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85 ただいま我が家

今回もよろしくお願いします。

五嶋先輩とのデート?の後、寮に帰ると帰省届を出し、荷造りをした。そして次の日には実家に向けて足を進めていた。

実家の最寄り駅に着いた時点で、「このくそ暑いのに何で昼間に帰省した、あたしの考え無し!!」と意気揚々と寮を出た自分を呪う。しかも、侑吾に連絡をしていなかったので、実家の玄関に鍵を差し入れた瞬間、隣家の窓が勢いよく空き、「菜子、何で連絡を入れないんだ!何かあったらどうするつもりだったんだ!」とあなたはあたしの父親ですか?なセリフの嵐。騒ぎを聞きつけた彰君に「兄ちゃん、近所迷惑だろ!」と注意される始末。どんどん頼もしくなる彰君。将来が楽しみだ。

二人のやり取りを聞きながら、あ~なんか平和だなぁ。帰って来たって感じ。とほのぼのしていたが、現実逃避している場合じゃなかった。彰君に怒られながらも侑吾君がこちらに来る気配を察知する。

ヤバい。雷落とされる。でも、今回は忘れた宿題という弱みの武器がある。お説教はされたとしても、短くなるはず。


「菜子……っ!」


乱暴に開けられた我が家の玄関。

ちょっと、丁寧に扱ってよね。壊れたらどうするのさ。この真夏に外気と同居しろって言うの?

忘れ物の入った袋を見て雷親父は目を見開き、この紋所が~じゃないけれど、それを突き出すと「う゛っ」とのけ反った。


「同室の子が居なかったので、二宮君に頼んで取ってきてもらいました」

「それは、どうもありがとうございました」


お互いなぜか敬語。少しの沈黙があり、目が合うと思わず笑い合う。

幼いころからしている何気ないやり取り。他人から見ればくだらないかもしれない。でも、あたしにとってはとても大切で掛け替えのないものなのだと、今ならはっきり分かる。

蓮も菜子も同じ心を持ったあたし自身なんだから、喜怒哀楽を感じることの愛しさを、もう受け止められる。以前とは違った自分だと、侑吾君と話して感じるとこが出来た。


「おかえり、菜子」

「うん。ただいま、侑吾君」


生まれ変わってからずっと住んでいた家のはずなのに、やっと本当に帰って来た。そんな気がした。




落ち着いたところで家に上がった。部屋に荷物を運んでいる間に、侑吾君は家中の窓を開けてくれている。

夏だからか空気が籠って重い。荷物を片付け下に行くと、さっそくリビングでテレビを観ながらくつろぐ侑吾君が居た。

さすが勝手知る隣家。君はいつの間にブレーカを上げたんだ?

そしてふと思い出す。


「ちょっと、彰君家に一人なんじゃないの?」


三橋家の両親は仕事で居ないはずだ。小学生の彰君を家に一人には出来ない、だから侑吾君が夏休みに入ってすぐ帰省した。なのになんで君はここでくつろいでいるのでしょうか!?

侑吾君は渡した課題を無造作に床に置き、ソファに座っていた。あたしが声をかけると「え~」と反抗。


「え~。じゃないでしょう!こっちに居るなら彰君も呼んでよ」

「大丈夫だよ。彰吾は俺よりもしっかりしているし、何かあっても隣だから直ぐに行けるし……。てか、ちょっとだけでいいから彰吾から逃げたい……」


弟から逃げたいって、なにそれ……。

どことなく小さく見えるいじけた背中。何があったんだと考え、あっと思い当たる。そう言えば、あたしが彰君に見張りを頼んだんだった。

あんな些細なお願いも真剣に守ってくれる彰君……。はぁ、最高。超イケメン。将来有望株間違いなし。さっそく水族館で買ったお土産を渡しに行かないと。


「じゃあ、ここにいて良いよ。あたし、彰君のところに行ってくる」

「はぁ!?なんで?俺が逃げたいとか言ったからか?」

「違うよ、お土産があるの。それを渡しに行ってくるんだよ。ま、侑吾君には悪いけれど彰君呼んで来るから。もうちょっと涼しくなったら三人で買い物行こう?我が家の冷蔵庫は空っぽです」


本当にすっからかんです。誰も居なかったから当たり前なんだけれどね。

言いながら自室にお土産を取りに行く。机の上に出したばかりの彰君へ渡すフィギュアと、侑吾君へのお菓子。そして……、一条先輩から頂いたブレスレット。

なんとなく寮には置いておけなくて持ってきてしまった。置いてきたら先輩の気持ちまで寮に残してしまうような気がして。

ブレスレットをそっと手に取る。つるっとした感触と冷たさ。持っていると自分の熱で温かくなる石。それはまるで一条先輩そのもののような気がした。

みんな変わった。前に進んでいる。今度はあたしの番だ……。




「はい、宿題を頑張ったことと、彰君のお兄ちゃんお疲れ様のお土産だよ」


リビングに戻るとまず、侑吾君に渡した。ぱぁっと目を輝かせる。

ふふっ、子供みたい。


「サンキュウ、菜子。俺、これ食って待ってる」

「うん、直ぐに戻ってくるから」


自宅を出ると三橋家に。チャイムは鳴らさず、そのまま玄関のドアを開けた。


「彰くーん。ただいまー」


すると、バタバタと忙しない足音が二階から降りて来た。


「なっちゃん!」


言いながら両手を広げて飛び込んでくる仕草は正に天使。

受け止め。ギュッと抱きしめると久しぶりで照れているのか、恥ずかしそうに「おかえりなさい」と言った。

あたしは顔が崩れないようにするのに必死でした。五嶋先輩の言うとおりです。人は何かしらの変態です。ええ、自覚は充分ありますとも。でも良いじゃない!実害がなければ。彰君も幸せ、あたしも幸せ。何か問題でも?


「侑吾君のこと見ていてくれたんだね、約束守ってくれてありがとう。はい、これお土産だよ」

「ありがとう!なっちゃんとの約束だもん、当たり前だよ!」


かっ、かわいい!!

ホント、大きくならないでこのままでいて欲しい。お姉さんの切なる願いです。だって、必要な時期だとは分かっているけれども、反抗期が来て「うぜぇんだよ!」とか言われたら、あたし立ち直れません。膝から崩れ落ちてしまいます。

だからどうか!絶対に無理だと分かってはいますが、神様お願いします!

ん、そういえば最近バカ神の夢を見てないような……。お腹でも壊したかな?

一人で百面相をしていたら彰君に心配されてしまいました。

いけない、いけない。あたしったらなんて失敗をしてしまったのでしょう。彰君が生まれてから今まで、彰君の理想の姉であり続けようと誓ったじゃない(自分の欲望のために)。

気を取り直して……。


「それじゃあ、ウチに一緒に行こう。侑吾君も待ってるよ」

「ほんと?兄ちゃん、最近オレの顔見ると怯えるんだよね……。なんでだろう、お母さんのまねして勉強してるか見てたからかな?」


ひくっと口角が震えた。決して笑いを堪えてではない。情けなさで思わず反応してしまった。

なにやってるのよ、侑吾君たら……。

そんなことで弟を不安にさせてどうするのよ。

ここは幼馴染としてフォローしておこう。


「大丈夫だよ。彰君のこと褒めていたよ「俺よりしっかりしてる」って。侑吾君は勉強があまり好きじゃないから、疲れちゃっていたのかもね。だから今日は息抜きしよう?」


彰君はぱぁっと目を輝かせた。お菓子を受け取った時に見せた侑吾君の表情そっくり。さすが兄弟。

まったく!弟を不安にさせるなんて情けないお兄ちゃんだ。


「あ、そうだ。今日、お母さん遅くなるからなっちゃんと一緒に食べなさいってお金預かったの。兄ちゃんにお願いねって言ってたけど、なっちゃん聞いた?」

「そうなんだ、知らなかった。教えてくれてありがとう」


……あのダメ兄貴。すっかり忘れてたな。夕食どうするつもりだったんだろう。まぁ、何も考えていないんだろうけどさ。

しかし……、お金もらって外食っていうのも悪いよねぇ。元々この後、買い出しに行く予定だったんだし、作ってしまおう。と言うことで。


「久しぶりに三人揃ってるし、あたしが作るよ。彰君、手伝ってくれる?」

「うん、もちろん!」


三橋家の戸締りをし、何作ろうか?と話しながら自宅に戻ると、きっちり3個お菓子を残して、ソファですやすやと侑吾君が眠っていた。それを見た彰君は呆れていたけれど、食いしん坊のお兄ちゃんが何でお菓子を残しているのか分かったのか、少し嬉しそうに「しょうがないなぁ」と呟いた。


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