お助けその1
桜花東高学園は学園都市に近いような存在の巨大規模な進学校であり、其処に毎日沢山の生徒や教員達が通っている訳で……俺もその一人だったりする。桜花……の名が付くだけあってか、桜が毎年鮮やかで綺麗なもんで、何処の学校でも見られない特別な木だとか校長は言っていた。
と、まあそんな前書きはどうでも良いとして、この桜花の魅力の一つに『部活新請』がある。簡単に言えば好きな部活を作ることが出来て、顧問無し、部員人数限定無しと、とにかく作り放題好き放題なんだ。だから*****部とかΔΔΔ部とか○の○○による○○部とかも作れるんだぜ?そんなことを言う俺もちゃんと作ったけど……、どんな部活なのかはこれからの物語で語られていく……。
だから…だから……さ。
「誰か!誰か助けてくださぁあああああい!!!」
「物語始まり早々いきなり不憫だよこの人!」
「うるせえ!!!何が好きで椅子と机の間に挟まれないとならねえんだよ!隙間狭いし!椅子固いしぃい!」
ツッコミはいらねえんだよ圭太!とにかく出してくれ!!!大体何だよこの椅子さ!ニ●リで買った高い椅子の癖に、椅子の先に粘着剤ってどんな嫌がらせだぁああ!
「くそ……何か飴付けてくれるからつい買ってしまった自分を殴りたい……」
「あんた馬鹿ーー!?何で飴で簡単に詐欺られてるの!?主人公で詐欺られるってどんな馬鹿だよ!」
「飴舐めんなぁああ!ぎゃああ!何か体がメキッて言ったああああ!?」
「後ろ向いて接着されてんのに体をこっちに向けるからでしょうがぁあ!?」
とりあえず圭太に剥がして貰おうと引っ張って…痛たたた!?馬鹿か!馬鹿圭太か!?このままだと服は愚か、肉すら千切れるからぁあ!
馬鹿圭太こと遠林圭太は桜花の一年生。今年から俺の部活に入部してんだけど…ツッコミ以外役に立たねぇ!!しかも俺の不幸度を余計に上げるし!
「固っ…これ…かなり接着されてますよ部長」
「……うん。何か俺の骨もすげぇズレた感じがしてる…」
「それ関節外れてますからね!?ああ!無理に戻したら…」
――メキュッ
「ごぁああああ!?ちょっ…何かすげぇ嫌な音があああ!」
「わあああ!?部長上半身だけが足の側面で止まってますから!」
「え!?ちょっ…だあああ!?戻らない!体が戻らなぁあい!」
痛みと苦しみが混ざり合って超痛てぇえ!?何だこれ!今俺の体どんな状態!? 圭太は顔を青ざめてるからにして戻れない所来ちゃった?
「いやだああああああああ!?開始早々いきなり上半身横向きって意味分かんねえよ!?どんなスタートだよ!」
「あ、ちょっとちょっと…そんなに体を振り乱したら…」
――ポキュっ
「へぁあああああああああああああああ!?」
「学習能力ゼロかあああ!?ほらもう体が斜めに向いてますから!」
「斜め!?だだだだ!?何かねじれてんのかこれ無理ぃいい!」
始まり早々体捻れる主人公って世界広と言えど俺だけだよな!?何かそう考えると凄く哀しい!!
こうなったら首だけで当たりを見回す。馬鹿圭太は使えねえし…何か…方法が…。
「失礼しま…あ、上狼先輩」
「……七海!?良かった、来てくれたんだな!」
「一応は部員ですからね~……」
「一応って言うな!」
くそ…何時ものことだけど…許せねぇ。
目の前でお気楽そうに笑っている少女は町中七海。学園でもトップクラスを誇る美貌と可愛さは壮絶な人気を誇っているけど…腹黒く何より変人。だから、多分だけど、困ってる俺の顔を見て凄いニヤニヤしていたと思う……っと、そんなことより…。
「七海!助けてくれ!…この粘着固くて」
「じゃあ切断しますか?」
「え?…ちょちょちょっと!?何その切れ味良さそうな鋸は!?」
「七海ちゃんストップ!ストップ!一歩間違えたら部長が切断されるからね!?」
「ちっ」
何を思ったのか、鋸を捨てると舌打ちをしながら「良い想像出来たのにな~」と呟いた。つか何を想像したんだよ!?考えるだけで寒気がするわ!
「あ、賞味期間切れのアイスいります~?」
「いらない!!」
「そうだよヒメちゃん!部長なんか賞味期間切れでも勿体無いよ!」
「お前は何様だ!馬鹿圭太コラァアアアア!」
あーー疲れる…。もしかしてメンバーミスったのかな俺…。椅子、いっそのこと諦めようかな…。
「駄目ですよ部長!そんなことしたら僕ら恥ずかしいじゃないですか!」
「失礼だよ圭太くん?……上狼先輩だって人間だよ?」
「お前も失礼だからな七海!?てか馬鹿圭太は俺の身が心配じゃねぇのかよ!」
二人に頼んでても拉致が明かないと思った俺は思い切って壁にぶつけて割ってしまおうと考え重い腰を上げた。勿体無い気もしなくもないけど不良品だし…あ、思い出したら何故か涙が…。
「部長何する気ですか?」
「………壁ごと粉砕する」
「いや壁は駄目ですからね!?この学園壊したら弁償しなきゃなんないですし!」
「……あ、あの……上狼先輩」
意を決する前にぐいっと七海に腕を引っ張られる。女子である七海からは想像出来ない力で…正に焦っているようにも理解出来る。
……!まさか…俺のことを心配して――
「入院してしまったら毎日お見舞いに…行きますね?賞味期間切れのアイス持って」
「俺怪我する前提ぃい!?てか何でアイス!?しかも賞味期間切れ攻め!?」
「大丈夫です。腕や足、首などが使えなくてもアイスは舐めれますから」
「大怪我前提じゃねーか!?腕はおろか首までってどんだけ致命傷だよ!?おい圭太!お前からも何か言ってくれ!」
くっ……。さっきから腹黒いことばかり言うこいつには圭太のツッコミが必要だ。
……………あれ?
暫く待ってても何も起きない…というかツッコミが無い。思わず振り返ってみるとソファーで体育座りをする馬鹿が居た。
『はは…くそ。いちゃいちゃしやがって。そりゃ、部長と七海ちゃんは僕より出会いが早かったし、七海ちゃん自体部長に気があるんだし仕方ないさ…。でもさでもさ…部室だよ此処?悪までも今部活中だよ?それなのに、それなのに…勝手に空間作って楽しそうにきゃっきゃやってさ…。どうせ僕には彼女なんて出来ないさ……ああ爆発すればいいのに』
鬱モード!?圭太の野郎…勝手な誤解で鬱モードに突入しやがったぁああ!!てか七海なんて願い下げだ!!く…あれに入ると暫く立ち直らないんだよな…あいつ。…ん?
…いってぇえ!?何か足の裏に刺さったああ!!
「あだっ!?」
痛みで片足だけで立っていると体のバランスが崩れ、後頭部からモロに激突した。頭に痺れが…。しかも温かい何かが…赤い何かが流れてる。ああ…何かすげぇ眠たく……。
「本当に部長ですかあなた?」
「ごめんなさい」
七海なんかに手当てをしてもらって……はあ…もう何か凄く悲しいと同時に自分が惨めだ。
「あっ……な、七海ちゃん巻き方がキツいよ!?」
「え?……そうですか?」
「ぐぶっ!?」
ぐるぐるに巻かれたと思ったら、圭太の叫び声の後、頬に熱いビンタを貰った。うーん…多分七海の奴、悪気は無いだろうし…お化けと間違えたんだと考えたら可愛い方だよな。
「ごめんなさい先輩……一瞬先輩の顔が……その」
「顔が何!?気になるんだけど!?」
「凄く馬鹿に見えます。あ、いつものことでしたね~」
「表出ろやコラァアアア!!」
「というか部長、思い切りミイラ状態ですからねぇええ!?」
うるせえな……。包帯ぐるぐる巻きなんざ日常茶飯事だろ?そんなことよりこの変人女には常識というものを叩き込んでやる!ん……?
「……って……顔の縛り具合が超痛いぃいいいいいいい!?」
「だーかーらぁ…巻き方きついって言ったでしょうがああ!」
「気持ち良いですか先輩?あれ?何で喚いてるんですかね~♪」
「やめて!七海ゃんは何もしなくて良いんだ!じゃなきゃ部長が死ぬから!」
「ぬぁああああああああああ!取ろうと思ったら視界がああ!」
「馬鹿ですね」
視界が見えないと思ったら頬に熱い衝撃が加わった。いたっ!?え?何!?何が起きてるの!!?ちょっ、痛っ……連続らめええ~~!
「ストップ!七海ちゃんプリーズストップ!!それ以上叩いたら部長が部長でなくなるからね!」
「なら、怪人馬鹿部長にしましょう」
――バチンッ
「ちょっ……音が強くなってる!?あだ!?いたたたたたた!タンマ!タンマお願いしまーーす!」
「え?延長?endlessですね♪」
「違う!違うよ!やめて!!部長が……顔が真っ赤でのっぺら状態だけど部長が死ぬから!」
「くそぉ七海ぃいいい!!あああ~前が、見えない!」
「あんたは黙ってなさい!!」
と、まあ。こんな風に馬鹿やってる部活です(特に何故か俺が……)。
頬に走る痛みが次第に強くなり、流石に我慢の限界が来た俺は思わず叫ぼうとした時、ガラリと扉の開く音が聞こえた。
「いい加減に……「あのー……此処って『お助け部』ですか?」」
「依頼人だ!」
「まじ!?よっしゃ!!来た来た!七海!おもてなしだ!!今日は盛大に……って隠れるなあああ!」
「……(ニヤニヤ)」
まずい!七海が隠れながら何か変な看板見せたことで、第一印象最悪だ!!依頼人の女の子も何か気まずい顔してるし!!
とりあえず、状況を打破するべく圭太にアイコンタクトを送るとゆっくりと頭を縦に振った。依頼人が来た時のあいつは…真面だからな!
『任せて下さいよ部長。おもてなしモードの僕は無敵です!』
『ああ……。頼んだ……!』
「あのー……」
アイコンタクトを終えると、圭太はネクタイを整え、すくっと立ち上がった。行け圭太初号機!!お前のおもてなしモードの力、存分に依頼人に見せつけてやれ!!
「……すぅー……」
「とりあえずメアド教えて貰えます?」
「「……」」
「圭太=変態」
「おかしいな…何故か帰りましたよ?」
「しまったぁあ!畜生!畜生ーー!俺の馬鹿野郎ぉおおおお!!…そうだよ!こいつセミロング女子フェチの変態だったのにぃいいいいいい!!」
「圭太くん!……初対面の女子に向かってそれは駄目だよ?逮捕レベルだし、とっとと地獄に行きなよ?」
「だって!だってセミロング素敵すぎるじゃん!!もう見た瞬間からメアド交換したいじゃん!!もう、凄くドストライクゥウウウウ!」
「やかましいわぁああああああ!」
ちなみに俺はツインテかロングだけどねって…関係ないし!!
畜生…セミロング馬鹿のおかげでもう来て貰えなくなったじゃねーかぁー…!!
「セミロング至高!セミロングこそ頂点!」
「うるせえ!!そんなにセミロング好きならナンパでもしてこい!」
「はい!」
「さらりと頷くなよ!?」
あー駄目だ駄目だ!この馬鹿のペースに飲み込まれたらこっちまでセミロングフェチになりかねないぞ!?




