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居候狐  作者: 雪原 奈古
10/11

短編 霊狐といなり寿司

新シリーズ公開に伴って、[短編]という形での更新となりました。ちびちびと更新できればと思っています。どうぞ[居候狐]と[天使は悪魔にキスをする!!]をよろしくお願いします。



「ちょっとー!ジン君もこっち手伝ってよ!


早くしないと、また燈輔さんから怒られちゃうよ。」


未は世話しなく、手を動かしている。


「あの人、手伝いサボって何してんだろ。


陣は熱湯の中から、パックになっている油揚げを取り出す。


「だいたい、“霊狐は雛祭りの日、いなり寿司を食わないと毛が抜け落ちる”って本当なのか。

明らかに燈輔さんの欲望出ているだろ」


パックから取り出した油揚げをキュッと絞って酢飯を詰める。


「けど、沙希がハゲちゃったら嫌でしょ?

たまにはいいじゃない。


あの居候娘も起きてこないことだし…」


しかし、何故か陣の寝室のドアが開き、その居候娘が出てきた。


「残念でした!隣人(女)に愚痴られる気はありません♪」


「だったら、作るの手伝ってね。

半分はあんたのためなんだから!」



未琴は手際よく、いなり寿司を仕上げていく。


「沙希、霊狐っていなり寿司を食べないと、毛が抜け落ちるって本当?」



陣は燈輔のことを聞いてみることにした。


「毛が抜け落ちるのー!知らなかった....

だから、クソ親父はあんなに大量のいなりを……(笑)」


沙希は笑いを堪えきれず、

腹を抱えて笑い出した。


「ねぇ〜ジン。イクラと鮭は?

いなり寿司だし、あるよね!?」


「いや、そんなもん入れといたら、どっかの狐に食われるから。」


ナイナイ、陣は作業に戻ってしまう。


「沙希、一般的家庭のいなり寿司に、イクラなんて入らないから。


どうしても食べたいなら、ジン君の家から出てってね♪」



「そう、そう

未琴にわざわざ、ワタシ達の家に来てもらわなくても、

ジンと二人っきりで何とかできるから♪」


いつの間に着替えたのか、沙希はエプロン姿である。


「だいたい、人間なんかに美味しいいなり寿司が出来るはずないじゃん!!」


「何をー!

勝負よ。どっちがジン君好みのいなり寿司を作れるか!」


とうとう、二人が喧嘩もとい生産体制をとってしまった。

男の陣がここから追い出されるのも時間の問題だった。


『ピンポーン』


誰か来たようだ。


「はい、どちら様〜。

あ、清!久し振り」


玄関先に立っていたのは燈輔の妹、清だった。


「お久しぶりです、ジン様。

年明けの茶会以来ですね。


今日、兄さんの我が儘につきあわせちゃったみたいで、何かすみません」


「いや〜、未琴と沙希ががんばちゃっているから、特に問題ないよ!


ところで、いなり寿司を食べないと、ハゲるとか抜けるとか………」


「あ、あれ信じてらしたんですか!?

ふふふ♪なんか、悪いことしちゃいましたね(笑)


あれはウソです♪」


清は着物姿でうずくまると笑い始めた。


「あれは兄さんが、いなり寿司を沢山食べたいからついた嘘ですよ♪

事実、私はいなり寿司が不得手で、これ、持ってきました!」

清は大きめな包みを陣に渡した。


「お!散らし寿司かぁ!

最近食べてなかったんたよな♪」


包みを開けると、魚介類をふんだんに使った散らし寿司が入っていた。


「清、上がってくれ!

燈輔さんが来れば、食べ始めるから」


「恐れ入ります。」


清はちゃっかり、上座に座った

「出来たよ、ジン君!

わたしの愛情が詰まったいなり寿司を♪」


「ジン、食べて!

いなり寿司の希望と可能性を見事にコラボしてみたの!!」


うわー、とうとうやっちゃいましたよ。この狐.....


「正直に言うてみ、あんさん何を入れたん。」


陣の口調が可笑しいのはさておき、沙希の創作料理は時代の最先端を追い越してる。


彼女はとんこつラーメンに牛乳をいれ、クラムチャウダーのようだと完食したし、

他にも、半チャーと半うどんという新たなセットを編み出した。


「これなんてどう!胡麻ドレなり寿司。


意外に高いいなり寿司のカロリーを抑え、新たに酸味を加えてみました♪」


一見、普通のいなり寿司だったが、そこに胡麻ドレッシングを沙希はかけた。


「い、頂きます.....」


陣は未知のいなり寿司を口に運んだ。


「どう!ジンの評価は……」


いや、不味いでしょうとばかりに未琴は顔を歪めたが、

陣は意外にも......


「不味くはない…、ごま油の風味がなかなかいいかも!」


「でしょー!試食はしてないけど、絶対合うに決まってんじゃん!!」


沙希は自慢げにそんなに大きくない胸をはった。


「じ、じゃあ〜私のいなり寿司食べなさいよ!

一般常識ってものを思い出させてあげるわ!!」


未琴は一般常識的ないなり寿司を陣に差し出した。


「ん〜、何か微妙。

沙希のいなり寿司がさっぱり系だったから、味が濃…ふべらっ!!」


未琴が陣の左側頭部を膝でかちあげた。


「ジン君?もう一度よく噛みしめて考えて、チャンスをあげるから!」


いや、感想にチャンスもないでしょ。

と、ツッコミ返そうとした陣だったが、未琴のすごい剣幕に押されている。


「へたれ...」


清がぼそりと確実に聞こえる声で呟いた。


「ウルサい!清、ちらし寿司でも食べよ!

俺、清の料理がたべたいなぁ〜」


陣の猫なで声に、清の理性と遠慮というものを消し去った。


「ジンさま、私のことをそんな風に想って頂けたと.....


さぁ、ジンさま、私のところへ。」


清は物腰柔らかに話しているが、実際は.....


「清!何で、俺に乗ってんの!

流石に読者含めた、たくさんの皆さん前で何やってんだ!」つまり、陣は清に馬乗りにされてますね。ハイ


「ついでに私もいるのだがな。

最近、私のキャラがカマ風になっているんだが、

どう思う陣。」


いつの間にか、

きていた燈輔がいなり寿司をほうばりながら、自分のキャラについて語る。


「どうでも良いじゃないですか!今、アナタの妹に襲われいるんですよ。」


「何言っているんです?

私はフレンチキスで、ちらし寿司を食べて頂こうとしているだけですから♪」


「フレンチキスって、触れるだけって思われがちだけど、


実際、濃厚なキスのことを指しているらしいな。」


ここで、燈輔の無意味な雑学が炸裂した


「気づきませんでした、ジンさまはちらし寿司より、清の唇を......」


清は顔を真っ赤にして俯き、

震える声でその恥ずかしいセリフを言い、

下にいる陣に覆い被さった。


「ジン君は渡さない!」


未琴は陣の足を持つとそのまま、下に向けて引っ張った。


「のぉおおおおお!!」


現実、そんなうまくいくわけなくTシャツが捲れ、

陣の背中にダイレクトに床とこすれた。


清から離れた陣だったが、背中に駆け巡る激痛にのたうち回っていた。


「ジン、大丈夫?」


沙希が駆けつけたのが、また不運だった。


「きゃっ!?」


沙希の素早い動きにテーブルが邪魔だったらしい。

陣の太ももに沙希のかかとがダイレクトに踏み潰した。


「ぎゃあああああ!?」


陣の悲鳴は生きている人間のものじゃなかったと語る燈輔氏。



「陣叫ぶ、


痛み忘るるは


何処かな。」


字余りと、燈輔はしみじみといなり寿司を噛み締める。


「一服してないで、燈輔さん!

早く助けて下さいー!!」


そこには妖怪二匹と人間に追い詰められ、ガタガタ震えるジン君。


「良い人生じゃないか。」


燈輔はやつれる陣を肴に、いなり寿司を鱈腹食ったとさ。



おしまい......。

5月の国家試験を受けて以来の更新となります。 作者は何とか受かりました(祝!!)

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