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お助けその4

「……!!」

「え?……何でですか部長?」

「この傷はどう見ても打撲に近い。だけど擦り傷に似た傷、転んでも恐らくこんな酷くはならないし青くすらねぇよ」

「あ!だから叩いたか蹴られたか、若しくは踏まれたかですね!」

「ああ。だけどそれならぶつけたというパターンもあるから推定出来ねえ。……だけど涼宮さんの性格と今回の悩みである成績全て結びつけると……」

「前の依頼のようなパターンと似てますね!」


納得したように圭太は頷くがすぐに眉にシワが寄っていた。涼宮さんは七海にそっと肩に手を置かれ、スカートをぎゅっと握りしめ俯いている。


「……………」

「話してくれないか?お前の悩み……」

「………はい……」


涼宮さんは…込み上げてくる涙を堪えつつも頑張ってゆっくりでも経緯を語ってくれた。



――涼宮さんは高校受験で主席で上がったトップクラスの頭脳を持っていた。……後から聞いた七海の話しによれば、彼女は小さい時から臆病ながらも努力家だったそうだ…。


――だけど、精神面が低い彼女は人より何倍もプレッシャーに弱く、だからなのか合格した時の反動は大きくて…彼女からは信じられない程の喜びが現れたらしい。


――だが、それが仇となって涼宮さんが主席にだったことで落とされた二番目に見られていたんだ。

しかも厄介なことに…そいつは質がわりい不良だ。

何で不良の癖に頭がいいのかは知らねえけど…。


――最悪なことにそいつは涼宮さんと同じクラスだった。よって、勝手な不本意な怨みに振り回された涼宮さんは毎日悪質な嫌がらせ、多数の暴力を受けていた。


――教科書は引き裂かれたり、接着されたり、落書きされたり。


――休憩時間になれば毎日のように校舎裏に連れて行き痣が出来るまで殴ったり蹴ったり……。帰りには鞄を隠し……てか……もはや男子がするような苛めじゃねぇよ。


「そして……あんたは七海や他の友人に迷惑をかけまいと黙っていたと」

「…………ごめんなさい……でもナナちゃんやみんなに迷惑がかかるのは嫌でした……」

「どういう意味です?」

「ああ。確かに七海だと不良達を完膚なきまでに「手が滑りました」右足がぁっ!?」


ゴリゴリやめ……うぎゃあああ!?何か嫌な音がああ!


「七海ちゃん!学園シューズに何張り付けてるの!?」

「問題なく。“これは”対先輩用です」

「しかも一つじゃない!?」


ざっくりと穴が空いた俺のシューズと足…。痛みに涙しているとぺすんっと軽い音が真っ正面から聞こえた。

七海が涼宮さんをシューズで叩いていたのだ。


「馬鹿じゃないですか、退学とか言う前に自分のことを気遣えないんですか?」

「だ、だって!…………ナナちゃんやみんなに相談したら絶対やっつけに行くし……それで……もし……何かあったら」

「……」


 ――ぺすんっ


「あう!?」

「「二回目入りました!」」

「黙ってて下さい」


 ――ごすっ


「「ごはっ!?」」

「あ……」

「昔荒れてたのに何を今更心配することがあるんです?」

「だからなの!……だから……だから居なくなるのは……」

「人間いつかは一人になるものです」


「無理だよ、……無理だよ!!誰も傷つけたくない、巻き込みたくない!」


力の限り叫び、泣き崩れる。七海も流石に同様しているのか瞳が揺らいでいた。


「……だからっ……だから私が我慢すれば……」

「馬鹿じゃない?」

「……え?」

「先輩て本当に馬鹿正直だよね~。私が猫かぶりできるの忘れてない?

  ……唯一の先輩を置いて消える程私は馬鹿じゃないよ」

「……な、ナナちゃん…」

「はーい。涙を流している暇があるなら……前進してみましょうか。何時までも私や他の友人先輩にしがみついていたらこの先、なーんにも掴めないですよ~」


そう言うと戸惑う涼宮さんの背を押し俺の方へと向かせた。

相変わらずの荒療治だけど……まあ七海らしいな。

表情を変えずにいても心では泣いているんだろうなと考えると何か違和感がする。


「ぅう……あ、あの……秀久く、い、いえ『お助け部』さん!助けて下さい!」


さーて……圭太達の反応は同じか。ま、答えるまでもねぇよ。


「……部長は俺だ。……存分に暴れるんだっての」




  ◆◆◆





「ぁ……あ、あの……隣、いいですか?」

「涼宮さん?ああ……いいぜ」

「し、失礼します」


屋上で空を眺めていると、涼宮さんが一礼してから隣に立ち、おどおどしながらも屋上に刺してある柵に手を掴み、ゆっくりと首を上げて空を見上げた。

一人で此処まで来たか…。てか、俺が良くいる場所はあいつらしか知らないから。


「七海から聞いたのか?」

「はい。……あのそ、それに、か、関係に慣れるためにも……秀久くんと話して来いって」

「……相変わらずだなあの変人猫かぶり」

「……ナナちゃんですし。それに秀久くん……なんだか話しやすそうですし」

「何か釈然としない!」


柵をガンッと叩くと腕に痺れが走り思わず呻いた。涼宮さん笑いを抑えているがくすくすと零れていた。


「笑えよ。我慢してたら良くないしな」

「……はい。あの、……秀久くんどうして柵の上に立ってるんですか?」

「新世界を見たいからさ」

「だ、駄目です!ごめんなさい!許して下さぁい!」


ぐいぐいと涙目で責めてくる涼宮さん。てか泣いてるし……!

……はっ!何故か背中に危険な気配が!?


「……じょ、冗談だよ」

「あ…ぅう」


思わず後ろを振り返ってみると何も居なかった。な、何だ……き、気のせいか……。


柵から降り、再び寄りかかると涼宮さんはもうじきやって来る夕焼け空を見上げていた。


「あの……秀久くん。私、夢があるんです」

「……夢?」

「は、はい。……も、もう絶対に叶わないですけど……」

「……聞かせてくれない?」


――夢。

涼宮さんが憧れている未来は、好きな人と結婚して、子供を産んで……幸せな家庭を作りながら大好きな絵本の作家になること。

普通だけど……単純じゃなく、それでも純粋で綺麗で……汚れの無い未来になる筈だった。


――あの不良二番に出会うまでは。


涼宮さんは、精神的な苛めや肉体的な苛めを受ける一方で、性的な苛めを受けていた。それは涼宮さんの夢を大きく揺さぶり汚した。

本番行為を受けなかったのが唯一の救いだ。だが、それでも涼宮さんには十分な程の……。汚れた体を誰が抱いてくれるのか?誰がそんな自分を好んでくれるのか……。


「……だから私の夢は一生叶わないんだろうって……」

「涼宮さん……」

「それ以前に…私のような臆病で大人しくしている女性を誰が好きになってくれるんだろうって、そんな私が夢を掴む権利があるのかな……っ……て」


堪えきれずに涙がボロボロ流れていた。止めようと頑張っても涼宮さんの瞳からは溢れ出す涙の粒がとめどなく流れ落ちた。



「あぅっ……ひぐ……あぐ……ぅあっ……」

「何だよ……。権利とか言ってるけど、涼宮さん、あんたすげぇじゃん」

「……ふえ?」

「普通の奴なら退学や不登校になってんのにお前今もこうして毎日通ってんじゃんか。その強い精神が何処が弱いって言うんだよ!!汚された?……そんなんで弱気になるな!!お前は自分の可愛さに気づいていない!……いや、自分を見ていない!」


拳をこれでもかと握り締め爪が突き刺さり皮が剥げて血が手の中に滴る。

何だよ……言わせておけば……どっかの屑よりも……ずっとずっと強くて……前向きじゃねぇかよ!!


「夢を掴む権利?そんなもんあるわけねえだろうが!!

 自由なんだよ!何があったって…一度警察に捕まっていた身だとしても、例え弱気な奴でも、例え体が弱っていても!!

 ようはやるかやらないかだろうが!!お前は本当にやりたいからこうして俺に語ってたんだろうが!!」

「……秀久くん」

「それとな……一つ言ってやるよ。例えあんたが汚れていようが、俺は……そんなこと関係なく抱きますから!」

「ははははははははははははははひぃい!?」

「……なんてな。この世界は広いぜ涼宮さん。あんた受け入れてくれる奴は五万といる!だけどな……本当に好きな奴なら……心が勝手に惹かれるんだ」

「……」


……はあ……かっこわる。

好き勝手言ってしまったけど少しでも涼宮さんに届いてくれればいいんだけどな。


「……私を受け入れてくれる……人」

「ああ。けど、簡単じゃないと思うんだよな。お互いの心が惹かれ合わないとモロくて崩れやすいんだと思うし」

「……私、今までずっと人とあまり関わってなくて、好きって感情がはっきりと分からない内に、恐怖を植え付けられて……だからその……怖くて……」


あーまた泣いたか。

涼宮さんのように純粋な奴にはあんな体験は……一生心に傷を残すんだろうな。だからこそ、癒やしてやりたくなっちまいそうだけどさ。

俺はガシガシと頭を掻いてから、涙をボロボロ流している小動物に歩み寄った。そっとその小さな体を抱き寄せてやり、頭を軽く叩いた。


「そうだな……涼宮さんは辛い思いをずっとしてたんだな……」

「秀久くん?」

「……ごめんな。それをいち早く助けてやれなくて……」

「…………」


もっと早く、もっと早く、もっと早く分かっていれば……こんな辛い思いを空乃は体験することは無かった。俺達の部活は……まだまだ遊び感覚に過ぎないのかもしれない。


肩が濡れた感覚がする……。


涼宮さんの涙が……涼宮さんの悲しみが直に伝わったような気がして……胸が酷く痛む。


「うぁぁ……っ……秀久くん……私っ……」

「今まで良く我慢した。……後は俺達に任せろ」

「…ひぐっ…うあぁああ!!」


涼宮さんは無我夢中に俺の首に両腕を回し、縋るように胸に顔を埋め声を上げて泣いた。……留めていた……いや、せき止めていた石が外れ、今まで止まっていた水が流れ出すように……。

綺麗な夕焼け空が向かって来る中で、俺には既に真っ暗な夜にすら見える。

真っ赤に染まっている手のひらを涼宮さんの背中へ回し、ぐっと引き寄せた。


「怖かったです……辛かったです……痛かったです……本当は逃げたくて……逃げたくてたまらなくて」

「でも逃げなかった。それだけで十分お前は強いよ」

「……ひでひさ……くん」

「辛いなら……喋らなくていい。泣いていい……。だから、約束してくれる?……解決したら笑顔になるって」

「……ぐす。……はい。頑張って……みます」

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