアジトの場所を知ってる。拘束するのを手伝え。オイラは回帰の杖を相手をするから、ヴァン、お前は女の方をやれ。好きだろ女」

「誤解を招くような言い方をするな。戦うなら女の方が楽なだけだ」


 そう言ってガルとナックル。アイリスとヴァンが向かい合う。

 今、戦いが始まろうとしていた。

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