お助けその6
私は……臆病で気弱だ。動物は大好きで、でも、暴力は大嫌いで……人と接する事も苦手で直ぐに逃げたり隠れたり、泣いたりしてしまう。
成績は……昔は良くて……今は学年最下位を独占。まだ、中間だから良いなんて思えない。
お母さんやお父さんの為にも恩返しをしよう……そう考えて私なりに一生懸命頑張って、気づいたらそれが実っていた。
――とても嬉しかった。
親友は……ちょっと変わった人だけど、とても優しい。そんな彼女と合格したお祝いで何処かで食べようと待ち合わせしていた時……。
「……ちょっと顔貸せよ」
怖かった。信じられなくて、足が震えて……。彼は、私の次に成績が良くて、試験会場で初めて会った時は外見も真面目で、とても優しかったのに…。
今の彼は、不良と関わっていて、とてもとても荒んでて、可哀相だった。
「……何でお前が……!何でだあああ!」
『へへこいつ上玉じゃん』
『なあ、早いこと味わおうぜ』
それ以来、私は誰かに会う度に怯えるようになってしまった。彼女にも相談せずに、私は彼や不良の道具にされて……。
抵抗したくても怖くて、体中が痛くて……何よりも夢を奪われて……。
「……――っ!」
『おおっ良いね良いね』
入学しても、ずっとずっと続いていくんだろうと思いながら、でも、ずっと内心に秘めていた気持ちを隠して……。
中間試験発表で落ちた私は、みんなから暗い眼差しで見られていた。授業も教科書は使えず廊下に立たされる毎日。
放課後になればまた悪夢がやって来る。
体や精神は限界が来ていたから定期的にお医者さんに通ってた。
「みなも先輩は悩みとか無いんですか?」
「え……どうしたのいきなり……」
「ん~みなも先輩くらいの優等生でも悩みあるのかな~って」
「そんな、私にだって……あ…あるよ?。その……成績とか」
「とか?」
「(!)ち、ちがぅよ……えと、あ、私奢るね!」
数日、バイト先が一緒の後輩の女の子、ナナちゃんとフードバーガーへ寄った時、思わず溜め込んでものが出て、きっとナナちゃんはあの日から気づいてたんだと後から思った。
それでも、何も言わないナナちゃんにホッとしながら、私は別れてから直ぐに……彼の下へ足を運んだ。
「よぉ。お仲間さんとのお食事会は済んだのか」
「……っ」
まただ……。
彼は……『居鷹透』君は私の服を剥ぎ取って、自分の欲求を解消した。でも、私の精神は限界を越えていて……
「いやぁ!いやだよ!」
「イテッ!あ、おい逃げんじゃねえよ!!」
ずっと我慢していた心が……もう嫌がってた。体が……自然と逃げていた。
彼はナイフをもって捕まえた私の制服を切り捨て、左腕を何度も何度も踏みつけた。痛くて、辛くて……私は初めて抵抗して……逃げて逃げて……。
「ひぅ……あぅあ、誰か……助けて……」
お母さんやお父さんに迷惑をかけないと、こっそりと帰り、静かに自分の部屋で涙で枕を濡らした。
分かってた……誰かに助けを求めないと……私は何時までも救われないんだって……。自分一人で抱え込んでも……何も解決はしないって……。
――けど……翌日に、何時もの時間までに教室で待機してたら……
「ふえ?……お助け部?」
『そう♪私が仕方なく入ってる駄目駄目な部活だけど……相談してみる価値だけはありますよ☆』
「……む、むりだよぉ!だ、だって……私『あーキャセル駄目ですから基本。ということで今から迎えに行きまーす』ほえ?……え?え?……あ、あのナナちゃぁん!?」
私はナナちゃんにダンボールに詰められ、拉致されて、……気づいたらあの場所にやって来ていた。
……部長さんである二年の秀久君は最初は凄く怖くて、ナナちゃんを怒鳴ってたりしてたけど……凄く頼りなさそうなのに……この人ならきっと大丈夫なんだって何処かで思ってた私がいた。
「…涼宮さん、あんたさ虐められてるのか?」
あの時の表情はとても真面目で、嘘が付けなかった。
私を責めることもせず、最後まで話しを聞いてくれた人はあの人達が初めてだった。
ナナちゃんに相談したことは怖くて無かったし、先生にはお前にも非があると言われて……親には打ち明けられる筈も無くて……次第に私が悪いんだと思ってしまってた想いが気づけば反転した。
ナナちゃんは怒ってたけど……それは自分を頼ってくれなかった寂しさだったのが軽い発言でも分かった。
「ナナちゃん……その、ごめんなさい」
「さっき謝ったのに何を今更。……。ふーん…謝る気持ちがあるなら秀久先輩の下へ今すぐGO」
「ふええ!?……だだだ駄目だよ!なんだか忙しそうだし」
「あんな糖分ばかり舐めているねばねば先輩が忙しい?ノット。」
「……ナナちゃん……言い方……が」
結局ナナちゃんに行かないと気があると秀久君に言うと言われ、渋々と空を眺めてる秀久君を尋ねた。でも、行って正解だった……。秀久君は臆病な私を受け止めてくれた…。
あの日以来、男に触れられるのが怖かったのに、秀久君からは凄く安心出来る何かがあった。
今までの経緯を話した時、秀久君は薄く笑ってこう言っていた。
「なあ涼宮さん。……涼宮さんは涼宮さんのままで良いんじゃないか?」
「……?」
「気弱でも臆病でもそれがあんたなんだし」
「……それが…私……」
「ああ。それにダンボールに入ってた姿とか七海なんかより何百倍も可わんげらぱああ!?」
「ひ、秀久君!?」
私は私で良いんだ。だから……前進しても誰も文句なんて言わない。少しだけでも……少しだけでも私は…変わりたい。
だって……それが私だから……。
――だから……。
「よっ。待たせたな」
『『ヒヒヒ……』』』
「……」
「じゃあ何時もの場所に行こうか」
透君は薄気味悪い笑みを浮かべながら私の手を無理やり引いて行く。
私は気づかれないようにそっと机にハンカチを置き、強制的に教室から連れて行かれた。
「……涼宮ぁ。そろそろ答え聞かせろよ」
「……いや……です」
「はっ。お前も諦めが悪いな。とっとと俺の彼女になればいいのによ」
小さな拳を握りしめた。力なんて無い。ナナちゃんのように強く無い……。
でも、……私は……私で出来ることがある。
「……絶対に嫌です」
「あ?」
「私は……絶対に透君とは付き合いません!」
「てめぇ……」
――いまだ!
透君の手を振り払い、私は逆方向へ逃げ出した。
後ろから透君が不良の人達に追えと叫んでいるのを構わず、私は弱い体で廃校舎の廊下を音を立てても走る。
「はぁっ……はぁ……きゃ!」
『『よっしゃ!転けやがったあの女!』』
『『捕まえてたっぷり味わおうぜ!』』
『どけ!……涼宮、ふざけたことしやがって』
後ろを振り向くと透君がナイフを片手に殺気に満ちた暗い表情で迫って来る。
殺される……。急いで体を起こそうとすると、背中に熱い衝撃が加わって、私は地面にうつ伏せにされた。
「ぅ……あぁ」
「……ざけんなよ糞女が!!!てめえのような屑……体しか興味が湧かねーんだよ!!!」
仰向けにされ、馬乗りになった透君がビリビリとナイフで制服を裂き、片腕は足で抑えられ、片腕は押さえられた。
だめ!……あの人、『本気』だ。
「たっぷりと味わってから……殺してやるよ」
「……っ」
透君の片手が私の体を這い、気持ちの悪い感触が体中に走る。涙を堪えながら、体を揺さぶり抵抗しても、透君は男性。力の差は歴然で適わない……。
スカートの中を弄っていた透君の手と視界が一点に集まる。胸……。
「ひひ……実に上手そうな果実だなあ。ますます好きになりそうだ」
「……あぅ、や、やめて下さ……い」
プツンとホックが外れた音がして、透君の表情はとうとう崩壊して、恐怖が体を蝕んだ。……。
…………私は……私は……。
「――其処をどけやああああああ!!」
『ぐぶるぁ!?』
「……ぁ」
下着が外される寸前に透君は奇妙な悲鳴と共に教室の窓ガラスに激突して中へと消えてしまった。
思わず顔を上げようとするとパスっと大きめの毛布が掛けられた。
「……ナナちゃん?……えと……」
「あ、自己紹介まだでしたね。遠林圭太です」
笑顔で頭を下げると圭太君は照れくさそうに笑い、ナナちゃんに殴られた。……はえ!?な、ナナちゃん何やってるの!
「無理せず逃げて欲しかったけど……戻って来る時間を稼いでくれたんだよな」
「……あ……」
「サンキュー……涼宮さん」
「……秀久君!」
透君を蹴り飛ばしたであろう足を下ろし、秀久君は、上狼秀久君は軽く微笑むと再び私に背を向け、不良達の前に立ちはだかった。
◆◆◆
廃校舎なら、遠慮は要らないな。
動揺する不良共と窓ガラスに激突させたハゲ頭は驚いたように目を見開く。
「てめ……あの時のバカ面」
「よう。よくも騙してくれたな……ハゲアホ」
さっきの呼び出しの放送はデマだ。
どうやら、俺と涼宮さんが一緒に居たのを見ていた不良が引き離すためにか誘き出すためにか……そいつには悪いが眠ってもらった。あ、死んでないからね!?
「……く」
「生憎、喧嘩とか慣れててさ」
一歩下がるハゲにニヤリと笑いながら、懐で結んでいたブレザーの袖の結びを解いて脱ぎ捨てる。ついでにボタンを一つ開けて緩める。
脱ぎ捨てたブレザーを七海に投げると見事に外へ捨てられちゃった。
「ってコラァアア!?お前何平然と」
「えー。だってゴミじゃないですかー」
「七海ちゃん笑顔で言い返す言葉じゃないからね!?って……マッチ!いつの間に!?」
「……ちょっ……お前ええぇ!?その下には制服があるのに投げ捨てるなあああ!」
今頃俺のブレザーはマッチの火が引火して、焼け初めてるのだろう。……廃校舎だから誰も通らないし!最悪だ!!
「おい、何余裕な態度とってんだ……ああ?」
「うるさい!てめえに関わってる暇はねえよ!」
『『コイツ……』』
『マジでムカつくぜ』
「……殺す」
何かゴチャゴチャ言ってるけど、俺は今、あの変人と話すのが大事な訳でな……。
「邪悪なる剣よ!全ての重力を支配せよ!!出よダークグラビティア!」
『『全てを喰らう魔獣よ姿を表せ!』』
『キマイラ召喚!』
『オーディーン!!』
ハゲ頭の真下から魔法陣が現れ、滅多に見ることの出来ない『アヴァロン』と呼ばれる剣の一つ、禍々しい無数の針に骸骨の装飾、重力を操る剣、ダークグラビティアが召喚される。
隣では不良達がこれまた珍しい召喚獣のキマイラとオーディンを複数召喚……。
ああ、そういや圭太の情報によればこいつらエリートからの落ちぶれの集まりらしいな。
「どうだ!屑達には滅多に見られない武器と召喚獣だ!」
『『ヒヒヒ……』』
「あっそ……まあ、じゃあさ……とりあえず」
揃いも揃って能力者や異能達ばかり。まあ、それじゃねーと話しにならないけどな!!
俺は姫達を下がらせると何歩か前へ歩む。キマイラやオーディンは威嚇をするが全然話しにもならないな。
「知ってるかハゲ頭。俺、どうやら……不幸体質なんだ」
「「今更!?」」
「あ?そりゃあ残念だったな!確かにお前は俺に殺されるからその通りだな!」
「だからか……俺、最悪なもんまで背負ってるんだよな」
キマイラが動き出したようで、鋭利な刃のような歯が付いた口から真っ赤な炎を吐き出した。
が、俺はそれを避けようとはせず、焼き尽くすように燃え盛る炎に包まれ起爆した。
「秀久君……!?」
「ぎゃはははははは!傑作だ!まさかキマイラなんかに消されるとは!」
「誰が消えただって?」
「はは……は。は?……な!?」
炎はあっという間に俺の体内へ吸収され、無傷のまま俺はニヤリと笑って見せた。……正当防衛ってことでOKだよな?
……てか……
「涼宮さんにあんだけのことしたんだ……それなりの覚悟は……当然出来てるよな?」
「くそ……何だよ!大体……何で場所が」
いつか来ると思ってた質問に俺は人差し指で自分の鼻を指す。まあ、大体頭の良いコイツなら直ぐに理解出来るよな。
「……ま、まさか嗅覚」
「そ。俺は涼宮さんが残してくれたハンカチから匂いで此処まで来たんだよ。……生憎、俺は嗅覚が人の何十倍だから微かな匂いだろうが分かるのさ」
「……変態が」
「変態?……姫をあんな姿にしたお前が変態だろうが」
涼宮さんのハンカチをひらひらと振りながら鼻で笑っているとキマイラが炎を吐き出し、オーディンが斬撃を飛ばす。
たく……しつけが悪い召喚獣だな。
「大人しくしてやがれ!!!」
『『ーー!』』
『『ぎゃああ!?』熱いい!』
『は、腹があ……』
炎と斬撃を蹴り飛ばしキマイラとオーディンに直撃するとリンクしている召喚者が炎に焼かれ、斬られ、悶え、倒れる。
当然、召喚者が倒れたことで体を維持出来なくなった召喚獣達は光の粒になり風に流され、消えて行った。
所詮は人から作られたものだ。
……あの二人は細胞が微弱だったのだろう。
「な……、キマイラとオーディンだぞ!?」
「知らねえよ。猫と甲冑だろうが」
いや、甲冑だとあいつになってしまうな。うーん……よし、オーディンは骸骨甲冑にしよう!
「面倒くさいことは嫌いなんで……さっさと終わらせるか」
「……ぐ」
「知ってるか?この桜花はな、元々がそういう施設だけあって能力絡みだと最大限譲歩されんだよ」
「だからって何だよ!!!」
ハゲ頭は剣を両手に持ち、勢い良く振りかざす。それだけで地面が割き、全員に重い重力が降りかかった。
「……うわ!重……い!」
「え?凄く軽いよ♪」
「……」
後ろで何やら会話が行われているけど、俺は足を軽く曲げると風に乗って一気に走り出し、目の前のハゲ頭をグーでぶん殴った。あー!やっぱりまだ殴り足りねえ!
「……っ……な、何で、何でお前は平気なんだよ!」
「んー?さあなあ」
「じゃあ、これでもか」
ハゲ頭は歯をギリギリと鳴らし、途端、静かに笑う。
そして、あろうことか剣を己の腹に突き刺した。
さっきのように魔法陣が出現し、蛇が絡みつく。黒い霧が晴れた時には姿が完全に人間を離れていた。
……剣やキマイラ達はこの学園でかつて作られた擬似機能の召還師って奴により具現化したものだから知っている。だから戦い方も癖も分かる。
だけどこいつは別だ。……剣を吸収している。
「姿が変わった……」
「七海ちゃん冷静になってる場合!?先輩!」
「……」
『消えろ!』
「が……はっ……」
気づけば……、俺は殴り飛ばされてたみたいで。
……吹っんでいた。
「先輩!?」
「いってて……、相変わらずゴリラみたいな腕力しやがって」