拾っちゃった話。
「おかえりなさいませご主人さ」
ま。と出るはずが、そのひと文字だけ喉の奥へ忘れもの。
何でしょう?
それは違和感だとか、いつもと空気がちがうだとかそういうレベルではなく、ひと目で明らかにわかる具体的な異物のせいでしょう。
ご主人様+1の存在が目に入ってきたからでしょう。
「拾っちゃった」
そう言ってお茶目にはにかむマイマスター。
その足元に絡みつくように幼女がちらちらり。
ついでに三角の耳もちらちらり。
「金華猫の子供だよ」
「迷子ですか?」
私は心の中で渦巻く、いやーな予感というものを顔に、声に出ないように目一杯ナチュラルに振舞うのです。
しかし、ご主人は眉根を寄せて「んー」といった顔。
その顔を見て、私のいやーな予感は、すでに「マジかよ?」という気持ちに進化します。
「ねえねえお兄にゃん。これだれ~?」
お兄にゃん……だと?
邪気のない声で、礼儀などまだわからないとばかりに幼く私を指差し、さもそこが自分の定位置だとばかりに膝元からご主人を見上げる猫娘。
「僕の友達ふーちゃんだよ。今日から一緒に住むから仲良くしてね」
やっぱり……。
「よろし……くにゃん」
恥ずかしそうにそう言うと、ご主人様の陰にすっぽり隠れる。
「とりあえずお風呂に入らなきゃね」
「よ、用意は整っております」
私のその言葉に、ご主人様の足元から再び出した顔は、とんでもない事を言いやがりました。
「あいにゃんも一緒に入ってい?」
はあ?
あいにゃん!?
「アイタナって名前だからあいにゃんだよ。僕がつけたんだ。かわいいよね」
かわいい。
『ふーちゃん』より五千倍かわいい。
「それはともかく、アイタナさん一緒にお風呂に入るというのはダメいけません。ご主人様があがってから私と一緒に入りましょう」
「やだー! あいにゃん、お兄にゃんと入るー!!」
「仕方ないなぁ。じゃあ、一緒に入ろっか?」
……イッショニハイロッカ。
この言葉はどこで句読点を打つののが正解なんでしょう?
名前でしょうか? 略して『アイタナ』ってことでしょうか?
『イ』しか合ってませんけど。
そんなふうにして私は一生懸命、自分の耳を疑うも安心なことに、残念なことに正常だったようで。
「あいにゃん汚れちゃってるから、きれいにしないとね」とご主人様。
「な、なりません! なりなりません!! お、女の子ですよ?」
「そうだよ。あいにゃんは女の子だよ」
「いえ、そうではなくってですね、男女が裸で一緒というのは……」
「あいにゃんはまだ子供だから」
と、はははと笑うご主人様。
あんただって子供でしょうが!
それに十一歳って言えばもうそろそろ、薄らと、ひょろひょろと……いけません!
「いけません!」
思いの強さがそのまま口から飛び出ます。
「ふーちゃんは考え過ぎだよ」
「じゃあフランシスかもご一緒します!」
あわよくばと心の弱さが口からこぼれます。
「ダ、ダメだよ! ふーちゃんは!!」
「どうしてですか!? どうして、どこが、どのようにダメですか? 直します! 今スグ! 早急に緊急に特急に!!」
「だ、だって、ふーちゃんは……お、大人だから」
「子供です! フランシスカ三歳! 幼児です!!」
「ムリだよ! そんなしっかりした三歳児いないし、そんな大きな……その……」
そういってご主人は頬を赤らめながらチラチラと私の胸に視線を送ります。
自慢ではありませんが、私の胸は十六にして完成されております。
自慢ではありませんが、お椀型でかなりいい形をしております。
自慢ではありませんが、あと百年はこのままキープできます。
しかし今はそれがすべての障害となっているというのです。
私から近付こうとすればするほど、この胸がご主人様を弾き返してしまうのです。
ただ、これは包み込みことだってできるのです。
そのために女の胸はふたつに別れてあるのです。
「フランシスカもご主人様とお風呂に入って色々いっぱいしたいです!」
「色々いっぱいって何? 体洗うだけだよ?」
「もちろんです! 体を洗うだけです。何も見ませんし、どこも触りませんし、舐めませんし」
「何で禁止事項が増えてるの?」




