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薄幸勇者、やり直す  作者: 香坂 幸人
少年期 貧困街編
4/10

1 勇者、現状を知る

 異世界転生。

 そう断ずるのに、そう時間は掛からなかった。

 正直、あまり驚きはない。異世界トリップなるものを経験したため、異世界転生というものがあっても「まぁ不思議じゃないか」というくらいの感想しかない。


 体が思うように動かない。まともに言葉を喋れない。

 それも、今の俺が赤ん坊であるからだろう。


「ぁー」

「ーーー、ーーーーー」


 今も、こうして見知らぬ女性に抱き抱えられ、優しく背を叩きながら何かを話しかけてくれている。


 が、生憎、異世界の言語が分からないというテンプレの所為で、何を言っているのか分からない。


「ぅー……」

「ーーーーーー、ーーー……」


 彼女は何度も俺に話しかけてくれている。

 赤ん坊の養育にはこれがいいというらしいが、果たして俺に効くのだろうか。


 降ってかかる音の羅列を聴き流しながら、俺は重くなった瞼を閉じた。

 


◇◆◇◆◇



 およそ三年ほど経っただろうか。


 言葉はまだ余り理解できない。周りの子どもは一言二言喋れるようだが、大人の頭には少し難しい。

 それでも単語程度は理解でき、大人達の会話の節々と外の景色から、ある程度分かってきた。


 まず、俺の名前。

 周りの大人は俺のことをどうやら『ナギ』と呼んでいるようだ。


 ここは、ヘイヤードという領の……謂わば貧困街(スラム)らしい場所。日々の食い扶持に困る者が、次第に集まり出す者達の集落のようなもの。

 そういう感想が、窓の外から見える生活環境だ。


 俺がいたのは、おそらく孤児院のようなものだろう。俺を含めた子供の数に対して、大人の人数が余りに少ない。

 俺にずっと話しかけてくれていた女性はリアと言うらしく、年上の子供達からは『先生』と呼ばれている。


 そんなリア先生が、よく子供達に読み聞かせをしている本がある部屋がある。その部屋には、他にもリア先生が愛読している本だったりとか、図鑑であったりとか色々と置いてあるらしい。



 ドアを開けるのに四苦八苦しながら、なるだけ音を立てないように忍び込む。


「へー……」


 ……思ったより本があるな。

 中に入ると、図書室とまではいかないまでも小さい古本屋くらいは開けそうな本が並んでいた。


 まぁ、予想外だがこれはこれで面白そうだ。異世界の本とはどういうものか興味もある。


「んー……」


 早速、側に積んである本から手を付ける。

 まぁ、どうせ異世界の言語だから分からないだろう。


 精々こんな文字があるって、ていどしかーーー


「ーーーぶすけより、せかいおみる?」


 ーーー『ブスケーより世界を見る』。


 半ば反射的に、まだ喋り慣れない拙い言葉使い。三、四歳くらいの今頃ではもっと喋れるのだが、まだ俺にはこれが限界だった。


「…………」


 次の本へ。


「…………」


 『魔獣大図鑑』。


 『魔術名鑑 初心者編』。


 『魔女と王子 悲恋物語』。


 どれもこれも一応読めるこの世界の言語は初見のはずだが……。

 なのに、なぜ俺は文字が読める?

 異世界効果的なやつか?

 ……いや、それにしては馴染み(、、、)がある。


 それから、俺は本を漁り続けた。

 中身はほぼ流し読み。娯楽物とか、この世界を知るために関係なさそうな本はそのまま放っておく。


 ガサガサと、棚から出した本は床なり机なりに放置。先生に怒られるとか、考えてる暇はなかった。

 ぎこちない、器用には動かん幼子の指でページをめくる。

 めくって、探す。


 探してーーー


「……あった」


 遂に、俺は目的のものを見つけた。

 地面に垂直に刺した剣の柄頭を両手で抑える、勇ましい男の絵画。


 ーーー『英雄伝説 聖剣の勇者』


『異世界より出でし人類最初の勇者ーーーナギサ フジサキ』


「っ……」


 もしかしたら、という気持ちがある。

 なぜ、俺がこの世界の文字を読めるのか。


 あぁ、簡単だ。

 一度覚えた言語は、余程でない限り忘れたりはしないだろう。


 つまり、一度来た世界(、、、、、、)に俺はいる(、、、、、)




 ーーーここは、俺が勇者として召喚された世界だ。

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