クエスト
人がにぎわう街の中にあるお店の中で僕らは昼食を取っていた。
世界的に有名であり第三次世界大戦があっても未だ残り続けている本当の大企業、マスコットであるピエロが子ども達に人気なハンバーガー屋で礼が外に出て毎回行く場所だ。
ここのハンバーガーは安くて美味しい、ポテトも美味しい。だって言うのに………、
「ねぇクオ、あんた今なんて言ったの? 私の耳が確かなら〝こんな店じゃなくとっとと出ようぜ、そして速く白髭のファーストフード店に行くぜ″と言っていた気がするんだけど………聞き間違いがあったら訂正してね」
「何一つ間違っていないぜ礼。私はこんな店なんかより白髭の旦那がマスコットをしているファーストフード店の方が美味いに決まっているだろうが。そんな事も分からないのか貧乏性がっ!」
現在進行形で二人はメンチをきっている。こうなった原因を知っている僕でもこう言いたい、どうしてこうなったと。
「二人とも止めるデス。こんな人が多いお店で言い争うなデス!」
マリアが二人をいさめる様にしてそう言う。だけど僕には分かる、次にコイツが言う言葉は二人をさらに怒り狂わせることだと。
「そんなのよりMのマークがあるハンバーガー店の方が美味しいデスよ」
「「てめぇは黙ってろ腐れニート!!」」
予想通り二人を煽って状況をさらに混沌にしやがった。ただでさえこの二人は手がつけられないのに………っ!!
「ギャァァァアアアアアアアアアアアアアアアア暴力反対デスブルグァ!?」
まぁ巻き添え食らってるから別に構わないんだけど、にしてもよく飛ぶなぁ………あ、植木に頭突っ込んだ。ぷぷぷ、ざまぁ。
「貴方達、ここは飲食店よ~。他のお客様の迷惑になるから暴れるのなら外で暴れなさい~、ね?」
道の言葉に三人はいっせいに静かになった。と、言うより道の背後にある謎の威圧感に気圧されて黙り込んでしまったと言うべきだろう。本当にこの中で一番怒らせてはいけない存在なんだから当然だ。
実際隣に居る僕も逃げ出したいんだから。
「三人ともあたしと飛鳥ちゃんを見習いさい、ちゃんとした格好をして静かに食べているじゃない~」
胸を張ってそう言う道だけどその格好、チャイナ服を着て言うのはどうかと思うんだけど? っていうか僕だってメイド服を着ているから普通じゃないんだけど……できれば普通の格好をして外に出歩きたかったです。
この中で服装だけは礼が一番まともで二番目にクオ、三番目にマリアと言うべきか………礼はフリルがついたワンピースを着てクオはジーンズに白衣、マリアはジャージにいつもの黒色のロングコート。
ダサくてもせめてマリアの格好をしたい。そう思う僕が居た。
「本当………なんでこんな場所に来てまで言い争っているんだよ………」
「「だってコイツがッ!!」」
「私は悪くないデス!」
「黙れ。互いの趣味嗜好で喧嘩なんかするな、討論会でも開け。マリアに関しては弁護する余地が無いから後でキャメルクラッチな」
「オーノーデス!! 差別と言うのはこう言うのを言うのデス!!」
「差別じゃない、分別だ。それくらい別れよ引き篭もり」
「ゴミ扱いデスか私は…………めちゃくちゃ傷つきますデス」
「まぁこんなアホは無視して話を進めるけど―――」
「無視するなデス!!」
「はいはい、分かったから首に手をかけてぶら下がらないで。苦しいからさ」
適当にあしらうようにしてマリアの両手を払う。支える物が無くなり僕よりも圧倒的に小柄なマリアはそのままバランスを崩して仰向けになって倒れそうになるが身体を半回転させて優しく抱きとめる。
他人から見たらそれはお姫様抱っこと言う物だろう。確か女の子の憧れであった様な気がする。礼とクオに以前やった時は顔を真っ赤にして黙っちゃうけどマリアは違う。
「ありがとうございますデス、そのまま椅子に座らせてくれると助かりますデス」
「はいはい。やれって事ですねマリア様」
マリアは女の子らしい反応をする事がない。年頃の女の子らしい反応をしてくれたら色々と目の保養にもなるんだけどこの馬鹿娘はそう言うのに気を使わない。センスが色々と死んでいるんだ。
服装しかり趣味しかり、とまぁかなり残念だ。やっているゲームなんかはエロゲーやらグロゲーばかりだし好きな物はジャンクフードばかりの不摂生。
それなのに体重は一向に増えない、ぶっちゃけ健康に気を使っている礼よりも胸が大きい。クオほど巨乳じゃないとは言え小柄な体格にしては中々大きい。
だけどマリアの場合は常に裸で過ごしているようなものだから結構見慣れている。僕としてはクオの巨乳か礼のツルーンとしたまな板を見てみたい―――
「飛鳥、今なにか変態なことを考えなかった?」
「ううん。考えていないよ。だからその両手に持っているメスとナイフをおろしてください」
本当に二人はさとりかなにかなのか? 何で心の中で思ったことが分かるんですか?
「ギャァァァアアアアアアアアアアアアアアアア!! 背骨が取れる、取れるゥゥウウウウウウウウウ!? 死んじゃうぅううううううう!?」
「大丈夫よ。アンタって一応不死なんだからこの程度で死ぬわけないじゃない」
「そうだぜこの色情魔。てめぇのような懲りない変態は上半身と下半身が別々になるような事が起こらねぇと分からないらしいからな………!!」
「ちょっ………僕が何をしたって言うんだよ!!」
「「お前がやってきた今までの悪行を思い出してみろ」」
「今までの悪行って………風呂を覗いたりしたり着替えを覗き見たり礼が僕等に内緒で買った東安堂のケーキをマリアと一緒に食べたりクオが居ないときにクオの部屋でマリアと遊んでいた時につい危ない薬品にぶつかって落として割った後逃げた事?」
「OK。後半二つについては今初めて知ったけどとり合えず罰ね。勿論そこで逃げようと企んでいる白髪も一緒に」
「何処に逃げようって言うんだ? マリアぁ………!」
「ち、ちくしょうデス!! よくもバラしやがりましたデスね! この恨みは死んでも晴らしますデス!! 覚えておけデス飛鳥ぁ!」
「フゥハハハァ!! 僕だけ死ぬのは嫌だからな!! マリアも一緒に巻き込んでやらぎゃぁぁぁああああああああああ!!」
「お、後もうちょっとで綺麗に真っ二つにできるな…………ちょうどいいからマリアも見とけよー。次はお前だからな」
「ヒィイイイイイイイデス!! は、放せ………放すデス礼!! 飛鳥のようにテケテケにだけはなりたくないデス! っていうか私はアイツのように不死じゃないんデスよ!? 死ぬんデス、私は! それが分からないんですかこのペチャパイ!!」
「大丈夫よ、安心して。世の中には電気ショックと言う処刑方法があるらしいから」
「何も安心できないデス! 最強の電気使いの電気ショックは普通の人間を丸こげになりますデスよ!? それが分かって言っているのデスかー!?」
「私はこれでも電撃の魔法使いよ? もし心臓や脳波が止まっても無理やり電気を流して蘇生させてあげるから」
「人はそれを拷問と呼ぶのデス、ギャァァァアアアアアアアアアアアアアア!! し、痺れるデスゥウウウウウウウウウウウウウウウウウウ!!」
「アハハハハハハハハハ!! 一人先に胸が大きくなった裏切り者よ、苦しむがいい!!」
「ぉお、見事に決まってるな礼。こっちも負けていられないぜ」
「ミギャァァァアアアアアアアアアアア!! 腰が、腰がへし折れる!! 曲がっちゃいけない方向に曲がる!! 曲がっちゃう!!」
「おうおう曲がれ曲がれ! そのままへし折ってやるぜこの変態コンビども!!」
ヤバイヤバイヤバイ、これは間違いなくへし折れるパターンだ。てか僕は変態じゃない! 女の子の裸を見たいと思うのは男として当然の心理だ! いくら外見が女の子といえどもせめて心だけは男の子でありたいと思ったから見ているだけだ! まぁ下心が無いわけじゃないけど………それでもあいつ等よりはまだマシだと思う。
心の中でそう思っていると地震と間違えるくらいの振動が建物を襲った。
周囲で僕達を無視していた人や視界に入れようとしなかった人たちもこれには騒ぎ立てる。が、一瞬で静かになった。
いったい何故か? その理由は――――
「あんらぁ? 床がひび割れているわねぇ………今の地震で割れたのかしら~?」
うちの怪童道ことおねぇが床を蹴り、その衝撃でクレーターを作ったからだ。てかマグニュチード5に匹敵しかねない地震を脚力だけでよく起こせましたよねおい。
「でも良かったわ~………喧嘩が収まって、ね」
笑いながらそう言うおねぇ………顔は笑っているけど目は笑っていない。それに言っている言葉も若干尖っているし語尾も伸びていない。俗に言う脅しだろう。
一応不死の僕や毒使い、電撃使い、引き篭もりの魔法使いである僕達でさえ怒ったおねぇには勝てる気がしないんだから。
「じゃぁ皆、さっさと席に着きなさい。速く食べて――――仕事を終わらせるぞ」
あ、ついに女言葉ですらなくなった。これはかなりやばいな。
ちらりと他の三人を見やる。全員が全員顔を真っ青にして席に座った。勿論僕もそれに続いて席に座る。
背骨が痛いけど座らないと大変な事になりかねない。そう思わせるような威圧感を発している以上、背骨が折れることよりも酷い目にあいそうだ。頭部が潰されたら流石に蘇生できないし。
そんな事を思いながらジュースを飲む。ぶどうの甘さが口いっぱいに広がった。
「いたたたた………で、どうやって忍び込むのさ? 悪いけど流石にあれは目立つから破壊するのはちょっと無理そうなんだけど………」
「そこら辺については色々と考えてあるわよ。一応とは言えそれなりの作戦が出来たから安心しなさい」
いや、安心できないんだよ。お前の作戦と言うのがいつも僕だけ得しないんだから。得しないならまだしも間違いなく損するような、例えるなら囮とか囮とか標的の夜の相手させられそうになったりとか………思い出しただけでも泣きそうになってくる。
誰が好き好んで男の夜の相手になったりするものか! 最近じゃぁ男でも構わないって奴がいるんだから本当に恐ろしいんだぞ!! その度にお尻がキュッと引き締まる感覚を味わう僕の身になって考えてみろ!
………なんて言えるはずも無く黙って若干冷えたポテトを貪るように食べる。冷めていてもこれはこれで美味しい。好き嫌いで分かれるとは言え僕は好きだ。
「とりあえず私が奴等の居場所の電気を断ち切る」
いつものように作戦を伝えていく。礼の魔法は電気関係だからこう言う事が得意だ。
最も、礼はもう一つの魔法を持っているから最強と呼ばれているんだけど―――
「で、マリアと道が音を出さないように壁を壊す。その後クオが中に入って睡眠を誘発させる毒ガスを散布する」
礼の言葉にクオ、道、マリアの三人はそれぞれ頷く。はてさて、何で僕の名前が呼ばれてないんでしょうな?
「最後に飛鳥がメイド服を着たまま潜入。不正の証拠が見つかり次第、奴等のアジトから金目になるものを取って来る様に」
「ちょっと待て。何で僕だけ仕事が多いんだよ。いくらなんでも不公平だよ。そもそも僕には向いていないよ」
流石の僕もそろそろ裏方的な仕事がしたい。そう思って不平を言うが、
「頭部を潰されない限り不死な飛鳥が言っても無意味な事よ」
却下された。しかも理由が不死と言う事で。
正確には不死ではなく………まぁ頭部さえ残っていれば全身がミンチになっていたとしても生きていられるし元に戻れるから別に良いんだけど。
「へいへい、分かってますよーだ」
「そう。じゃぁオペレーションΣ決行!」
「いつも思うけどそれは言わなくちゃいけないのか?」
「そうよ。理由はかっこいいからだけどね!」
「そんなんだから学園最強の中二病とも言われているんデスよゴキ娘が」
「…………」
「あ、痛いデス! 無言で殴らないで下さいデス!!」
礼が無言でマリアを殴る。何だかんだ言いながら姉妹のような関係だ。まぁ背丈が似ているからそう見えるだけなんだけどね。
「遊んでないで行くよ。もうご飯も食べ終わったしここには用が無いから」
「分かってるわ。けどもう少し待ってて。もうちょっとでこいつの首が取れるから……!」
「あだだだだだ………死ぬデス! だ、誰かヘルプミーデスゥウウウウウウ!!」
そんな感じで僕らはこの店を出たのであった。途中、ボトリと言う何かが落下したような音がした気がしたけど気のせいだ。