分断
飛鳥が何かを叫んだ直後、バタン、と何かが閉まるような音がした。
後ろを振り向くとそこに居るはずの調子に乗った飛鳥が居なくなっていた。
「どうしたんだぜ? 礼?」
「飛鳥は罠に嵌ったようね。悲鳴を上げているから」
「何デスか。いつもの事じゃないデスか。それがどうかしたんデスか?」
確かにいつも通りだ。本当に心配する理由が無い。
「ただちょっと気になる事があってね」
「気になること~?」
「飛鳥が遠野誠一と会話しているときに耳に入ったんだけど………自分の魔法ならZランクすら敵じゃないとか言っていたのよ」
「…………おいおい、ソイツ本当に科学者なのぜ?」
「まぁ相性によっては倒せるかもしれないわね~。本当に一パーセント以下の可能性だけど~」
「ぶっちゃけZランクと戦わないと分からないのデスよ。それを思いっきり味わった私と飛鳥は若干トラウマ――――」
突然マリアの立っていた場所に飛鳥が落ちていったような大穴が開き、落下した。
「え、ちょマリア!?」
「一体何が―――ワフッ!?」
「あららら~、そういう事―――」
あまりに唐突に起こった事なので反応も出来ず、クオと道も落下していく。
完全に全員が分断されてしまった。
「これもしかしなくても罠よね…………」
あいつ等の心配は無い。と、言うより心配する必要が無い。
たとえ相手がZランクでも逃げに徹しさえすれば何とか勝てるだろうけど………これは間違いない。
ためしに床に触れて魔力の通りを確認してみると薄いが魔力があった。
よく観察すると魔法陣も描かれている。
「間違いない、この感じは結界ね」
結界、一部の魔法使いが使う魔法の形の一つ。
その使い方は基本的に外界と内界を分ける事だ。だけどこの感じは内界を作り変える為だけの魔法だ。と、なると出てくる答えは一つ――――
「これなら強いって言う自信も湧き出てくるわね」
『実際に強いのだよ。この私の魔法は、ね』
唐突に遠野誠一と思われる男の声が天井からした。
天井にはマイクのようなものは無かった。あの超精密機械かと思ったがそれも違う。
これは魔法だ。魔法によって声をこっちに飛ばしているんだ。
『結界の内部限定だが私は世界の法則を、森羅万象に関わる事が出来る魔法を持っているのだよ。この魔法さえあれば魔力が少なくてもどんな格上の相手にだって勝てる』
自信満々にそう嘯く遠野誠一。
まぁそう思うのは当たり前だろう。結界の効果はコストやデメリットが多いほど効果は強く、強制力も高くなる。この結界の感じだと相手の能力よりも自分の能力を優先するタイプ、たとえ相手が宇宙そのものや全知全能すら吐息で殺せる全能殺しでさえこの結界の中に居る限り自分の持つ本来の能力すら上手く発動できずに虐殺されるだろう。
それでもZランクには遠く及ばないけど…………。
「で、皆を離れ離れにさせた理由は一体何?」
『戦力を分散させる、それだけさ。いくら私の魔法が究極に等しいとは言え決して全能足りえるわけではないからね。もっとも、それだけが理由なのではないのだが』
この男………一体何を企んでいる?
『本来なら先に君を倒すつもりだったのだが………今回はかつての実験の遺物が残っているのでな。先にそっちを使って観察することにしよう』
そう言って声は途切れる。
本当に話しをしていて不快な気持ちになるような男だ。自分が神様にでもなっているつもりなのか常に上から目線、と言うよりは人を人と見ていないだけなのかもしれない。
「まぁ心配は必要ないわね」
奴は完全に自分の魔法を頼りきっている。ならやりようはある。
と、言うよりもアイツは間違いなく飛鳥を一番最初に倒そうとするだろう。
だとしたら私が直接手を下すまでも無く遠野誠一は敗れるだろう。
他の皆のとこに行けば殆どの確率で勝てるかもしれないけど飛鳥は違う。
兎に角、遠野誠一は近衛飛鳥に壊される。それがこの事件の結末だ。
「ギュァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
耳を劈くような怪物の悲鳴じみた叫びが轟く。
「…………数は百体以上か、はぁ………」
溜息を吐き魔法を使う準備をする。
この感じだと外の方にも何体か居るだろう。まぁそれは後数分で来る援護の人たちに任せるとして………一人でこの数を相手にするのはちょっと面倒くさい。
「この魔法、飛鳥が私をゴキ娘と呼ぶ原因だから使いたくないんだけど…………一気に殲滅するには便利なのよね」
戦いの基本も質よりも数だし、まぁ私の場合は質も量も優れているんだけど。
「【雷光魔法・雷獣】」
手からプラズマの塊を複数生み出して放り投げる。
持ち主の手から離れたプラズマは卵のような形になり、そこから私の姿をした存在が数体生まれた。
【雷光魔法・雷獣】別名プラズマ影分身。その効果は言うまでも無くプラズマで出来た自分の分身、雷獣を生み出す魔法だ。
非常に便利で使い勝手のいい魔法で、一度発動すれば魔力を消費しなくても済むのだ。
もう一つの魔法が使えなくても限りなく本体である私の力と殆ど同じなのだから。
「さぁて、と。雷獣、あいつ等を殲滅してきなさい」
私の言葉通り、雷獣達は向こうの部屋に向かって光の速さで移動を開始する。
数秒後、怪物達の悲鳴とバチバチと音をたてる電気の音がした。
この様子なら私が行かなくても大丈夫だろう。何せこの雷獣は私がゴキ娘と呼ばれる原因。
「いくらなんでも酷いわよね…………雷獣を出してる時間が一秒でも長ければ長いほど鼠算式に増えていくからってゴキブリの名前を付けるなんて…………」
これでも女の子なんだからそこら辺は本当に勘弁してほしい。
ただでさえこの魔法を使うと「ゴキブリが出た!」とか「殺せ! ゴキブリは一匹居たら千匹は居ると思え!!」なんて言われているのは辛いのだから。
でも何で皆は模擬戦でこの魔法を使うのを嫌がるんだろう?
精々数が増えるだけなのに何で鬼畜魔法って言われるんだろうか?
まぁそんな事はどうでも良いか。
「兎に角、他の皆に合流するまでは雑魚散らしでもしておくか」
どうせ結末は決まっているんだから―――。




