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86 小父さんの気持ち、あたしの気持ち

いつもありがとうございます。

「あ、あっつ~~い!!でも終わったぞ、どんなもんだい!」


と、叫ぶ女。それは桜川菜子。別に良いもん。侑吾君と彰君は二人仲良くプールに行って、留守番しているけれど、いじけてなんかないもん。紛らわすために叫んだんじゃないもん。水着にはなりたくないし、日焼けはしたくないし、暑い中外をウロウロするなんてもっての外。あ~家って最高!

……嘘です。寂しいです。あたしの心を癒す彰君の頼みなら、山でも海でも耐えてみせる!って思っていたのにー!

明日やろう明日やろうと思っていたら、花火大会が明日に迫っていました。椿と美穂が泊りに来るのに、家の中は片付けていません……。

明日やろうはバカ野郎。と誰が言ったか知らないが、身を以て知りました。

ヤバい!!と夏休みボケから我に返り、可愛い彰君からの誘いも涙を呑んで断って掃除に励んだしだいです。それがやっと今、終わった!


綺麗になった床に大の字で寝転ぶ。誰も見てないから良いよね。だって自宅だし。まぁ、寮でも自室なら恥ずかしげもなく床に寝転ぶけどさ。


「あ~、冷たくて気持ちいい……」


……侑吾君と彰君、今ごろ何しているのかなぁ。かき氷とか、食べているのかなぁ。

プールに行っているのに、何をしているかで浮かぶのが食べ物って……。あ、そうだ。お昼まだだった。

なるほど、だから食べ物か。うん、納得。

たしか冷蔵庫に豚肉とレタス、あと素麺があったはず。よし、サラダ素麺にしよう。


昼食の準備をしながら考えることはすでに夕食のこと。今日は恵さんが居るので隣で頂くことになっているから良いとして、明日の朝と昼、明後日の朝くらいまでの食材は揃えておかないと。ほら、ね。一人大食選手権を開催しちゃうルームメイトが居るからさ……。あたし一人分の食材なんて幻のように消え去ってしまうでしょう……。

いや、良いんだよ?料理好きだし、美味しいって言ってもらうと嬉しいし。ただね~、買い物がね~。

作り終えたサラダ素麺を食しながらチラリと外を見る。

直射日光どころではない、アスファルトの照り返しもキツソウデスネ……。


ズズーっ。パクパク。シャリ……。

あ~、早く車の免許欲しい。まだ二年以上もあるなんて。受けたら一発で合格する自信あるんだけどなぁ。なんてったって二回目の人生ですからね、経験はフル活用しないと。初乗りで教官を吃驚させちゃうぞっ!

そんなこんなで昼食後、一休みして自転車の荷台にカゴを乗せて買い物に出かけた。所帯染みているなんて言わないで。これも生活の知恵です。

本当は涼しくなってから出かけたいところだけど、三橋家でご馳走になる以上、お手伝いしなければ!働かざる者食うべからずです。


スーパーは生鮮食品があるので冷房利きまくりで天国でした。ご自由にお使いくださいの氷をありがたく頂戴し、食材と一緒にカゴに入れ、自宅に急いだ。

家に着き、荷物を中に入れていると侑吾君と彰君がちょうど帰宅してきて、肌を出していたところが見事真っ赤に焼けている。

だから日焼け止め持っていきなって言ったのに……。


「ただいま、なっちゃん!」


よほど楽しかったのか、いつもより声が高い。

腕白でも良い、逞しく育ってほしい。で・も・ね!焼き過ぎ注意!痛いから、それ。明日は花火大会だよ?はしゃぎすぎでしょ!?

毎年毎年、なんで学習しないのかなぁ……。それが男の子ってやつなの?


食材を冷蔵庫に入れてから三橋家に向かった。あたしが来ることは知っているから、チャイムを鳴らすことなく家に上がる。

前にチャイムを鳴らしたら必要ないって言われたんだよね。それからは押すことは無くなった。それで良いのか疑問だけれど、家主が良いと言うなら従いましょう。

キッチンに行くと恵さんが居て、手を洗ってさっそくお手伝い。侑吾君たちはお風呂に入っているみたい。なんで分かるのかというと、わきゃわきゃと楽しそうな声が聞こえてくるから。


夕食を作り終え、お鍋とかを洗って片付けていると「ただいま~」と玄関から声がする。三橋家の家長のご帰宅だ。

キッチンに入ってきた小父さんは、あたしを見て「久しぶりだね~」と笑う。

三橋健吾さんは兄弟二人とそっくりだ、兄弟の髪色は父親譲りだろう。

小父さんは良い人だ。基本はね。恵さんがさっぱり系で、小父さんはしっとり系という感じ。


「恵と一緒にご飯作ってくれたんだ、ありがとう」

「いえ、いつもお世話になっているのはこちらなので」


本当に家族そろってお世話になりっぱなしです。頭が上がりません。

小父さんはニコニコしながらあたしをじっと見て、ほんわぁ~と表情を緩ませた。


「ああ、やっぱり女の子が家に居るっていいね。菜子ちゃん、やっぱり侑吾と結婚してお嫁においでよ」

「……結婚しなくても、あたしは家族のつもりですよ?」

「名実ともに家族っていう繋がりが欲しいんだよねぇ。お似合いだと思うんだ、菜子ちゃんと侑吾。親バカって思われるかもしれないけど、侑吾はお薦めだよ」

「そうですねぇ……、あはは……」


もう、乾いた笑い声しか出ませんでした。というか、やっぱりって何?

小父さんは良い人だ。奥さんを愛しているし、子煩悩。いわゆるイクメンというものだと思う(イクメンって言葉はあまり好きではないけれど、今は置いておくことにしよう)。

しかし、中学に上がった頃からやたら侑吾君との結婚を薦めてくるようになった。いくらなんでも気が早すぎだ。悪気はないと分かっていても、こちらにその気がないのだから対応に困る。

小父さんの気持ちも分からないでもない。居心地が良過ぎるんだ、ここが。だからあたしが侑吾君と一緒になれば、この居心地のいい幸せがずっと続くと信じている。

関係が壊れるのは嫌だけれど、そういった感情が無いのに頷くことはできない。確かにゆっくり育てて行く愛もあると思う。でも、あたしの中にある侑吾君に対する愛は家族愛なんです。

前世とかゲームとか抜きにしても、それ以上は考えられない。それほど特別で唯一無二の大切な人。

困ったあたしを見かねて恵さんが助けてくれた。諌められ謝罪をするが、諦めた訳ではないようだ。


決して結婚を諦めた訳ではないけれど、食卓では一切その話題は出なかった。というのも、侑吾君の前では話さないというのが小父さんの中で決めていることらしい。器用ではない侑吾君にこんな話をしたら変に意識をして、上手くいくものもいかなくなると考えてのことらしかった。

まぁ、確かに?侑吾君は器用ではないけれど、だからと言ってあたしに言わないでほしい。いや、マジで。



その日は掃除で疲れていたし、明日は花火大会だから椿と美穂を迎える準備もあるので、早めに寝ることにした。



「呼ばれて飛び出てじゃじゃじゃじゃ~~~ん!!」


――……。


「あっれ~?返事が聞こえないなぁ。あ、もしかしてアンコール?じゃあ、ご期待にお応えして……。呼ばれ――」


――いいから!聞こえてるから!!


なんなのこいつ!本当に神様なの!?絶対違うでしょ!そこら辺の浮幽霊とかのほうがよっぽど納得できるよ!


「もう~。それならそうと言ってくれないと、呪っちゃうぞっ」


――……は?


呪う?何を言っているの、こいつ……。やっぱり神様じゃなく悪霊系?


「う・そ。嘘に決まってるじゃないか。わざわざ転生させて呪い殺すなんて、そんな回りくどいことしないよ~」


ヤバい。こいつの思考はかなりヤバい。たとえゲームで死ななくても、この神様に殺されるんじゃないの、あたし……。


「あ、こんなこと話しに来たんじゃないんだよ。大切なことを伝えに来たんだ」


――大切なこと?


「うん。……とても嫌な感じがする。僕に先見の力はないけれど、感じるとこはできる。君の周りに嫌な気配が纏わり付く予感がするんだ。僕にはそれを助ける術がない。僕にできるのは精々こうやって忠告してあげることくらい」


――嫌な気配……。どういうこと、何が起こるの?


「分からないんだ。でも、君の気配が薄くなる……。凄く嫌なことになる……。死ぬよりもっと辛いかもしれない……」


――死ぬよりもっと辛い嫌なこと……。ということは、死ぬわけじゃないのね?


「うん。この先の未来にも君は居るよ。でも、酷く薄い……」


どういうことなんだろう。あたしが馬鹿なのかな、意味が分からない。死ぬことは無いが、もっと辛いことってなに……?


「ごめんね、混乱させて。どうしても言っておきたかったんだ。……ねぇ、今の人生は楽しい?」


――なに、急に。楽しいよ、両親は優しいし、友人には恵まれたし。ちょっとは貴方に感謝しても良いかなって思えるくらいには幸せだよ。


「そっか、良かった。じゃあ、もう一人で隠れて泣いてないんだね」


――それっていつの話?もしかして転生前のこと?でも、あたし部屋以外で泣いたことなんて……。


泣くときはいつも自室の机の下だった。膝を抱えて声を殺して、誰にも見つからないように。でも、自室ですら泣けないときに唯一行っていた場所がある。それは家の近くの古びた神社だ。そこの裏には小さなお社が在って、そこの前ではなぜか泣くことができた。

その場所にあったのは……。


「僕はずっと君の幸せを祈っているよ。君なら絶対大丈夫。だって、もう一人じゃないんだから……。また、会おうね」




目が覚めると、カーテンの隙間から眩しいくらいの光が部屋を照らしていた。

あたしは横になったまま両目を手で覆う。


「それならそうと、言えばいいのよ、バカ……」


きっとシュラは言わない。あたしが気づくのを待ってる。

もう、分かったよ。

次に会ったら名前を読んであげよう。そして、殴ってやるなんて考えてごめんね、って言おう。きっとびっくりする。え、そんな物騒なこと思っていたの!?って。


「ありがとう」


朝日は痛いくらいに眩しいけど、その眩しさがうれしかった。

だって、シュラが与えてくれたから感じることができる。当たり前になると忘れてしまうが、生きていることがどんなに素晴らしいか思い出させてくれたから。

次回もよろしくお願いします。

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