落とし穴
昨日、僕らはクオと道のコンビの手によって沈められ地獄を見てきた。
比喩ではなく本当の本当に、礼の電気ショックが無ければ間違いなく死んでいた。おかげで身体が痺れたけど何とか死なずに死んだ。
それにしてもクオ達め………誰が仕事中毒者だよ。常に仕事をしてなきゃ気がすまない礼や毎日のようにゲームに明け暮れているマリアと違って僕は普通に暮らしてるんだよ!!
まぁ確かに徹夜してピアノの練習したりするけどさ。それは学校のコンクールで一位を取りたいからであって努力しているだけなんだよ。それなのに無駄な努力とはどう言う事じゃゴラァァァァアアアアアアアア!!
「あー、何かすっごく腹が立ってきた」
「奇遇ね、私もよ。マリアは?」
「同じくデス」
朝食のテラ盛バター醤油味のチャーシューメン・メンマネギもやし増し増しを啜りながら隣に座っている礼とマリアに同意を求める。
二人とも僕と同じ気持ちだったのか同じようにラーメンを啜っている。
ちなみに礼は味噌とんこつ野菜ラーメンでマリアは塩ラーメンのハーフ、前に座っているクオは日本食セット、道は野菜スティックに筍の刺身だ。
「全部自業自得だぜこの馬鹿トリオ」
「そうね~…………昨日はお前等のせいで俺等はあの五月蝿いサイレンの被害にあったんだ。てめぇらに謝る事なんざ一欠けらもねぇ」
「「「どうもすみませんでした!」」」
三人揃っての見事な土下座。床に移動して土下座するまでにかかった時間は0.7秒。最新記録だ。
怒った道なんて相手にするもんじゃないよ。
心の中でそう思いながら席に座る。ほかの二人も同じ事を考えていたのは言うまでもない。
「いずれにせよ。思いっきり食い溜めておきなさい。今日のクエストは例外クエストなんだから」
例外クエスト、通常のクエストとは違う特殊な状況でのクエスト。
解決したクエストの中には裏で何かをしていると言う事もある為、生徒達が自主的に調べ解決する特殊な案件だ。
本来ならここで引いて国際機関に任せるのが普通なんだがZランク級が一人でも居れば受ける事も可能になる。
この学園に居るZランク級は三人だ。礼以外にも変態副会長や風紀委員会・学園ジャッジメントのチビ餓鬼などと言った連中がこの例外クエストを受けている。もっとも、副会長は副会長で敵地で見つけた男の娘を自分の所有物にしたりして我が道を言っているし学園ジャッジメントのチビ餓鬼はチビ餓鬼で何か企んでいるし………いずれにせよこの三人の内誰か一人でも参加しないと受けられないため大抵の人は参加することを拒んでしまう。
だけどそれ以上に貰える単位や成績、報酬が凄まじい。
ぶっちゃけ家くらいなら簡単に買える程だ。それだけ危険度が高いという事でもあるんだけど。
「了解。おばちゃん、大盛チャーハンに水餃子にスープを一ダース追加! 後ラーメンもここからここまで全部お願い!」
「誰がドカ喰いしろって言ったのよ!! この外見美少女!!」
「アンブロイゼベアッ!?」
礼の放った電撃が僕のアホ毛に直撃。アホ毛は避雷針となり僕の全身を駆け巡った。
比高的軽めの電撃だったから特に辛くも無いけどびっくりはしたせいで変な悲鳴を上げてしまう。
「何デスかその悲鳴、馬鹿みたいデスね」
「お前はもうちょっと食うんだぜ…………」
「馬鹿デスね。この私がそんなに食べたら死んでしまいますデスよ?」
「じゃぁお菓子は没収しとかなきゃいけないわね~」
「ごめんなさい勘弁してくださいデス! それだけは本当に止めてデス!!」
そんな感じで賑やかに食事を続けていると―――
『ピンポンパンポーン。えー、学校連絡です。第三取調室が何者課の手によって破壊されていました。使用していたのは〝ペンタグラム〟のメンバーだって事は分かってるから理事長の貯金から勝手に修繕費抜き取っておきますねーどうも。ついでに中に居た人も居なくなってるんで』
と、言う音声が流れた。
第三取調室って確かジャンヌ・ダルクを閉じ込めていたはずの部屋だった筈だ。
ジャンヌ・ダルクには特別製の手錠を着けていたし簡単には出られないはずだ。
特別製と言っても魔力を垂れ流してしまうだけだし身体能力で壊せるか?
いや、それはありえない。魔法使いの身体能力が普通の人間とは比べられないくらい高くてもあそこは厚さ一メートルの鋼鉄で覆われている厳重な場所だったはずだ。
一体どうやってあそこから脱出したんだろう――――、
「……………気付かれてはいけないデス………」
はい、元凶発見。たとえ元凶でなくても間違いなく関わっているであろう人物だろう。
「マリア、どうしてこうなったのかな? 正直に言ってみ? 決して怒らないから」
他の三人にも聞こえるくらいの声の大きさでマリアに耳打ちする。
するとマリアは身体を産まれ立ての子牛のようにプルプルと震えだした。
「ほ、本当デスか?」
「うん。正直お前ならやりかねないって心のどこかで思ってたから」
「ぅう………マジでスミマセンでした。実は昨日、ちょっと色々と彼女に話したんデス。で、できれば協力して欲しいなぁと思いながら私はそっと手錠を外したのデス」
本当に申し訳無さそうな態度でそう言った。
「はぁ…………仕方が無いわね。少し早いけど出発するわよ。ジャンヌ・ダルクが心配だわ」
「確かに、詳しくはしらないけどZランク級に一矢報いるみたいな事言ってたから結構危ないような気がするんだけど」
「まぁ仕方がないぜ。マリアは後で自分の部屋の掃除は確定だけどな」
「ひ、酷いデス!!」
「全然酷くないわよ~、むしろ掃除で済んだだけでも温情だわ~」
「ぅう………ガクッ」
涙目になって項垂れるマリアを尻目にテーブルの上に乗っている残りの料理を平らげる。
「んじゃぁ私は先に行って来るって今日行くメンバーに放送で流してくるわね」
そう言って椅子から立ち上がって放送室に行こうとする礼。
そんな礼に向かって道は顎に手を当てながら問う。
「ん~、足りない人数はどうするの~?」
礼は道の問いに笑いながら答えた。
「来るまで私ががんばる。それだけよ」
++++
「うぶっ…………吐き気が凄まじい」
礼が操縦した小型飛行機に酔ったのか、朝食った物の量が多すぎたせいなのかは定かではないが兎に角気持ち悪かった。と、言うよりあんな速さでまともになんかいられるわけがない。
瞬間的な速さなら上回れるけど常時あの速さはマジ無理、一直線なら兎も角イナズマのように直角に何度も曲がって飛行機の中でシェイクされて僕とマリアなんかグロッキーを越えた何かの状態になっていた。
「はいはい~、今回復魔法をかけてあげるわね~」
「うう…………助かりましたデス」
「危うく口からとんでもない物を吐いてしまいそうだったよ………」
道の回復魔法のおかげで何とか回復できた。
本当に一家に一台、いや、一チームに一人の回復要因だ。
「吐くんじゃねぇぜ? 吐いたら私も吐くからな」
「止めてくださいデス。貴女が吐いたらそこのアホ毛を除く全員が死ぬデス」
「おいコラマリア。人に向かって指差すんじゃねぇよ。まぁ、確かにその通りなんだけどさ?」
そんな感じで僕らが談笑していると――――、
「ちょっとあんた達! 今おかれている状況が分かってるの!?」
礼が怒り狂った形相でこっちを見てきた。
状況? 勿論分かっているさ。
「ただ今、三百六十度全方位敵に囲まれているって事くらい見れば分かるよ」
超高速の飛行機でシェイクされて敵地でまさかの不時着、そしてからの敵に囲まれ逃げ道も無い。将棋で言うなら詰みだろう。
「だったら少しくらいは手伝いなさいよ!! 私一人に任せないでさ!!」
そんな状況でもこうして気楽に話し合えるのは礼が放電して敵を撃退しているからだろう。
本当にありがたい。いや、結構マジで。
「出来れば手伝いたいんだけど僕個人としては魔力を温存していたい。それ以前に相性も悪すぎるし…………薄くでも魔力通っているから紙以下の防御力だし」
「私が戦うとここに居る全員に被害が行くんだぜ? 単独行動してからじゃないと危なくて使えるかよ」
「あたしは肉弾戦だから礼が戦っている以上ちょっと巻き込まれるのよね~」
「と、なると私がやるデス。礼、一回放電止めてそこのアホ毛の後ろに隠れてて欲しいデス。そこのアホ毛は不死ですし私の魔法を無条件で無効化できるデスからね」
「じゃぁそうさせてもらうわね」
「僕は盾じゃないからな。確かに無効化できるけど…………」
放電を止めて自分の後ろにこそこそと隠れ始める礼を尻目にしながらマリアがこれからするであろう事を予測する。
先ず間違いなくあの魔法を使うだろう。間違いない。
「【でわ皆々様方、ご拝見なさい。一世一代の死の祭を――――】」
マリアは眼帯を取り魔法を発動する準備をする。すると背後に巨大な鬼のような白い存在が現れた。
歌を奏でて、死を具現化する。と、言えば色々と小難しいが要するに魔力を込めた詠唱で死神を現出させる魔法だ。
その名も―――
「【魔眼シリーズ『バロール発動』死線魔法・死亡遊戯】」
マリアの魔法が発動し、死神は動き出し始め、機械で無理やり動かされている腐った死体はそれを迎撃しようと背中に埋め込まれているキャノン砲を向けて放つ。
微弱とは言え魔力の篭ったエネルギー砲だ。その威力は魔法使いに普通に通る。
だけれども、そんな攻撃もマリアにとっては意味が無い。
「これでも一応はSランクの魔法使いなんデスよー。そんな攻撃無駄DEHTE」
砲撃はマリアの身体に当たる事無くこの世から消滅した。いや、死なせたのだ。
死神と言うのは死を形状化させた物、それは死の塊と言ってもいい存在。
これの前には不死と言う属性を持っていなければ、効果そのものを無効化できる魔法使いじゃないと駄目だ。たとえ森羅万象に干渉して死を起こらないようにしてもそれすら理不尽に死なせる。
そんな圧倒的存在を自分の思いのままに振るって動く死体達を死なせていく。
はっきり言おう。お前ソレ魔王とかラスボスの能力だろうが。
「死体は死体、この世に繋ぎとめられてるとはいえその法則は絶対に変わらないデス」
アーメン、と十字を切り死神を消す。
「魔力消耗が激しいので少し温存デス。兎に角、終わりましたデスよ?」
「OKだぜ。流石はSランク魔法使い。敵わないぜ」
「貴方達ならすぐにでもSになれるわよ。次の試験で間違いなく合格するだろうし」
「本当~?」
「本当だよ。きっと間違いなく合格する。てかしないとおかしい」
一年間毎日勉強していたのだから合格して欲しい。友達としてそう思う。
けれどもし合格しなかったらきっと僕は試験管を血祭りにしてしまうだろう。
「でも、何でこんなに敵が居たのかしら? 行く事はばれていただろうけどこれはいくらなんでも異常ね。まぁ分かったけど」
周囲を見渡してそう呟く礼。
確かに礼の言うとおりだった。これは少し何でも異常だ。
何せ既に戦闘が行われていたのだから。
「この熱量と焦げ跡、そして魔力の残滓。実際に戦った飛鳥、言ってみて」
「もしかしなくてもジャンヌ・ダルクの魔力だよ。実際に焼かれているから分かる」
と、言う事はジャンヌ・ダルクが真正面から侵入せずに昨日僕らがやったように壁に大穴を開けて侵入した、と言う事か。
「とりあえず中に進入するわよ~。ここに居ても意味なんかないからね~」
「んまぁ、その通りデスね」
そう言って道とマリアは壁にあいている大穴の中に入っていく。
はぁ、と軽く溜息を吐きながら礼とクオも続いて入る。
そして最後に一応警戒しながら中に入っていく。
「まぁ警戒しても既に倒したし、ジャンヌ・ダルクが先に中に入っているだろうから罠とかは無い―――」
突如床が開き、僕の身体は重力に従い落下しはじめた。
「って、何で落とし穴があるんだよ。そして何で僕が歩いた瞬間に作動―――――――」
最後まで言い切ることが出来ずに僕はそのまま落下していくことになったのであった。




