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初めてと始めについてのお話。

 世に言う晴天の霹靂というのが訪れたのは私が十歳の誕生日(つまりは館の前に捨てられていた日ですね)から、ふた月ほど経ったころです。


 その日、夕方になると店の手伝いの手を休めるように言われ、ご主人からドレスを頂戴しました。

 そのドレスは私には少しばかり大きく、肩の部分が少しずり落ちましたが、それよりもお姉さま方と同じものを着れたことに私は大層感激しました。


 店の奥でドレスに着替え終えてフロアに顔を出すと、まだ開店前だというのにすでにお客様が席に着いていらっしゃいました。

 どの方もよくうちのお店に顔を出してくださる方ばかりで、私はそのすべての方の膝の上に座って育ったと言ってもいいほどです。


 早くも店の半分の席が埋まったところでお店の扉がもう一度閉められました。

 ただ、どのテーブルにもお飲み物もお料理も出ていなかったので私が心配になりましたが、もっと驚くことが起こったので、そのことはすぐに気にならなくなりました。


 ご主人様は、私の腋の下から腕を出しこんで持ち上げるとそのままテーブルの上に立たせます。

 そして続いてご主人さまも私に並ぶと恭しく一礼し、先日私に大人の女としての印があったことをお客様方にお披露目します。


 私はびっくりし、恥ずかしくてたまらなくなりましたが、お客様が皆さんが喜んでくださったので、私も頑張って笑顔を返します。

 それを見たご主人様が頭を撫でて褒めてくださいました。

 やったーってな具合です。

 そして、ご主人が声を張り上げます。


「第一夜、銀貨八十枚から!」


 銀貨一枚あれば大人二人が露店を食べ歩いて十分満足できるわけですから、

 つまりはこの場合、大人百六十人をそうさせることができるわけで、

 つまりはかなりの額だということなのです。


 ただご主人様の声のあとには、お客様の声が次々と飛び交い、その数字はどんどん上がっていき、最終的には二百五十にまで到達しました。

 そこで声が止むと、ご主人様が「銀貨二百五十枚おめでとうございます!」と拍手します。

 同時に他のお客様も皆様拍手なさるので、私も遅れてはいけないと慌ててパチパチと手を叩くと、二百五十と最後に叫んだお客様が帽子の下から嬉しそうな笑顔を見せました。

 そのあと『第七夜』まで続いたそれはあとに行くほど飛び交う数字は減っていきました。


 さて、ここまでくれば真っ当な紳士ならすでにおわかりになるかと思います。

 わからないという方はおそらく紳士ではないのでしょう。

 

 のちに知ることになるのですが、私はが育った場所は娼館。

 つまり男性のお客様が欲望のたがをはずすためのお店だったわけです。

 そして数字は私の『初めて』の夜を一としたカウントとそのお値段でした。

 まぁ、それほどまでに顔はもちろんのこと、耳や尻尾に至るまで私のすべてが愛らしかったということです。


 それからどうなったかと申しますとどうにもなりませんでした。

 その日の夜がまん丸い満月の夜でしたので、ベッドのシーツは私の『初めて』の赤ではなく、お客様の『最後』の赤で染め上げられたというわけです。

 どうも私の人狼としての血はずいぶんと遅咲きで、初潮とともに目覚めていたようです。


 さてさて、齢十にして素手で臓物を抉り取ることに成功した私は、その晩の内に館中を同じ赤で染め上げます。

 簡単でした。

 私が入ると決まって重なり合っている一組は、まず驚いた顔でこちらを見ます。

 薄暗い部屋の中、私の顔に付着した赤色を判別できるくらいにまで距離を縮めたときには、見た目からして低品質なレア肉の串刺しの出来上がりというわけです。

 中には私を見るなり喜びに顔を歪めるお客様もいらっしゃいましたが、結果は同じことでした。

 どうしてお姉さま方までも……。

 そう思う方もいらっしゃるのでしょうか?

 私からしてみればどちらも同罪です。


 最後に残ったご主人様には大切に育てていただいた御恩がございましたので、その分だけ真心を込めて、手間暇をかけて選り分けました。


 本能ってすごいです。

 徐々に痛みの濃度をあげていけば、人ってそう簡単には意識を失わないってことを私知っていたんです。

 ですから、いきなり爪をはがすなんてまねはしてはいけません。

 まず肘からです。どうですかこのマニアックな部位? 痛覚が薄いんですここって。

 続いて背中と首筋の肉を少しずつ割いていきます。

 痛みはほとんどないのに、自分の血で床が染まっていくのが一番クるらしいです。

 で、ですよ。それからですよ。爪は!

 何でも美味しいところは最初でも最後でもダメなのです。


 さて、いつの間にやら話の方向性が少しマニアックになって参りましたが、これが私がのちに『フランシスカ』と呼ばれるようになり、現在の『ふーちゃん』となるまでの始まりのお話です。


 少々話が長くなりました。

 ご主人の愛猫のミミが扉の前で鳴いています。

 どうやらご主人様がお戻りになられたようです。

 

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