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自業自得

 深夜0時、大抵の人が自分の家に帰ったり寝てたり飲み会とか言ってお酒を飲み漁っている時間帯。

 だけど僕らが居る所はそういうのとは縁が無い場所だ。人通りの少ない、なるべく一人では歩きたくないような道。それでもお墓よりはマシなのだけれど不審者とかが居そうで怖い。

 でもこれからやる事はその不審者よりも酷い盗人的な役割だ。実行犯は僕一人………うん、これ泣いて良いよね!?

「泣いたら駄目よ」

「人の心読まないでよ………わりと切実にお願いしているから」

 最近の魔法使いは心を読む事ができるのがデフォルトなのだろうか? もしそうだったらプライバシーの侵害で訴えてやろうか?

「はいはい、ふざけないでそろそろ仕事するわよ」

 そう言って僕達全員に小型トランシーバーを渡す。形状はヘッドフォンのようになっていて邪魔にならないようになっている。最新式のタイプだ。

「今から私がここの施設の電力を強制的に停電させるから」

 礼の視線の先にあるのは何処にでもあるような普通のビルだった。だけどそれは表向き、実態は悪徳政治家と癒着しているマフィアが持つ拠点の一つでもある。

 拠点と言ってもあくまで名ばかりのギャンブル施設のような場所だ。政治家が金を落としてマフィアが武器を買い麻薬を麻薬、それで得たお金を政治家に渡すと言うサイクル。

 政治家達にとって邪魔な人間をマフィアが暗殺し、政治家はマフィアの行いを無視する。

 もはや政治家と言う以前の問題。人として。上に立つ者としては失格だ。

 だから学園に依頼されたのだろう。被害者たちが救いを求めて。

学園所属の魔法使い達は基本的に依頼されればなんでもする。と言うわけじゃなく、そこに各々の正義感や色々な思惑が重なったりして判断し行動する。

正義感が強い者だった場合なら罪を犯している者であるのなら依頼主でも構わずに魔法を使い倒して捕まえたり、欲望に忠実だったらお金さえもらえれば何でもするような奴も居る。

僕たち仲良しメンバーはどちらかと言うと前者の方、正義感が強い方に入るだろう。とは言え学園最大の慈善事業集団の〝クロスシフト〟には劣るけど。

 そう思っていると、突如ビルに蛍色の雷が走りあっと言う間に停電した。この色は間違いなく礼の魔法だ。

 トランシーバーを耳に当てる。

『はいはい。こちらいつも優しい礼様ですどーぞ』

 ふざけた口調の礼の声がした。どうやら上手く作動できたようらしい。

 礼は自分の魔法の影響によってよく電化製品をぶっ壊してしまう癖が出来てしまっている。だから今回も壊すのではないかと思っていたけどそんな事はなかったようだ。

「いつも優しい? いつも面白可笑しく生きているだけの間違いなんじゃないのかぜ?」

『もぎ取るぞそのメロンを!』

 そんな感じで二人は言い争う。が、すぐに止めた。

何だかんだ言いつつこの二人は姉妹のように仲が良い。ただどちらも姉と呼ぶには色々とあれだ。だけど例えるのならしっかり者だけどドSな姉にしっかり者だけどどこか抜けている妹と言った感じだ。

ちなみにマリアにいたっては怠け者のニートの末っ子だろう。いや、マジで。

『一応ブレーカーは落としたけど内部電気とかはまだ生きているわね。だけど今ので監視カメラは全部潰したはずよ』

「そう? なら全員所定の位置について作戦開始!」

 そう指示を出して全員を動か、ある場所に移動する。

 そこはビルの裏側、図面で見るならこの壁の向こう側には地下に繋がる隠し階段がある場所だ。

「じゃぁちょっと死んでもらいますデス」

 マリアは右目に付けている眼帯を外す。

「…………これを使うのは嫌いなんデスけどねぇ」

今まで閉じていた目蓋を開けると不気味に紅く光輝く瞳がそこにはあった。

魔眼シリーズ『死線バロール』それがマリアの魔法の能力。魔眼シリーズ、それは魔法が宿った目のこと。ただ全部見て発動しなきゃならないことだが全部強力だ。

能力は至って単純、死を支配する魔法と言えば良いだろう。相手の寿命を見る事ができる、死を形として見る事ができる、相手を死に誘うことができるとなど非常に眉唾物で曖昧な魔法だ。それもマリアが言っている事だから信憑性は低い。

それに魔眼シリーズの魔法は魔力である程度防ぐ事ができる。

でも、だからこそこれだけは言える。

「じゃぁ次はあたしの番ね~」

 ―――マリアの魔法はこの世で最もおぞましく、それと同時にこの世で最も綺麗な魔法だからだ。

「どっせい!!」

 バキン、そんな軽い音をたてて白くなった壁は道の拳によって簡単に砕け散った。

 相変わらず何時見ても綺麗な魔法だ。それでいて恐怖を覚えさせる。

 マリアがやった事はいたって単純、壁の硬度を死なせて脆くさせた。

 マリアは使いたがらないため詳しい能力の詳細は不明だが見た物の特性を死なせることができる。硬い物だった場合は硬さが死に、伸縮性のある物だったら靭性が死に脆くなる。

 分かりやすく言うなら脆くする力だ。と、言えれば簡単なのだが実際はそうではない。炎の熱さを死なせた場合は冷たい炎ができるし氷から冷たさを死なせれば熱い氷ができると言う風に性質の反転も可能だ。

 勿論そのまま炎を死なせて消す事もできるし氷を死なせて水にする事もできる。本当に意味の分からない能力だ。

単純であれば良いと言うわけではないけどせめて味方に分かりやすい魔法にしてほしい。そう言ってもこればかりは生まれながらに決まってしまうからしょうがない。

 基本的に魔法は一人に一つ、それが原則だ。中には二つの魔法を持つ二重属性デュアルと呼ばれる魔法使いも存在するが、と言うより僕と礼がそうなのだが基本的に互いの魔法が足を引っ張り合っている為、強いとは言い切れない状況だ。

 その点、礼はかなり相性の良い魔法を持っている。本当に羨ましい。

「ぉお、これまた綺麗に砕けたな。じゃぁ早速私の出番ってわけだぜ」

 クオは魔法『毒生成ポイズンポイズン』で作った特殊な睡眠ガスを砕けた壁の向こう側にへと放出する。

「この毒はかなりの特別性だぜ? 何せ、ほんのちょびっとでもこのガスを原液にして一滴でも飲ませればたとえティラノサウルスだろうと昏倒して三日間苦しんで最終的には内側から爆発して死ぬんだぜ!」

「そんな危険な物を使うなァァァアアアアアアアアアアアアア!!」

 次に中に入る奴が誰だか分かっているのかお前は!

「ああ、大丈夫だぜ飛鳥。原液なら兎も角、今のガスは精々三日間昏倒するくらいの効果しか発揮しねぇよ」

「それだけで十分に脅威じゃアホ娘がっ!」

「いやいや、謙遜はよくねぇぜ飛鳥ァ………お前は不死なんだからこの程度の毒ガスくらい大丈夫だろ?」

「正確には不死じゃねぇよ…………まぁ確かに効かないけどさぁ。それでも何か嫌だもん。すっげぇ嫌だよコレ。どう見ても人が生きていられそうな場所じゃねぇよ。一級危険地域だよおい」

 ぶっちゃけ実害が一番あるのがクオの魔法だと思う。その気になれば大都市に居る全ての生命体を毒殺する事ができる。テロリストも真っ青だ。

「どちらにしろこの中でマトモに動けるのなんか私かお前、例外で礼くらいなんだぜ」

 そう言ってにっこりと僕の顔を見ながら全員が笑う。

 ああこれ………体の良い生贄じゃないか……。

「と、言うわけなのでとっとと行って来るデス! 可愛い女の子が居てもドッキングせずに連れて帰って来いなのデス!」

 グッ、と親指をたてて女の子が言っているとは思えないような言葉をぶちまける。

「僕はそんな事しない!」

「え? しないんデスか? あ、すみませんデス。ドッキングはしませんでしたデスね。いくらなんでも飛鳥にそこまでの度胸は無かったデス」

「いくらなんでも失礼なんじゃないのかな………? 確かにしないけど!」

 大声を上げて反論する。と、言うより反論しないと僕の立場が色々と危うい事になる。

つーかこのアマなんて事を言うんだ。いっぺんぶっとばすか?

心の中でそう思っていると不適な笑みを浮かべてマリアは自分のコートの中に手を突っ込み、ある物を取り出した。

それには裸の女の人の写真が載っている、俗に言うエロ本だった。

「ですが飛鳥の部屋で見つけたコレがある以上、そういう展開も無いとは言い切れないんデスよね。こんなエロ本を持っているんデスから」

 それを見た瞬間、僕は悲鳴を上げた。見っとも無く盛大に喚いた。

「イヤァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!! な、何でそれを!!」

 ソイツは大事にベッド下にある引き出しの一番下にある隠し板の向こう側に隠していたはずなのに…………はっ、殺気!?

 突然感じた殺気に思わず身を翻して飛来してきたメスをかわす。が、完全にかわしきれなかった為、首の皮を少しだけ切ってしまい軽く出血してしまう。

 一体何をするんだ、メスを投擲したクオに向かってそう言おうとするが、

「っち………当たらなかったか」

 心の底から残念そうに呟くクオの姿を見て恐怖を覚えてしまう。が、それだけではなかった。むしろクオに恐怖を覚えて気をとられていた為、上に居る礼に気付かなかった。

 上から落とされる蛍色の雷に気付かず、そのまま全身を焼かれてしまう。

 意識を手放してしまいそうなほどの激痛と全身の筋肉繊維をズタズタに引き裂き、なおかつ身体の表皮を焦がしつくす熱さに悲鳴を上げそうになるがそれだけでは終わらない。

「取り合えず一言、言っておくわね飛鳥」

 さっきまでビルの屋上に居た筈の礼がもの凄い笑顔でいつの間にか僕の両手を踏みつけていた。

 俗に言う般若だろう。そうとしか形容できない。

「飛鳥だって男の子なんだからそう言うのに興味を持つのはしょうがないと思うわ」

「あ、ぁぁぁぁあああああ…………」

 恐怖によって呂律が回らない、今すぐ逃げ出さないといけない筈なのに身体が動かない。

「でもさ。そう言うのは十八歳になってからじゃないと駄目よ。分かってるわね?」

 バチリ、そんな音をたててマリアが持っていたはずの僕のバイブルが燃え始めた。

 隣のクラスに在籍している『男の娘達の男の娘達による男の娘達のどうやったらちゃんとした男として見てもらえるかの会』所属の横溝君に貰った至高の一冊が無情にも炎の中にへと消えて行く。

 だと言うのに今の僕にはそれを残念がる事すら出来ない。

 こう言う時は思いきってブチギレて肉体言語で語りかけてくれれば楽なのに礼たちはそんな事をしない。こう、心の奥底に響くようなトラウマを植えつけてくる。

「ご、ごめんなさい…………ごめんなさいぃいいいいいいいいいいいい!!」

 あまりの恐ろしさに泣き喚いて許しを請う。

「そう、ねぇ………取り合えずメイド服焦げちゃったからなぁ………」

「な、何でもします! 何でもします!! ですから許してくださいごめんなさい!!」

 その言葉を待っていた、そんな感じの顔を女子達全員がし、たった一人のおねぇである道は僕達を見て乾いた笑いを漏らした。

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