自動
分身といえば忍者とかが使いそうな影分身みたいなのが思い付く。しかし、そんなスキルを初期状態の時点で使えるのだろうか。ドキドキしながらスキル一覧を開く。
スキル 分身 Lv.1
技名:召喚
種別:アクティブ
説明:プレイヤーの分身を召喚します。分身はあなたの指示する通りに動きます。
[プレイヤーのステータス2分の1の力を持つ分身を召喚。効果時間:48時間 召喚数:1 ログアウト中活動可能]
ボタンを押すと、突然目の前に自分がキャラクターメイキングした物と全く同じ分身が召喚される。身長が高めで背中まで届く長い黒髪が特徴の男だ。目つきがちょっと悪い。失敗したかな……。
「私はあなたの分身です。『りんごの木気になる木_2』とお呼びください」
「え!?」
突然目の前の分身が喋りだした。自分と同じ声だが抑揚のない声だ。かなり怖い。そうそう、僕の名前は『りんごの木気になる木』と言う。りんご美味しいよね。
「えっと……質問に答えられるのかわからないけど、君ってどういうスキルなの?」
僕が聞くと、気になる木_2は答えた。
「このゲーム『リトルビット』はお手軽にプレイできるVRMMOであることを特徴としています。そのため、時間がない時でも様々なことができるように、分身に行動を代行させる事ができます」
え?それってログアウト中でも勝手に何かをやってくれるって事?なんかゲームとして本末転倒な気がするけど……。
「例えばどんな事ができるの?」
「指示をされた場所での狩りやクエスト消化にダンジョン攻略など指示を下さればどんな事でも可能です。また、プレイヤーと同時に活動をする事もできますのでパーティのメンバーとして行動もできます。ただし分身スキルのレベルが1である現在、私のステータスはプレイヤーの2分の1ですので、モンスターの討伐を指示する場合はある程度低レベルの場所を指定する事を推奨します」
「えぇ……」
「なお、私自身はプレイヤーの下位互換のステータスですが、分身レベルを上げると分身の数を増やせたりただの分身ではない独自の特徴を持ったキャラクターを召喚することができますので頑張ってください」
とりあえず、木_2との話を切り上げて、チュートリアル10を完了する。するとチュートリアル11が。まだあるのか……。
クエスト名 チュートリアル11
種別:システムクエスト
状態:達成(完了待ち)
内容:これにてチュートリアル終了です。報酬を受け取ると街に飛ぶことができます。
報酬:スタートスへの転移
[報酬を受け取る]
よかった、これで終了だ!さっそく報酬を受け取ると辺り、というか地面が光りだし……。
気が付くと僕は街のど真ん中にいた。おそらくスタートスとかいう街だろう。スタートってことなのかな、そのままだ……。
辺りを見渡すと舗装された地面、木造の家々が目につく。なんというかいかにもファンタジーって感じの街だ。
しかし、目についたのはそれだけではなかった。大量の人、人、人。多すぎる!?まるで通勤時間の電車か?って具合の混み具合だ。ってうわ、前から人が歩いてきて、ぶつかる……!
「ってあれ?」
なんと目の前から歩いてきた人は幽霊のように(幽霊なんて見たこと無いけど)すっと僕の体をすり抜けていった。そうか、これだけ人がいたらすり抜けられるようにしないとゲーム進行がままならないもんね……。
そういえばこれ全部プレイヤーなのかな?道行く女性をとりあえず注視すると女性の頭の上に名前が表示される。『卍xモンブランx卍_4』……分身だったようだ。その後ろにいる人も注視すると、『卍xモンブランx卍_5』同じ人だ。プレイヤーに指示されてどこかに出かけるんだろうか。
辺りの人たちを片っ端から注視していくと『うんこ_3』とか『キリト_2』とか、どれもみんな分身じゃん!本物はいないの?
「でさーこの前赤蜘蛛がレアドロしてさー」「ほんとー?いいなーちょうだーい!」
お?会話をしている二人がいる、これは普通のプレイヤーだろう。注視すると……『アレク_3』『聖天使猫姫_5』分身だ!!分身って普通に会話できるの?うちの木_2はなんか敬語だったけどなぁ。
「アレクに赤蜘蛛の糸集めろって言われて集めてたんだけどさー、猫姫_5ちゃんかわいいからこっそりあげちゃう!」
「え!?ありがとう、うれしい!」
しかもプレイヤーに内緒でアイテムあげてるー!?もしかして指示してもこっそりさぼったりするのかなぁ。
と、周りを確認してみると、普通のプレイヤーもちゃんといるようだ。よく見ると普通のプレイヤーは目立つように頭上にクリスマスツリーみたいに星のマークが乗っている。全部分身ってわけじゃないようで一安心。
さて、僕もこのゲームをいよいよ楽しもうかな。僕はこのゲームで何をするかは具体的には決まっていない。何でも出来るって聞いたから何でもしよう、とは思ってたけど、とりあえずまずは町の外でレベル上げかな。でも、街の外ってどこだろう、とことこと歩いているけどこの街、広すぎて迷子になりそう!
僕が困ってるといつのまにかついてきていた木_2が声をかけてきた。
「どこに行くか迷っているのでしたら、メニューから便利ボタンをタップしその後表示された移動ボタンをタップするといいですよ」
よくわからないけどうちの分身は相当気が利くようだ。さっそく移動ボタンをタップしてみると、ずらずらーっと一覧が表示される。
ギルド
武器屋
防具屋
宿屋
門...etc
門をタップすると今度は北門とか南門とか表示される。これを押せばそこまでの道のりがわかるとかだろう、そう思い北門をポチっと押してみると……。
「か、体が勝手に動く!?」
何故か勝手に体が向きを変え、全速力で走りだした。
「なんで~!?」
僕を追いかけながら大きな声で木_2は言った。
「目的地に最速で到達できる機能です。お手軽ですね」
まさかこんな斜め上な機能だったとは。まあ迷子になってたら時間が無駄になっちゃうし結構良い機能かも。
「尚、コンフィグで自動移動ではなく、目的地へのナビゲーションへ変更することも可能です」
ゆっくり見て回りたい人用に配慮もできてるのか……。
なんだかんだで北門に辿り着き、そのまま門を出る。すると、チュートリアルの時にみたような草原がまた広がっていた。
チュートリアルの時と違い、辺りには人もいて、大量に湧いているモンスターたちを倒している。
さっそく僕もモンスターを倒そうと思ったのだがうさぎのモンスターが出現するたびにそれを見計らってるかのようにそこに向けて駆けていたプレイヤーが一撃で倒している。
いや、実際にモンスターがいつ出現するかわかっているのだろう。あれは恐らく自動狩りだ。便利ボタンの一覧に狩りとかいうボタンがあったのを覚えている。けれど分身はともかくプレイヤーが中に入ってるのに狩りまで自動でしたら意味が無いだろうと個人的には思う。
とりあえず自分で狩りをしてみよう。とりあえず人の密集地を避けて探すと隅っこの方にうさぎがいたので近づく。
「よし、いくぞ!」
短剣を装備しうさぎに全速力で接近、斬りかかる。が……。
「外した!?」
うさぎが躱したわけではない。うさぎはその場にいたのに、当たらなかったのだ。その後、追従してきた木_2が同じく持っていた短剣で一撃でうさぎを倒す。
「……」
僕が沈黙していると木_2は言う。
「自動狩りならば敵を倒すための最適化された動きで能力の制限された分身でもこの辺りの敵なら一撃で倒せますよ」
僕は無言でメニューを開き、自動狩りを選択した。
しばらく自動で動く体に身を任せていると、自分の動きが、まるで自分ではないかのように洗練されてるのがよく分かる。
うさぎの出現予測ポイントに全速力で駆け、出現した瞬間に達人のような完璧さで敵を刺し倒す。ダメージの数字が浮かび上がってるのを見ると全部クリティカルだ。
もしかして自動狩りだと最適化されてるから全部急所なの……?全部自動だが、これはもうゲームと呼んでいいのだろうか。しいて言うならば達人の動きを体験できるゲーム?
——短剣スキルを習得
——走行スキルを習得
狩りをしていると何やらスキルを習得したらしいアナウンスが聞こえるが、気にせず狩りを続ける。ジャンプスキルとかあるかな?と思ってジャンプしながら敵に近づいて縦に切り裂く。ある程度、自分の考えで自動狩りに介入する事もできるらしい。
——ジャンプスキルを習得
全自動とはいえ、なんだかんだで爽快感がある。そんな事を考えながら狩りをしていると、突然頭の中にアラームが鳴り響く。まずい、もうすぐ2時間になるのか。
残念だけどゲームはログアウトしよう。そう思って自動狩りを中断してログアウトボタンを押そうとすると、木_2が言った。
「私はログアウト中なにをしてればいいですか?」
と聞いてくる。本当に気が利く。全然気づかなかった。そういえばさっきも指示してないのに狩りしてたし。
「そうだなぁ、じゃあしばらくここで狩りして、その後は自由に行動していいよ」
「わかりました」
さて、ログアウトしよう。なんだかんだで楽しかったな。
名前:りんごの木気になる木 Lv 2
スキル:分身 Lv1 短剣 Lv3 走行 Lv4 ジャンプ Lv1
次回、衝撃の最終話。
今日午後9時に投稿。